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    あおい

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    あおい

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    鬼水/ゲタ水
    ggstを浴びて見えたゲタ水の幻覚。ggts、青春時代、スポ狂全てごった煮の幻覚なので何でも許せる方のみどうぞ。
    ⚠️ggstのネタバレを含みます
    ⚠️作者の独自解釈がかなり含まれています

    田中ゲタ吉こと鬼太郎は野球が嫌いだ。
    もとよりスポーツというものに大してやる気が持てない性格であったが、特に野球はひどかった。打って走って、白球を追い回したって何が楽しいのか理解できない
    みんなよくやるよなァ。
    土手に寝転び、河川敷のグラウンドをちらりと一瞥する。そこでは草野球の白熱した試合が繰り広げられていた。
    あれはうちの高校の野球部と隣町の高校の野球部だ。どうやらうちが負けているな。
    自分の高校の試合であろうが結果に興味はなく、鬼太郎の視線はすぐにグラウンドから真上の空へと移される。
    青い空に浮かぶ白い雲。雲が風に流されゆっくりと動いているのを見ているだけで心が穏やかになり、眠気を誘われる。
    野球なんかより、昼寝をする方がずっといい。
    鬼太郎は野球が嫌いだ。やったことがないからルールも知らないし、そもそもやりたくない。見るのも嫌だ。嫌なことを思い出すから。
    胸の中がずんと重くなり、逃げるように鬼太郎は目を閉じた。やめたやめた、昼寝をしに来たんだもの。変なことを考えたら眠れなくなる。さっさと寝てしまおうと現実から目を逸らすように無理矢理意識を微睡みの中へと引きずり下ろした。

