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    どこにも行けなかったSS置き場 GKとMP100のみ(たぶん)

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    [セラサク]始まるかもしれない(そうでもないかもしれない)二人の話

    #セラサク
    #ジャイキリ腐
    jaiquiriRot

    言葉よりも あれ以来、距離が縮まったのは事実だった。それはいいことだと世良は思っていた。スタメンを争う関係性ではあるが、だからこそ険悪でないことが大事なのだ。今日も持ち前のヘラヘラした笑顔を貼り付けながら堺に話しかける。
    「堺さん、昨日何食べました?」
    「は?」
     何だよそれ、認知テストかよ……そう呆れたような声で返ってくる。ああ、微妙に失敗したのかもしれない。


     仲良くはしたいが、共通の話題なんてものはない。サッカーという最大級のつながりはあるものの、逆にいうとそれだけなのだ。年齢差のせいもあるのかもしれない。いや、それよりも人間性が違いすぎるのか。自分は落ち着いて物事を進めるのがめちゃくちゃ苦手だ。寡黙が服を着て歩いているような堺にとっては、存在自体が鬱陶しいのかもしれない。
     実際に、向けられる視線はおしなべて冷ややかだ。
     以前ならこれはチーム内の状況によるものだと諦めていたのだが、堺の対応が軟化した今となっては、その理由付けも叶わない。嫌われているわけではないのは分かる。ただ、その顔にはありありと書いてある。本当にお前はバカだなと。
    「俺好きでバカやってるんじゃないんですが」
     つい独り言のように口にしてしまう。堺の顔が、一瞬戸惑いに強張る。
    「んだよ突然」
    「いや俺だってつらいんすよ。けど頭回んないんだから仕方ないじゃないっすか。堺さんみたいに理路整然に話すとか到底無理だし」
    「なんでいきなりそんな卑屈になってんだよ」
    「堺さんがそういう顔すんのが悪いんじゃないすか」
     世良は大きくため息をついた。
     口にして、すぐに襲ってきたのは後悔だった。まるで言いがかりのような言葉だった。この後悔先に立たずを地で行くところも自分の浅はかさだと思ってはいるが、どうしても言葉が先に出てしまうのだ。
     しかし、世良の意志とは違うところで歩き始めた言葉は、それなりに効果があったらしい。「悪かったな、メシでも行くか」と堺はあっさりと誘ってきた。

     堺が連れて行ってくれた店は、浅草寺周辺に居を構えている創作料理系の居酒屋だった。時間が早いせいで客はまばらだ。ロールカーテンで仕切られたテーブルに腰掛けるなり、堺は世良にメニューを手渡してくる。
    「ここ食い物はそこそこだから。あ、今日はアルコールなしな。車だから」
    「了解っす」
     食事には気を使う人だけに、写真に映る料理の数々はとても美味しそうに見えた。油淋鶏風唐揚げとか帆立のアヒージョとか揚げ出し豆腐とか並んでいて和洋折衷もいいところなのも面白い。
    「堺さん何が好きなんです?」
    「何でも食うけどさ、もう色々考えてるうちに忘れかけてんな、そういうの」
    「色々って、栄養バランス的なヤツの話ですよね」
    「ああ。食いたいものじゃなくて食わなきゃいけないもの、って方にシフトしちまうんだよな」
    「あー、つらいっすねプロフェッショナル」
    「お前だってそうじゃねえか……」
     結局世良は堺のセレクトに任せた。前菜野菜肉類をバランス良く注文を入れていく姿を見つめながら、やっぱり堺さんはクレバーなんだろうな、と思う。
     賢い、ということはもしかすると、あまり楽しいことではないのかもしれない。行動が目的ではなく結果ありきになってしまう。ということは自分の心というものを見失ってしまうのではないか。堺が寡黙なのもそこに一因があるのかもしれない。言葉の行き先を考えているうちにがんじがらめになって、結局は口をつぐんでしまう、というのは自分にだって経験がないとは言えない。
     だとすると、こうして時間を共にして距離を詰めることに意味はあるのだろうか。自分は堺という人間を知っていきたいと思うが、堺という存在は一体どこにあるのだろう?
     テーブルに置かれたグラタンもチリソースもとても良くできていて本当に美味しかった。そのことを率直に告げると、堺は照れたように笑ってくれた。たぶんこの表情は作られていないものだと思うが、果たしてこの人が紡ぐ言葉に真実はあるのか。
     さすがにあの時にかけてくれた言葉、あれだけは本物だと信じてはいるが。

