12/8:道端の雪だるま 久しぶりにフェードラッヘを訪れたジークフリートは、見回りも兼ねて城下町を歩いていた。
冬を迎えた王都は、どこもかしこも雪で覆われており、晴れ渡った空が辺りを眩しく輝かせる。
「あ!ジークフリートさま!」
「ジークフリートさん!こんにちは!」
道沿いの広場にいた少年と少女はジークフリートの存在に気付くと嬉しそうに駆け寄った。2人は兄妹らしく、少女の方はお兄ちゃん失礼だよと言って少年の脇を小突いていた。
「ふっ……好きに呼んでくれて構わない。それより、こんな所で何をしていたんだ?」
ジークフリートが優しく尋ねると、少年は自慢げに答える。
「僕たち、白竜騎士団の雪だるまを作ってたんです」
騎士団と雪だるまという、接点のなさそうな単語に首を傾げると、少年の妹が補足する様に会話に混ざった。
「えっと、私たちのお父さんは、白竜騎士団の騎士なんです」
父親を応援するために何か出来ないかと考えた兄妹は、過去に似顔絵を描いて渡したらとても喜ばれた記憶を基に、今度は父親の雪だるまを作ることにしたらしい。
「お城から帰ってくる時、お父さんいつもこの道を通るから。ここに置けば見てくれるかと思って」
「でも、お父さんの雪だるまだけだとなんか寂しくて……それで、騎士団みんな作っちゃおうって!」
子供の発想には目を見張るものがある。よく見るとそれぞれ個性のある小さな雪だるまが、歩行の邪魔にならない場所の至る所に飾られているのを見ると、頬と鼻を赤くした少年の言う通り、騎士団全員分あるのかもしれないと錯覚する程だった。
「ほう……ちゃんと陛下も作ってくれたんだな」
よく見知った形をした騎士団長と副団長の雪だるまに守られる様に置かれている可愛らしいカール国王の姿につい笑みが溢れる。
「ん……?これは……」
その横に置かれたもうひとつの雪だるまの存在にジークフリートが気付くと、少年は明るい声色で説明した。
「あ、それね!ランスロットさんが作ってくれたんだよ!」
かっこいいし器用だよなぁと言う少年に対し、少女はあわあわと焦った後、泣きそうな顔で訴えた。
「お兄ちゃぁん……そのことは秘密って、騎士団長様と約束したのにぃ……」
涙を瞳に溜める妹をどうにか宥めると、少年は洗いざらい話してくれた。この雪だるま作りには協力者がいたらしく、それがなんという偶然か、休憩中の騎士団長と副団長だったそうだ。
2人は時間の許す限り兄妹の雪だるま作りを手伝い、ジークフリートが来る少し前に城へと戻ってしまったらしい。
「あとは僕たちで作れるだけ作ろうと思ってて」
もう少しで終わりそうなんだけどと、最後まで言い切る前にくしゃみをする少年に、ジークフリートは提案する。
「そういうことなら、俺も手伝おう」
思わぬ助っ人に兄妹は喜び、早速残りの作業に取り掛かる。
ジークフリートは、既にランスロットの雪だるまは作られているが、作り方を教わるくらいなら許されるだろうと思いながら、騎士団長様が作ってくれた自分を模した雪だるまを少しの間見つめていた。