    何故鬼太郎がこんなにも野球を嫌うのか。
    それはあの空のように遠い過去のことである。

    「鬼太郎、学校っていうところはな、楽しいところなんだ」
    水木サンは僕に色々なことを教えてくれた。
    「かくれんぼって遊びがあってだな」
    色々な遊びも教えてくれた。ランドセルも玩具も買ってくれた。どれも嬉しかったけれど、月日が経つにつれて僕の気持ちは曇っていた。
    「ありがとうございます。大切にします」
    買ってもらった玩具で遊んでいても、いつもどこかに違和感があった。楽しいけれど、楽しくなかった。だって、誰も僕と遊んでくれないんだもの。
    「不気味な子ね」「うわ、鬼太郎だ!逃げろ!」
    そう言ってみんな僕の周りから離れていく。
    快か不快か、楽しいか楽しくないか。単純明快な二つの価値基準でしか物事を判断できない無知で純粋無垢な子どもだった僕は、一緒に遊んでくれる仲間を求めて妖怪としての本能のまま夜の墓場へと足を向けた。
    それが悪いことだという意識はなかった。地獄は楽しい、遊んでくれる相手がいる。幼い僕にとって自分を気味悪がって避けるばかりの人間世界は心の底から楽しいと思える場所ではなかった。地獄にいる方が息がしやすい。
    近所の子らが公園で遊ぶように、僕は地獄で遊ぶ。当たり前のことだと思っていた。
    「もう墓場に行くのはやめてくれないか」
    だから水木サンのその言葉が憎かった。どうして僕をこんな窮屈な場所に縛りつけようとするのか。
    妖怪は自由気ままな生き物だ。何かを禁止されることを心底嫌う。
    「学校で変な噂をされたら嫌だろう?」
    嫌だとか、嫌じゃないとか、そういう話じゃないんです。それに、噂が立つのは仕方のないことだと思う。人間と妖怪じゃあ理解できないことがたくさんあるから。人間には夜の墓場の楽しさなんて分かりっこないから。
    「週末にキャッチボールしよう!」
    そう言って買ってくれたバットとグローブ。
    また玩具を買ってくれたのか。嬉しいな、これで水木サンと遊ぼう。いつものようにそう思えたらどんなによかったか。
    墓場には行くなと言われたせいで、そのバットとグローブが僕を人間の世界に拘束するための鎖に思えて仕方なかった。
    それに、バットとグローブがあったって一体何になる?野球は9人でやるんですよ?みんなが僕から離れていくのに、水木サンがいない時、僕は誰にボールを投げてもらえばいいっていうんだ。
    「やりません。野球は好きじゃないです」
    僕は初めて、水木サンの買い与えてくれたものを拒んだ。
    その時の水木サンの顔は忘れられない。悲しそうな、ひどく傷ついた顔をしたくせに、頬を引きつらせていた笑っていた。
    「分かった。それなら無理にやらなくていい。気が向いたらやろうな」
    無理に笑わなくていいのに。なんてことを言うんだと怒ったっていいのに。水木サンは下手な笑顔のままバッドとグローブを押し入れに仕舞い込んでしまった。
    水木サン、どうして僕を“普通の人間“にしたがるんですか?なれるわけないのに。だって僕は妖怪なんだもの。妖怪の僕を受け入れてください。ありのままの僕でいさせてください。僕のことを分かってくれるのは、人間の世界では水木サンしかいないんですから。
    幼い僕は自分が正しいと思って疑わなかった。それがいかに視野の狭い幼稚な我が侭であったか、後になって思い知ることとなる。不気味な僕を見て、僕だけでなく水木サンやおばさんまでが悪く言われていると気付いたのだ。
    自分のせいで、水木サンたちに迷惑をかけている。
    この時ようやく僕は自分のことばかり考えていたのだと気が付いた。水木サンは僕を“普通の子”に育てようとしていたのではなかった。“人間に受け入れてもらえる妖怪”に育てようとしていたのだ。そうでないと、僕は水木サンと一緒にいられなくなるから。
    水木サンは僕を人間の世界に縛りつけたいんじゃあない。愛してくれていたから、僕を人間の世界に留めようとしてくれたのだ。
    僕はとても後悔した。学校、かくれんぼ、バットとグローブ。どれも水木サンは僕に教え、与えてくれたのに。どうせ人間には理解されないと、仲間に入れてもらえないと拒んだのは僕の方だ。僕は水木サン以外にも一緒にキャッチボールをしてくれる人を、仲間に入れてくれる野球チームを見つける努力をしなくちゃあいけなかったのに!
    僕は自分は孤独だと悲観的になって、拗ねて、やめろと言われても地獄に篭ろうとした。あんなに一生懸命僕を思ってくれた水木サンの思いを無駄にすることになるなんて考えもせず。
    それに気付いたところでもう全てが手遅れだった。
    僕はもう小学校には行かないと言ってしまったし、水木サンとおばさんは近所の人たちから気味悪がられて避けられている。バットとグローブは押し入れの、まだ子どもの僕では手の届かないところに仕舞われてしまった。
    僕はこれからどうしたらいい?水木サンたちのことを考えれば、原因である僕が家を出ていく他はない。でもそんなのは嫌だった。“普通の子”にはなれないけれど“水木サン家の子”でいたい。僕はどこまでも我が侭なやつだ。
    できるなら、もう一度やり直せるなら、今度はちゃんと学校に行きます。夜の墓場には行きません。不気味な妖怪ではなく正義の味方になります。だからどうか、僕を水木サンの子どもでいさせてください。
    あぁ、あの時水木サンとキャッチボールをしていれば。バットとグローブを受け取っていれば、何かが変わっていたかもしれないのに。
    僕は野球が嫌いだ。後悔で胸が押し潰されそうになるから。