    「まあでもさ、だいぶマシになったんじゃねえの?」
     やがて、一通りの食べ物に箸が付けられた頃合い、堺が口を開いた。世良は顔を上げて堺を見つめる。視線はわずかに伏せられていたが、口元は笑みをともなっている。
    「マシ、って何のことです?」
    「色々だよ。プレイのこと……も勿論そうだし、言動とか、何というか」
     珍しく言い淀んでいる堺に世良はあっさりと聞いた。「少しはバカがマシになったっていうことですか?」
    「……言葉は悪いけどそういうことかもな」
     堺は眼差しを伏せたまま、ゆっくりと息を吐いた。

     これはある意味認められた、ということなのだろうか。しかし、これはいいことなのだろうか。少しずつ賢くなっていく、ということはもしかすると心を失っていくことなのかもしれない。大人になると子供の純真さが失われることと一緒で、自分からも何かが欠落していくのだろうか。
     あれほど能力の低い自分に思い煩っていたくせに、いざこうなると抵抗がある。
     自分もいつか堺みたいになるのだろうか? ……いや、それはないな。
    「堺さん、あざっす……」
     世良は口頭では礼を述べながら、じっと堺を見つめる。さっきからずっと疑問に感じていたことについて考える。どうしてこの人は目を合わせようとはしないのだろうか。まるで何か思い煩ったことがあるかのように、憂いさえもともなっている。
     その答えがさっぱり見出せない間は、とても賢くなれそうにない。世良は半ば諦めかけながらその表情をずっと見つめた。

    「お前の視線、マジ鬱陶しい……」

     やがて敗北宣言のようにその言葉が堺から世良に投げかけられるまで、ずうっと。
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    umi_scr

    DONE付き合って別れてまたすぐにくっつく芹霊のしょーもない話。
    性描写はないので年齢制限入れませんがわりに不穏です……。
    芹沢さんが女と付き合ったり倫理観がアレだったりするので何でも許せる方向けです。
    どうかご注意ください。

    バレンタインな話にするつもりがほぼ無関係などうしようもない話になりました。自分の性癖に忠実にごりごり書きました。こんなめでたい日にほんとすみません!
    別れても好きな人 何かの間違いで部下と付き合って別れて、もう半年になる。付き合った期間はもっと短く、たった四か月だった。けれど密度は数年にわたるお付き合いって程に濃ゆくて、しかしそれは別れたことの原因でもあった。

    「好きです……好き、みたいです……多分好きなんだと思うんです」
     始まりは飲みに行った帰り道だった。ずいぶん歯切れの悪い告白で、けれど「好き」という言葉を連呼しただけっていうのが実に芹沢らしいなと思いながら、俺はなぜかその告白を受け入れてしまったのだ。

    「ちょっと待て、あの夜は俺は酔っていたんだ……つうかお前酔って告白なんてベタなことやめろよ、ノーカンだからなノーカン」
    「霊幻さん往生際悪くないですか? 覚えていない、ってことはないんですよね? へにゃって笑って、『俺も好きだよ』って言ってくれたことを」
    6982

    umi_scr

    MOURNING支部にあげた「恋の話」(霊幻さんは芹沢と律どっちを選ぶのか?っていう話)
    プロット立てないで何も考えずに文章書いたらどうなるのか? っていう実験を芹沢一人称でやってみたら、導入で二万字行ったので驚愕したよね……
    このノリでやってたら永遠に終わらなかった。危なかった。

    勿体ないのでここに供養させてください。内容は支部に上げたものに近いので真新しいところは少ないです。導入なので中途半端に終わります!
    恋の話(リライト前) 影山君から家を出る、って聞いたとき俺は単純にすごいなあと思った。将来を定めた決然とした姿は、中学生当時の影山君とはまるで違っていた。あの頃から自分の考えをしっかり持った子供ではあったが、霊幻さんに選択肢をゆだねる頼りなさは年相応だった。いつの間にか成長していた姿を目の当たりにして、年月の重みをぐっと感じた。
    「芹沢さん、霊幻さんを頼みますね」
     はにかみながら俺にそう言った影山君もあの頃とはかけ離れて大人びていた。わかりました、と神妙に答えながら俺はふと霊幻さんのことを考えた。師匠と弟子、という単純な言葉では測れない絆みたいなものを日ごろから強く感じてはいるが、だとするとこの状況は彼にとってどうなのだろうか。まるで子供が巣立ったあとの母親のように、抜け殻になってしまうのではないだろうか? 俺だって影山君の姿に寂しさを感じなくはないのだから、霊幻さんならことさらだろう。
    21020

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