【過去編】神功・九鬼VS薬師河・イロハ④一方その時九鬼の能力によって二人から引き剥がされたイロハはコピーしたリトーの能力である〝植物〟を駆使して、九鬼が作り上げた地面の手から逃げ出す。
軽やかに華麗に着地するさまを九鬼はうっとりと見つめるがザワザワと肌を凍てつかすような殺気は放ったままで、機嫌の悪さを全面に出していたがイロハはそんな事はお構い無しであった。
「お主は妾の事が好きなのであろう?
跪いて許しを乞うなら助けてやろうぞ?」
「残念だけど、──跪くより跪かせたいタイプなんだよネ。でも、よかったヨ、キミみたいなカワイイコが相手でさァ…………じゃないと、ちょっと今日は加減してあげれそうにないカラ♡」
嘘か本気か分からない言葉を軽い調子で綴りながら九鬼は嗤った。流石のイロハもこれには口をへの字に曲げたが直ぐに口角を上げた。
「醜悪な男じゃ。妾に敵うとでも思っておるのか?まぁ、よい。お主みたいな傲慢なオトコがひれ伏すサマが一番愉快だからのぉ!!」
次の瞬間、いくつもの空間の間が九鬼の周りを囲む。黒い丸い円形の和が出現しては消えてを繰り返し、九鬼に迫っていく。一瞬だけ九鬼は真顔になったがその顔はすぐに口角が上がり、突っ立ったまま真っ直ぐにイロハを見つめ震えた。
「ほーら、怖いのじゃろ!泣け!泣き叫べッ!お助け下さいイロハさまと頭を地面に擦りつけ、許しを請うがよいっ!」
現れたり消えたりする空間の歪みはクロコッタの能力であり。九鬼が地面を隆起させた場所に出来ると空間の歪から近くの物質が吸われ、隆起された地面がガリガリガリッと嫌な音を立てて削れた。人体でもそうなるぞと言いたげなイロハの行動だが九鬼は震えているがその場から動くとこはなかった。
「なんだ、粋が良かったのは最初だけじゃな。つまらぬ、さっさと惨たらしく散るがいいッ!」
ズアッンッと嫌な高域の音を立てて九鬼の周りを黒い歪みが囲った。しかし次の瞬間に幾数もの突出した地面によって黒い時空の歪が切り裂かれる。
「なに……ッ!?」
「ナンダ、ツマンナイ。これだったら、〝ブラックホール〟の能力のほうが強かったカナ?殴って壊れるなら簡単にジャン」
「……く、ほざけ!」
イロハの姿が空間の歪へと消える。しかし九鬼はまた慌てることなく辺りをゆっくりと一瞥し、グッと拳を握った。
「3………2………1……ビンゴ……!」
「……ッぐ!なぜじゃッ!なぜ妾が現れる場所がぁっ!」
「二番煎じなんだって。ザンネンだけどその能力は効かないなァ……啊、イイね、その顔でその表情……興奮する……好き、愛してる……ッ」
次にイロハが現れた瞬間、目の前に九鬼の拳があり真っ向から顔面でパンチを受け止めたイロハは後ろにすっ飛んだ。流れる鼻血を押さえ、酷い激痛に床を転げ回ったあと立ち上がろうと九鬼を見ると人とは思えない程獰猛な眼差しでイロハを見下ろしており満足そうな表情であったがとても愛してる人間に向けるものではないと背筋が凍った。
「なんじゃ、おぬしは⁉︎妾の事が好きでは無いのか……ッ」
「好き。好きだヨ、愛してる……啊、すっごく興奮するなァ……好きなものが壊れる瞬間……あ、大丈夫だヨ、壊れても可愛がってあげるカラ」
「…………ッ!!?なんじゃお主ッ!意味が分からぬッ」
ポキポキと指を鳴らしながら九鬼がイロハに近づいてくる。欲情を抑えられないと言うかのように表情は歪み、しかし口角は引き攣るように上がって呼吸も荒い。精神すらも喰らうような獰猛さにイロハは怖気づいた。
尻餅をつきながら後ろに下がる様はより一層九鬼を興奮させてしまい瞳が弧を描く。
「なんじゃ、お主はッ!狂っているッ!」
「ボク、ナンデモイイんだよネ〜、生きてようが死体であろうが、レプリカであろうがホンモノであろうが……唯一、ただ一つを除いてはその形状は問わないんだァ♡ニセモノでも美しければそれでイイヨ♡♡生きてなくても、その顔なら使い道たくさーぁんあるから♡……さっさと逝こうカァ?」
ゾゾゾゾゾゾッとイロハが総毛立った。
次の瞬間オートでリトーの能力である植物が辺り一面に蔓延り、イロハの身を隠す。更に神功と薬師河の衝突により発生した霧が九鬼の視界を塞いだ。
植物により姿が隠れたイロハは少しでも九鬼から距離を取ろうと走った。そして己に対して、落ち着け、落ち着けと繰り返しながら自分の中にある遺伝子の能力を引っ張りだす。足を速くして更に遠くに逃げ、体を透明にして植物に紛れ込み、息を殺した。九鬼は異種であった。あれを人間とは認めたくなかった。自分と同じ普通でないものがこんなに恐ろしいと初めて知ったイロハは殺されないために必死に対抗できそうな能力を探った。しかし、何度イメージを繰り返しても自分が亡骸になる姿しか思い浮かばずに涙が出そうになったその時、丸くなり膝を抱えた目の前に九鬼が居た。