    昼寝から目が覚めたら空の端がオレンジ色になっていた。少し寝るだけのつもりが数時間ぐっすりだったらしい。
    「んっ〜〜〜…なんだか嫌な夢見ちゃったなァ」
    よく寝たはずなのに、胸と頭がモヤモヤする。
    さっさと帰って風呂にでも入ろう。気分を切り替えなくちゃ。
    起き上がって大きく伸びをすると、背中と尻に付いた草と土を払う。草野球はとっくに終わっており、グラウンドは無人だった。
    今日の夕飯は何かな。唐揚げが食べたいけど給料日前だから肉は出ないかなァ。なんて考えながら鬼太郎がぽてぽてと帰り道を歩いていると、近所の空き地で男の子たちが野球をしていた。
    こっちでも野球か。外国の大リーガーが話題だからって流行ってンだな。みんなよくやる。俺は昼寝していた方がいいと思うけど。
    通り過ぎようとして、鬼太郎は一人の少年に目が留まった。
    空き地では四人の男の子が遊んでいた。三人はボールを投げてはバットで打って野球の練習をしているのに対し、一人の少年は壁相手にボールを投げては捕り、また投げていた。
    少年はしきりに三人組の方を見ているし、恐らく三人はその視線に気付いている。
    タチが悪いなと鬼太郎は思った。気付いているなら仲間に入れてあげればいいのに。それか、自分から入れてくれ声をかけに行くとか。
    いや、それができないのは自分が一番よく知っているじゃあないか。仲間に入れてもらうことがどれだけ難しいか、仲間はずれにされることがどれだけつらいか。
    一人で壁当てをする少年から目が離せない。腹が減ったし、風呂にも入りたい。早く帰りたいのに、どうしてか足が動かない。
    一人でできる遊びなんざ五万とある。わざわざ野球をやらなくったっていいんだ。あの子も諦めてやめてしまえばいいのに、そんなに寂しそうな顔をするなら一人で楽しめる他の遊びをすればいいのに。いや、そんな世界は間違っている!
    「あぁもう!」
    鬼太郎は走った。風のように、全速力で走った。家へ着くと勢いそのままに玄関を開け、ドタドタと廊下を走り、押し入れの襖を乱暴に開ける。
    押し入れの中には大小様々な箱が雑然と積まれていて、見ただけでは何処に何が入っているのか分からなかった。試しに手前の箱を開けてみると冬物の洋服が入っていた。次の箱は古本。水木サンが仕事で使っていたという新聞のスクラップブックは大きめの箱にぎっしりと何冊も入っていた。
    いくつか開けてみても肝心のものが見つからない。けれど、水木がそれを捨てていないという確信が鬼太郎にはあった。記憶を頼りに箱を探す。押し入れの上の段だった。箱はそこそこの大きさがあって、確か水木サンが商店街の八百屋からもらってきた林檎箱だったはずだ。かなり昔のことだからもう奥へと押しやられているかもしれない。
    「これでもない…これも違う…あ、これかも」
    『りんご』と側面に大きく書かれた箱を見つけ、鬼太郎は手を伸ばす。あの時は手の届かなかった箱も今なら届く。箱の角に指が触れ、そのまま引き寄せた。
    畳の上にゆっくりと下ろし、埃を被った箱を開ける。
    「…あった」
    箱の中には新品同様のランドセルと、バッドとグローブが入っていた。やっぱり、まだ大切にとってあった。
    「うっ…」
    埃が目に入ったのかもしれない。鼻の奥がツンとして、涙が出ないように必死に袖で目を擦った。
    感傷に浸っている暇なんかないんだ。のんびりしちゃあいられない。鬼太郎は中からグローブを掴むと、箱を元あった場所に戻してから再び家を飛び出した。
    急いで空き地に戻ると少年はまだ壁を相手にキャッチボールをしていた。よし、と鬼太郎は中へ足を踏み入れる。
    「あのぅ」
    突如背後から声をかけられ、少年はビクリと肩を震わせて振り返った。そして何とも怯えた顔で固まってしまった。
    無理もない。長身、白髪、片目。どこか怪しげな見知らぬ高校生にいきなり声をかけられたのだ。怖がるなという方が無理な話である。
    「えっと…一人で遊んでるの?」
    しまった、この声のかけ方は完全に不審者だ。通報されかねない。怪しい者ではないと説明しないと。俺は正義の味方だもの、警察のお世話になんかなるわけにはいかないのだ。
    少年はまだ怯えたまま、辛うじてコクンと小さく頷いてくれた。
    「俺は正義の味方、田中ゲタ吉です」
    「正義の、味方…?」
    「そう。君が一人で寂しいなら俺が一緒に」
    あれ?
    「俺が一緒に…」
    おかしいな。言葉が出てこない。
    これまでに困っている人を何人も助けてきた。今は高校にも通っているし、短い間だけど女の子とお付き合いしたことだってある。あの時に比べたら格段に人間の世界に溶け込めているはずなのに!
    「不気味な子ね」「うわ、鬼太郎だ!逃げろ!」
    俺はまだ、どこかで恐れているのか。人間から、この世界から拒絶されることを。
    一人で遊ぶことの寂しさはよく知ってる。だからこの子の味方になってあげたいと思った。その為にこのグローブを取りに行ったんだ。なのに俺はまた諦めるのか?自分から歩み寄らなくてどうする!俺は、人間に受け入れてもらえる妖怪になるんだ!この子はもしかしたら、水木サンと同じかもしれないじゃあないか!
    「一緒にキャッチボールをしたいんだけど、どうですか?」
    言えた。よし言えたぞ、ちゃんと言えた!鬼太郎の真っ白な頬が僅かに紅潮する。
    少年は目をぱちくりさせて鬼太郎を見ていた。ポカンと開いた口は言葉を発する様子がない。
    その顔を見て、鬼太郎の朱の差した頬が段々と色を失っていく。あぁ、俺がいくら言ったってダメなものはダメなんだ。それもそうか、最初あんなに怯えていたんだもの。頷いてなんてくれるはずが。
    「やりたい!」
    次の瞬間、少年の顔がパァっと明るくなる。まん丸く開いた口が口角を上げニンマリと笑った。
    「え?いいんですか?」
    「うん!ずっと一人だったから、誰かと一緒にやりたかったんだ」
    「俺が怖くないの?」
    「そりゃあ最初はびっくりして怖かったけど、でも正義の味方なんでしょ?誘ってくれたんだもん、怖くないよ!」
    あぁ水木サン、仲間に入れてほしいなら、まず自分から歩み寄るべきだったんですネ。あんたが父さんとお母さんの話を聞き、墓に埋め、墓場で俺を抱きしめてくれたように。俺ァ、自分から人間たちに近づく勇気を持たなくちゃあならなかったんだ。

