親父が休暇を取るらしい。
「地球に行くが、お前も来るか?」
「え?」
思わずそう返してしまえば、こちら以上にきょとんとした顔をされる。それが苦笑に変わる。
「お前にとっては、地球はそんなに愛着のある星ではないか。いや、サイドスペースの地球なら、馴染みがあるか?」
「ああ、いや……それぞれの宇宙として別々には考えてるけど、地球は地球だろ。……上手く言えねえけど」
こちらに理解を示そうとする考えは、誤解と言うほどではないが、そこまで深く考えたことはない。しどろもどろに返せば、ははは、と快活な笑い声で返される。この人のこういう、なんというか、さらっとしたところは、自分とは似ていないと思う。
「忙しいなら無理にお前も休めとは言わないさ。遣り甲斐も感じているようだしな。」
「それは、そうだけど……。」
オレだって親父と出かけたくないわけじゃない。寧ろ一瞬にいられるなら、それを望んでくれるなら嬉しいと思う。
だからこそ分からない。
地球は、あの星は、この人にとって特別な場所のはずだ。
それこそ、サイドスペースとかマルチバースとか関係なく。オレが関係ないと思う感覚とはまた別の感情で。寧ろこの人の方が、地球であれば、もっと見境ない。
そこへ休暇を使って足繁く通うことに疑問はないが、誰かを誘うなんて思ってもみなかった。
風来坊。
同じように地球に並々ならぬ感情を抱く、この人の兄弟、同じように、たった一人の光の巨人として地球を守った、例えば彼の親友のウルトラマンなら、誘う相手として相応しく感情。
けれど自分はそうではないと思う。
オレは、宇宙の平和のために戦って、その宇宙の一つである地球のために戦うのは、当然吝かではない。仲間の守りたいものと、仲間を守るために戦いたい。けれどこの人やこの人の兄弟は、地球が地球だから戦うのだ。
それがこの人とは違うと思う。同じように幾つもの星をふらふらしているようでも、孤独を疎い、仲間のために、仲間と共に、仲間がいるから、宇宙を守りたいと思う、オレとは。
「オレが行かねえっつったら、どうする……?」
こすいことしてると思う。
「休暇で地球に行くのは変わらないが、予定は変わるな。」
けれど親父は、オレが後ろめたく感じているのを気にした素振りもなく、そう答える。
「予定?」
「ああ。ドライブしようと思ったんだが、そうすると、隣に誰か乗せたくてな。」
ウルトラ族に地球人のような瞼はないが、今、ウインクするような仕草をした。誰か乗ってくれないかなあ、なんて言っている。
「地球の自動車……親父、運転出来るのか。」
「ウルトラ警備隊のポインターだって動かしてたんだぞ。」
そうだった。ジープも乗り回すんだった。
「たまに運転しないと、忘れてしまうからな。」
よく言う。
だからきっと、さっき言ってた、助手席に誰かを乗せて運転したいというのが本心だ。
「……たぶん、休み取れるから」
乗せてくれよ。
「そうか。」
爽やかな表情の親父は、楽しみにしている、と言った。
その隣にいられるのが、自分であればいいと、オレは自分の願いを叶えるために、その誘いを受けた。
たまたま、そう、たまたま会ったゼットとタイガに、なんとなく、うん、なんとなくその話をすると。
「ハルキ、酔い止めでございますか?いやだなぁ、師匠はマッハ7で飛行出来るんだぞ?」
「そう言えばヒロユキも、小さい頃は遠足の前とかに、鞄に入れてたなあ。」
「師匠じゃねえ。」
そういうことが聞きたかったわけじゃないんだが、要るのか、薬?一応用意しといた方が良いのか、薬?
「何はともあれ、師匠、楽しんで来たくださいね、デート!」
「……え?」
デート?
「……あのよ。もし、エースやタロウが親父と一緒に車で出掛ける場合も、デート、なのか……?」
「あはは、そうじゃないよ、ゼロ。こういうの、親子デートって言うらしいよ。」
親子、デート。オレが息子だから、セブンとデート