君にとってはそれは悪夢なのですね、成る程成る程。
『子羊が見た悪夢』
「夢を見たというのです、自分がソリスティアで一番の聖堂騎士になった夢を。何をもって一番と称されるのかは不明ですが、今はそこについては詳しく話をするのは止めておきます。気にはなりますが、それほど重要な事ではないので。」
ええ、良い夢だ思うでしょう?私も良かったじゃないですかと言いましたよ、いつかそうなれるように日々励みなさいって。途端に泣かれました。意味が分かりませんよね、私も意味が分かりませんでした。
「どうやらその夢には続きがあったらしく、その事を私に報告しに行ったみたいなのですよね。君はもう立派な一人前ですね、子羊くんなんて呼べませんねって優しく微笑まれたらしいですよ。夢の中の私に。」
夢でも褒められたのなら良かったですねと言ったら、更に泣きました。何故泣くのか本当に意味が分かりません。
あ、ちなみに嬉し泣きじゃないらしいですよ。嬉し泣きですか?なんて聞いたら怒られましたから。泣くのか怒るのか、どっちかにして欲しいですよね。私もそう思います。
「まだ夢に続きがあるらしくて、この部分に子羊くんがこうなった理由があったみたいなのです。夢の中の私は女神かと思うかのような慈悲深い優しい笑顔でこう言ったらしいですよ、ならもう私は必要ありませんねと。」
そんな事はと必死に説得を試みるも、だって君は一人で歩けるじゃありませんかと全然話を聞いてもらえなかったらしいですよ。
一人前になったのなら、本当に私なんて必要無いのでは?とつい言ってしまった事を今でも後悔してます。私を抱きしめたまま離さなくなってしまいましたから、彼。動き辛い、とても動き辛いです。ええ。
「その後、私に見知らぬ男を紹介されたと言うのです。誰かと聞けば、今日から彼が私の子羊くんですと。」
ちゃんと導いて立派に育て上げますと言ったらしいですよ、私。その男と笑い合いながら、待ってと叫ぶ彼をその場に放置して、二人で旅立って行ったところで目を覚ましたそうです。
…ええ、そうです。今日朝早くに響いた大絶叫は、この時のものらしいですよ。煩かったですね、何事かと思いましたよ。近所迷惑です。きっとこの街に住む住人全員が、アレで覚醒してしまったのではないでしょうか。
この街から出入り禁止とか喰らわないと良いですね、私達。野宿はとりあえず良いとして、色々補給出来ないのは痛いですよ。どう考えたって。
「そんなこんなで、子羊くんは今日は使い物になりません。私は…って、ちょっと、子羊くん!君は私の体をバキバキにへし折りたいのですか!?いい加減に、ちょ、本当に、痛い痛い痛い!!」
…とまぁ、こんな感じです。子羊くんは使い物になりませんが、私も無理です。見て貰った通りです、子羊くんから離れる事は叶いません。無理矢理引き剥がそうとして、全身複雑骨折とか私嫌ですので。
最初気絶でもして貰ってとも思ったのですけれど、覚醒した瞬間に響くのはきっとあの大絶叫ですよ?近所迷惑再びです。それに気絶してても根性やら意地やら何とかやらで私を決して離さないままだったらちょっと怖…失礼、何でもありません。子羊くんも力を抜いてください、本当に私の骨が折れます。止めて。
「彼をこのままくっつけた状態でやれる事って、かなり少ないでしょう?はい、今日は滞在してる宿で大人しくしています。色々やりたい事があったのですが、こればっかりは仕方ありません。後日どうにかします。…怪我したくありませんしさせたくもないので、私。」
何か嬉しそう?気のせいではありませんか?変な事を言わないでください、怒りますよ私も。
それよりも、早く子羊くんが立ち直る事を祈っててください。それでは。