ちゅーしないと具合悪くなる話「さっき、みてしまったんだが」
名取さんは視線を逸らしたまま、言った。
昔を思い出すような話し方。これは呆れている人の話し方だ、そう思うと身体が強張る。まただれかを不快な気持ちにさせてしまったのだろうと、わかったからだ。
名取さんは顔を伏せていた。
いつもの胡散臭い笑顔はないしこちらも見てない。これは呆れている、または怒っているのだとすぐわかった。
「怒ってます、よね」
「怒ってない。言葉にするとしたら、苛々しているよ」
苛々しているのは、怒っているわけではないのだろうか。違いがわからない。
学校の帰り道に偶々出会った名取さんは、どうやらその時から苛々していたらしい。声をかけられたときから既にこのように機嫌が悪そうな態度だった。
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