フォンテーヌデートディルガイ進捗『どちらのお客様?』
『なんでもスメールからの客人だとか』
『何処かのご婦人かしら』
『いや……どちらかわからない……が、それにしても美しい。
水の都フォンテーヌに突如現れた孔雀といったところか』
絢爛豪華なシャンデリアに敷き詰められた赤い絨毯。ゆったりと、そして何処か物悲しいメヌエットが流れるパーティ会場では招待客が世間話に花を咲かせていた。
「(少し目立ちすぎたかしら?でも彼らが我々が送り込んだ調査員であることなんて誰も微塵も疑っていない。だってそもそも本物のモンドの貴族だもの)」
世間話は先日行われたフリーナ主導の裁判やヌヴィレットの司法の在り方、はたまた何処ぞの貴族の家がどうしたとかそんな硬い話から俗物的な話まで飛び交かっている中で、フォンテーヌの人口の3%ほどしかいない狭い貴族社会の話題など、必然的に下世話になることも多いもの。ため息をつくナディアだが、そんな憂う表情すら見せずに、招待客に笑みを見せながら第一段階は成功といったところかと満足げにしている。それは傍のパートナーの燃える瞳をした男も同じようで目配せをすれば満足げに応えるのだから大丈夫だろうとほっとしていると、恨みがましい視線に気がついた。
それは渦中の孔雀と呼ばれている人物で、深い藍色の髪と瞳に合わせたエメラルドグリーンと青の衣装を見に纏い、以前公演で着たという衣装を参考に彼の素材を活かすような夜会用の服をあしらえてよかったと満足げにしているナヴィアとは対照的である。
「(本当に!!お前たち覚えていろよ!)」
といったふうであり、その美しさとは裏腹によく見ると眉間に皺が寄っているし、相手の手は握り潰すのかも思うくらいに握っていてむしろ痛いのではというくらいである。だが、相手の方はそんな握力は特に問題ないとばかりに涼しい顔をしているのだから放っておいてもどうにかなるだろうし、作戦通りに動いてもらうかと旅人とパイモンに連絡を入れようと会場を離れる。
発端は数日前、旅人とナヴィア、ディルックとガイアがフォンテーヌの喫茶店で鉢合わせたことに起因するのだが……
◇◇◇
「あれ!?ガイアだ!」
「おや?パイモンと空じゃないか」
ナヴィアが空をお茶に誘い、午後にゆっくり行きつけの老舗のカフェでティータイムと洒落込もうとしたところ、行きつけのカフェにはまさかの先客に驚く空達。モンドにいるはずのガイアの姿がそこにあったのである。
「ここのコーヒーは本当に絶品だ。流石歴史的著名人が絶賛しているだけある」
「ガイア……そういえば出張って聞いてたけど、まさかフォンテーヌだったなんて。そもそもどうしてここに?」
「旦那様の仕事の手伝いだ」
なんでもディルックが騎士団に外国への仕事の護衛を頼んだことに起因するそうだ。正直ディルックの実力でならばその必要があるのか疑問視されるところではあるが、ある程度の荷物(ワイン)と従業員も何名か同行するということで、腕利で酒が飲めれば尚良し(ディルックは下戸なのでテイスティング役も必要)となればそんなの誰かなんて分かりきったことであり、まずスポンサー様のご意向を無視することなどできないので、案の定リサとジンに笑顔で行ってきてくれと容赦なく告げられたというわけである。
『経費はこちらで持つ。ガイアさんは荷造りをして明日9:00にワイナリーの前に集合するように』
『俺の意思は何処に行った??』
◇◇◇
「……それジンとリサはなんて」
「司書様からはただで酒が飲めるからいいだろうし、代理団長はガイアは経費を有効活用できるから先輩に迷惑かけることもない。家族水入らずで行ってこいと」
詰まるところ四面楚歌で誰も助けてくれる人がおらず、しかも先ほどはヤケクソとばかりにシャンパンとワインをチャンポンしていたらしく、今は口直しにコーヒーをいただいているらしい。旅人も真っ青の酒豪っぷりを見せているガイアだが、その次にでた言葉は意外なもので……
「やはりこちらのワインは酸味が強い。ジュースと混ぜてカクテルを作るのはあまり褒められたもんじゃないから、強いて言えば甘めの酒と合わせた方が女性受けはいいとは思っているがな。飲めるやつと飲めないやつのことを考えなきゃならん」
「ガイアが真面目にテイスティングしてる……」
「おいおい一応仕事できているんだぞ?これくらいしないでどうする」
普段ざっくばらんな雰囲気のガイアしかしらないパイモンと空は意外な顔をしてはいるのだが、やはりアカツキワイナリーで育っただけあり、その舌は美味なものを察する力はあるようだ。