我が物顔で店に入り浸っていたそいつが来なくなったのは一カ月前のことだ。
開店前だろうが休憩中だろうが閉店後だろうが、客がいようがいまいが全く関係なく、不意を衝くようにあらわれては当たり前のように食事をねだる存在。仕方なく従業員と同じように店で出す前の試作品を出してやれば、ねちねちとケチをつけてくるのが常だ。それが全くの見当違いからくるものだったら無視もできるが、アドバイスと言っていい程度に的を射ているから性質が悪い。桜屋敷の名前は、伊達や酔狂ではないと言えるだろう。
長い付き合いはそのまま互いの急所を握り合うような関係とイコールで、顔を合わせれば喧々諤々と言い合いになる中の俺たちは、腹立ちまぎれに怒鳴りつけてもまるで意味を為さず、胸倉を掴んだところでするりとオレの手から抜けてしまう。それ以上のことを出来ないと知られているのが厄介だった。
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