可愛い可愛い黒猫 足元に黒猫が擦り寄ってきた。構ってほしげに、ニャアニャアとうるさく喚く。どこからやってきたのだろう。
この調査兵団施設は塀に囲まれていて、人の出入りは監視されている。島にマーレ兵を迎え入れてから、それは更に厳しくなっているのに。
いや、猫の侵入くらい容易に許されてしまうのだろう。訓練兵時代を思い出した。訓練場に迷い込んだ猫に、女子だけでなく男子たちまで群がって、可愛い可愛いと騒いだ挙げ句、シャーディス教官に見咎められ全員まとめて走らされていた。そして訓練兵たちを追い払ったあと、シャーディス教官がそっと猫を抱きかかえ、変な表情を浮かべていたことも覚えている。猫ってそんなに可愛いか?
……可愛いな。オレは黒猫と目線を近づけるようにしゃがみこんだ。中庭の伸び切った雑草が、薄いズボンの生地を貫きオレの膝をくすぐる。
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