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    たつゆき

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    たつゆき

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    初めてと2回目の話。
    お互いしか知らずに大人になった名的

    #名的
    name

    貴方しか知らないたった一度。
    名取が高校卒業を間近に控えた、たった一度だけ。
    知識が乏しい二人で肌を重ねた事があった。
    散々なもので的場には痛みと多少の流血もあったし、それを見た名取の方が顔面蒼白で失神しそうな有様だった。
    俗世と離れがちな者同士では準備も用意も足りず本当に拙い性交だったが、それでもどちらともが「止めよう」と言い出さなかったのは、この時を逃したら相手はきっと自分が知らぬ誰かのモノになるだろうという確信があったからだ。
    冷や汗で濡れる冷たい躰では気持ち良さも到底なかったけれど、相手を奪えたその一時は刻印のように名取と的場の記憶に焼き付いた。


    それから時は経ち成人を迎えれば、予想した通り名取と的場の関係は希薄になった。
    理由が無ければ会う事はなかったし、その理由を自ら作る事はなかった。それなのに意図せず何度も邂逅を繰り返すのは運命なのか、もしくは妖を友人と呼ぶ少年の力のなのか、偶然という名の必然が幾つも重なった。
    やがて切れかけた糸がまた繋がり真っ直ぐとは言えずとも絡まり始めた頃、ある仕事を頭首監督の元に終えた帰りに大雨に振られ、二人は肩を並べて立ち往生する羽目になっていた。
    自宅からそう遠く離れていなかったので愛車で来ていた名取が横目で隣を伺うと、すぐに迎えを呼ぶと思った的場が落ちる雫をぼんやり眺めているので自然と誘い文句が溢れ落ちていた。
    どんよりとした曇り空。傘を持たずに出て来た男達の予定調和は、誰にも指摘されないのを良いことに針を進めてしまった。

    「…ウチに来ませんか?雨が、止むまで」

    名取の自宅に的場が入るのは初めてだった。
    厳密には彼が一人暮らしを始めた最初の家は一時期入り浸っていたのだが、的場が頭首になる頃に引っ越したのを祓い屋の書類から知る事になった。
    殺風景な部屋は生活感がまるでなく、いつもの癖で揶揄に近い感想も抱いたが、あの狭いワンルームとの差異を思わず口に出してしまいそうで的場は口を閉じた。閉じたのに。
    「どうぞ。的場さんは…ココアの方が、いいのかもしれませんが」
    「…いえ。いただきましょう」
    まさか名取からあの頃の延長線上の会話をされるとは思わなかった。
    ビクリと震えたのは心の内だけで、的場はゆったりと出されたコーヒーを口に含む。
    彼はあの時期を無かった事にはしないらしい。
    名取に部屋に誘われた時になんとなく予感があった。
    糸の端と端にいて別々の方向を向きながらも繋がっている二人は真逆と共通の意識を同時に併せ持っている。
    家に入れば、きっと自分達は手を伸ばすだろうと確信があったのだ。
    「まどろっこしいのは嫌いです」
    「私もです」
    名取は学ランではなく細身のスーツのジャケットを脱いでネクタイを緩める的場に目を細めた。
    一方の的場は横目に見えた電源が落とされた大きなテレビに煌めきを放つ男の表の姿を思い出した。
    誰のモノでもなかった自分達の面影はとうになく、それを責めるほど無知でもない。
    成人し家を継ぎ、散々世の灰汁まで喰らい尽くしてきたのだから。今更純情ぶるのも烏滸がましいだろう。

    シャワーを借りているうちに新品に取り替えられ乱れのない寝具に彼らしさを覚えながら、名取に促されてベッドに腰掛けた。
    「的場さん、あいにく潤滑剤とかは切らしていまして…」
    気まずそうな男から少し広めのベッドに目を移して、俳優業なんてやっていれば引く手数多、いくらあっても足りないだろうと納得する。
    「構いませんよ、なんでも。名取に任せます」
    「なるべく負担をかけたくないので、何か代わりのもので好みのものはありますか?」
    「好きにしてくださって構いません。それより、私に気を遣わず名取もいつものようにしてください」
    「…はぁ。的場さん、自分を大切にされた方がいいですよ。負担があるのには変わりないのですから」
    たとえ慣れていても。苦虫を潰した顔になっている自覚があった名取は、ベッドサイドのライトを調整する振りをして顔を背けた。
    「充分してますよ。あなたには関係のない事です」
    少しむっとした的場に返され、売り言葉に買い言葉。名取もつい責めたような口調になっていた。
    「痛い思いをしてから、文句を言われても困ります」
    「はっ。器用そうに見えてあなたそんなに下手なんですか?初めてが男だったからでしょうか。それは申し訳無い事をしました」
    「下手ですいませんでしたね。あいにく今回もお気に召す技術はありません。なんせ経験値が増えていないもので」
    「私だってあれから尻に何か入れた経験なんてないんですから、何が良いかなんて分からないですよ。なんなら私がそちらを攻めましょうか?勿論あなたが血を見る事になると思います……が…」

    「「……え?」」

    「的場さん…」
    「名取?」
    「………あの、まさか」
    多少慣れている振りをした方がいいのだろうな、と思っていた。後生大事にあの日の想い出を持って生きてきたなんて気味が悪いと思われても仕方ない。
    それでも、嫌なものは嫌だったのだから仕方ないではないか。
    立場上かなり無理をしつつ、のらりくらりと躱して二十代も半ばを過ぎていた。
    散々悪徳に濡れた身であっても、たった一度だけ愛された肌を結局誰かに許す事は出来なかったのだ。

    「あの、やっぱり怖いんで、今からドラッグストアいきませんか」
    「そうですね、賛成です」
    二回目はせめて痛みの思い出だけではなく、暖かさと幸福感を相手に残してやりたいと、無垢ではないが純愛を貫いた初な男達は笑った。



    ====
    ドラッグストアから、帰ってきて付き合ってからでは…?ってなった名取が、はやくしたい的場と擦った揉んだするんで2回目はこの日は無理そうです。

    この後ギャーギャーいいながら、一緒に勉強して試行錯誤していく、いい大人になった二人。
    お互いしか知らない名的もいいなと思って、突発小話です。うって変わって爛れた関係も好きです。

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