【過去編】神功・九鬼VS薬師河・イロハ⑤「ねぇー、イロハちゃん。どれだけ姿を消してもニオイを消さないと〜。怖い怖い〜♡ってあまーいニオイがクッサイんだよネ〜」
「ヒィッ!やめっ……!」
「この髪って黒く出来るの?あーでも、水色のままでもいっか〜、顔だけ見てたら一緒だし、色違いもアリだね!」
「い、いだあぁぁあっ、髪っ、引っ張るでなぁっ!」
「はぁ……♡声が違うのがちょっとアレだけど、やっぱりイイヨ、イロハちゃん、その顔が歪むの最ッッッッ高!今までは黒い髪の赤い瞳の子をたくさーぁん殺してきたけど、顔が似てて色が違うっていうのもまたイイナァ……」
「ひっ………ぅっ!?」
逃げる間もなく伸びてきたてがイロハの首を掴んで地面へと抑え向けた。そのまま喉を押しつぶし、九鬼の指に力が入るとともに首が閉まっていく。イロハは色々な能力を有しているのに目の前の男に与えられる恐怖に屈服し、それ以上は能力が切り替わらなかった。喉を押し潰している手を必死に引っ掻いて、引っ張って足をばたつかせるがびくともせず視界が霞んでいく。
「啊……もう終わりか……やっぱりツマンナイなぁ……ボクを満たせるのはやっぱり、さ…………ッッ!?」
九鬼の瞳がゆっくりと三日月を描いて、指が深く頸動脈に埋まろうとしたその時、九鬼の死角から氷のナイフが飛んできた。それに気づいた九鬼が一本目をグローブで挟むとそのすぐ後ろの影にもう一本潜んでおり、首を締めている手を緩めたくなかったので体を捻って躱すとその氷のナイフは九鬼の頬を傷つけ床へと刺さった。九鬼がその行動が間違いだと気づいたのはその後だった。更にそのナイフが通り過ぎたその奥から薬師河悠都が足裏を前面に出して蹴り込んできたのだ。
体勢が悪かった九鬼は仕方なく両腕をクロスして受ける。しかし、九鬼のウエイトを持ってしても受けきれずに体がイロハから離れるようにぶっ飛んだ。
「ゲホッ、ガハッ……ぐ、ゆ、悠都ッッ」
「大丈夫?イロハ?……ちょっとイロハには荷が重かったかな……」
「悠都ッッ!なんなのじゃ、あヤツは!気持ち悪いぞよっ!妾はっ、わら、わ……はッ」
「落ち着いて、イロハ。アイツも君と一緒で場の空気読めないやつだから」
薬師河はイロハに駆け寄ると上体を支えながら起き上がらせた。そして直ぐに飛んでくる神功の槍を避ける為に氷のナイフを拾い、イロハを横抱きにしてから地面を蹴って茂みへと飛ぶ。
後から追いかけてきた神功は地面に刺さった槍を引き抜く。そしてそこにドコンッと床を壊すほど踏みしめて立ち上がる九鬼が戻ってきた。
「────ぁー、うっぜ」
「九鬼、すいません。逃しました」
九鬼の口調が荒くなるが神功はそんな事はお構い無しで、霧が深くなった辺りの気配を探る。その神功の制服は風圧で切り裂かれ所々に血が滲んでいるがそれよりも多くの返り血を浴びていた。そのざまにいつもなら気にする程ではない状態なのに九鬼が背後から冷たく殺気立つ。
「左千夫クンやられ過ぎデショ?」
地を這うような冷たい声と共に神功の手首を掴みにかかるが次は逆に燃えるような殺気が神功から放たれて、勿論腕など持たしてもらえず、九鬼の殺気が押し返された。
「致命傷はありません。九鬼、殺気立つのはいいですが今は邪魔です」
九鬼の殺気が強過ぎて薬師河とイロハの位置がわからないと言いたげに神功は九鬼を睨んだ。
九鬼は先ほどまでのイロハとのお遊び以上に神功の殺気に興奮し、体が満足感を覚えていく。矢張り自分を満たせるのは神功しかいないんだと再び理解するといつものおちゃらけた彼に戻った。
「ひど〜い!左千夫クンのせいで取り逃がしちゃったし!」
「悠都は強いので仕方ありません」
「もう話は終わったノ?」
「…………はい」
「じゃあ、もうアイツも殺してイイよね?」
折角抑えた九鬼の殺気が再び爆発する。神功は溜息を吐くがこうなったら止められないので放っておくしかない。
九鬼の気配が強過ぎて位置を探せなくなった為に支線を九鬼に戻して槍の柄先を地面へと付けた。
「殺す必要はないと思いますがね……生きたまま拘束で」
「無理そうカナ〜」
そんな二人のやり取りの最中。
神功と薬師河が起こしていた霧が晴れていった。