    「いくよー!」
    「はぁい」
    鬼太郎、人生初のキャッチボールである。グローブを右手に嵌めるのか左手に嵌めるのかすら分からなかったが、教えてもらいなんとかキャッチボールをする形はできた。
    えい、と少年の投げたボールが弧を描く。鬼太郎は白球を目で追いなんとかグローブでキャッチする。
    なんだ、これぐらいなら初めてでも意外とできるじゃないか。
    今度は鬼太郎が投げる番だ。相手はまだ子ども。多少の手加減はしてやらないとなァと振りかぶり、投げた。鬼太郎の手から放たれたボールは目にも止まらぬ速さで進み、少年の頬を風のように掠め背後のブロック塀にめり込んだ。
    「え…?」
    「あーッ!」
    少年は目を見開いて背後の壁を見ている。めり込んでいたボールがコロンと落ち、パラパラと細かいコンクリートの破片が散った。
    やってしまった。手加減したつもりが初めてで全くできていやっぱりなかった。これじゃあ自分は人間ではないと言っているようなものである。せっかく一緒にできたのに、また怖がらせてしまう。やっぱり人間と妖怪が一緒に野球をするなんて無理が。
    「すごい!今のどうやったの?」
    「へ?」
    少年がボールを持ってこちらに走ってきたかと思えば、鬼太郎にボールを渡しもう一度投げてほしいとせがんでくる。気付けば少年を無視して遊んでいた他の子たちも集まってきて、口々に「もう一回投げてよ!」「投げるところ見せて!」と寄ってたかって押し合い圧し合い。
    急に子どもたちに囲まれ鬼太郎は困惑した。もっと手加減して投げることはできるけれど、この子たちが見たいのはさっきみたいな桁外れの豪速球だ。あれはキャッチボールではない。もしかしたらボールをダメにしてしまうかも。けれど、子どもたちの笑顔を見ていると鬼太郎の胸はじんわりとあたたかかった。

