オベリスクの檻 月明かりは無い。
太陽の光も見えなくなって久しい。
湿った土と冷えた岩、獣油に芯を立てて揺れる灯火。
この身を包むリネンだけが優しくそれが腹立たしい。
「畜生‼」
水差しを叩き割り、盃を壁に投げつけ吠える。
赫髪を燃え盛る炎のように振り乱して頭を壁に叩きつけるが、二度目の自傷行為の前に壁一面が生い茂る蔦に覆われて自らの頭を叩き割ることは叶わなくなった。
「うぅ……あ……あぁ…」
常夜にして常世。混沌より分かたれし死者の廻る川。
禊裁き輪廻を繰り返す法廷の聳える冥界の名はドゥアト。
「あああああああああああああああああ‼」
その深淵にて王弟セトは咆哮した。
昏き流れの国に聳える巨大なオベリスク。その中でも一際異彩を放つ赤い方尖塔には魔力を帯びた文様が刻み込まれ、内部には外からの寸法に見合わぬ広さの空間が作られていた。
1994