書巻夏の日の産屋敷家で書巻の巻物が縦横に広げられていた。御家流の文字目を広い座敷の畳の上に幾本も走らせて、その真ん中に耀夜がいていつものように微笑んでいる。二人とも本は読む?悲鳴嶼と実弥は廊下のその場に手をついて答えた。
「とんと縁がございません」
「右に同じくゥ」
「そうか。どうも私も難しそうな鬼を強そうな柱に回してしまうから……」
強そうと聞いて、実弥が少し顔を上げた。お館様に認められているのが率直に嬉しかった。
「書巻を得た書家が調べている内に消えてしまう。そして再び書巻は好事家や古物商の間に取引されて、引き取った一人が書巻を調べてまた消える。そういう風にして人を啖べているようなんだ。どの本か目星はついている」
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