    仕事帰り、夕飯の買い物をして帰路に就いていた水木は空き地の前を通りギョッとした。
    小学生のチームが野球をやっているが、その中に一人、長身で黄色と黒の縞模様のセーターを着た男が混じっていたのだ。
    あまりの光景に水木は咥えていた煙草をポロリと落とした。
    周りが小学生ばかりなので一人でかい男は何とも異質だ。それにやる気があるのかないのか分からないくらいの猫背っぷりである。ルールを理解していないのか変な方向に投げてばかりだし、挙句の果てにゴロも取れず股抜きされる始末。
    正直、何で鬼太郎がチームに入っているのかさっぱり分からん。
    コロコロと転がってきたボールは水木の足元近くで止まった。煙草を揉み消すついでに、水木はそれを拾いあげる。
    「ほらよ」
    「あぁ、すいません。あれ、水木サンじゃあないですか。ありがとうございます」
    鬼太郎は水木からボールを受け取るとそれをホームに向かって投げた、つもりが何故かボールは前ではなく真上に高く上がってしまった。
    「ちゃんと投げてよ!」
    「はぁ…すみません。力の加減が難しいもんで…」
    鬼太郎はペコペコと頭を下げてため息をついた。
    こいつ、小学生に怒られてるのか。情けないやら可哀想やらで水木は見てはいけないものを見てしまった気分になる。
    「お前、一体何をやってるんだ」
    「実は助っ人に呼ばれてしまいまして」
    「助っ人って…」
    それでか、と言いたくなるのを水木はぐっと我慢した。
    「大体お前、野球は嫌いだったんじゃないのか?それが一体どういう風の吹き回しで」
    そこでふと水木は気付いた。鬼太郎が手に嵌めているグローブ。それは間違いなく。
    「それ」
    どうしてという言葉はカンッという乾いた音にかき消された。
    バットの芯に当たったボールは一直線に斜め上へ。ホームランだと叫ぶ声が聞こえる。
    いい当たりだなと水木が思った次の瞬間、目の前で鬼太郎の体が浮いた。
    「ゲタ吉兄ちゃーん!いったぞー!」
    「はいはい」
    それは正に浮いたとしか表現できなかった。軽く地面を蹴っただけで鬼太郎の周りだけふわりと重力がなくなり、空中で舞う。大きな右目はしっかりとボールを捉え、人間が跳躍する高さの何倍も高い位置でボールをしっかりとキャッチした。
    「やったー!」
    「ゲタ吉兄ちゃんやっぱりすごいな!」
    子どもたちの歓声が沸き起こる。
    妖怪である鬼太郎の前ではどんな球もホームランになることはない。その身体能力でどんな高い球だろうが捕ってしまう。
    これは鬼太郎を助っ人にしたのも納得だ。他のプレーが全然でも、鉄壁の守備だ。
    相手チームはズルだ何だと騒いでいるが、ゲタ吉兄ちゃんは妖怪だからズルじゃないと少年たちは何とも強引に押し通している。
    地上へと降りてきた鬼太郎は辺りをキョロキョロと見回した。
    「これは何処に投げればいいんだろう?」
    「こっちだよー!」
    言われた方向に鬼太郎は振りかぶってボールを投げる。今度は狙った方向にボールは飛んでいった。
    因みに手を振って鬼太郎に投げる方向を教えてくれた少年は、あの空き地で壁当てをしていた少年である。
    鬼太郎の人間離れしたプレーで一悶着あったがどうやら何事もなかったように試合は続行されるらしい。再び試合が始まり、鬼太郎はどことなく嬉しそうだった。
    「鬼太郎、野球が好きになったか?」
    「嫌いですヨ。何が楽しいのか分かりません。投げれば大暴投だし打てばボールを飛ばしすぎるし。さっきは飛ばしすぎてボールを川に落としちまいまして…あんな十かそこらの子たちに怒られっぱなしですからネ」
    「でも、その割には嫌がらずにやっているじゃあないか」
    「正義の味方ですからネ。困っている人がいるなら野球の助っ人だってやらなくちゃあならんのですヨ。でも」
    鬼太郎が水木を見る。白銀の髪が夕日のオレンジ色の光に照らされ、キラキラと輝いていたり
    「こんなことになるのなら、子どもの頃に水木サンとキャチボールくらいやっておけばよかったと後悔しています」
    ねぇ水木サン、まだ遅くないですか?
    水木は胸に込み上げてくるものをぐっと堪え、勿論だと大袈裟なくらい笑った。そして、あの時と同じように鬼太郎の肩を叩く。
    「週末、キャチボールをしよう」
    「はい」
    その時ベンチから「ゲタ吉兄ちゃん、交代だよー!」と声がした。
    「今行きます。では水木サン、俺は試合に戻ります」
    そう言って鬼太郎はベンチの方へと走っていく。
    子どもたちに迎えられる鬼太郎。人間も妖怪も、分け隔てなく共に遊んでいる。この光景を、幼い頃の鬼太郎に見せてやりたかった。そうしたらあいつはあんなに苦しまずに済んだのに、俺やお袋のことを思って心を痛めることもなかったのに。
    でも今こうして鬼太郎は笑っている。俺たちの周りの世界はゆっくりと、でも確実に変化している。
    水木は晴れやかな気持ちで、空き地を後にした。
    今晩は鬼太郎の好きな肉多めのカレーにしよう。

    妖怪の身体能力を存分に発揮した鬼太郎の活躍っぷりは噂になり、これを機に鬼太郎は度々野球の助っ人に駆り出されることとなる。そして母校の野球部のために奮闘することになるのだが、それはまた別の話。
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