そういえば:ジョウイ「そういえば明日お誕生日ではないですか?」
軍部の会議が終わったあと、クルガンが声をかけてきた。慌ただしさですっかり日にちの感覚がなくなっていたぼくはキョトンとした顔をしていたと思う。その様子見て一瞬間違ったかと思ったクルガンもじわりと日にちの感覚が戻るぼくの顔を見て間違ってなかったことを確信したようだ。その横ではシードが「お、そうなんですか」と言ってニヤリと笑っている。
「ごめん、すっかり日にちの感覚がなくて」
日にちがわからなくなるほど脇目も振らず突き進んできたのかと思うと己のことながら少し呆れてしまう。そしてそんなに時が経ったのかとも。明日がぼくの誕生日ということは今日は彼らの誕生日だ。
初めて誕生日の話をした日、きょとんとした彼らの顔を見て正直しまったと思った。家庭環境が大きく違う彼らを傷つけるようなことはすまいと心に決めていたはずなのに。しかし予想に反して返ってきた声は明るいものだった。「なら誕生日を知った今日を私たちの誕生ににしようよ!ね!」そのナナミの一言でぼくの失敗は記念日に変わった。ナナミの前向きな明るさにぼくたちはいつも助けられてきた。
「何か祝い事でも開きましょうか」
「いいよ。今そんな時でもないし明日からまた遠征だしね」
アトレイド家でもちゃんとしたお祝いなんてしなかったため盛大に祝うという感覚は全くなく、彼らと笑って過ごす日の2日目がぼくの誕生日というイメージだった。
そしてその日もぼくが手放した。なので余計に誕生日という感覚がなくなっていることに気づく。
「その代わり1杯だけぼくに付き合ってくれないかい?」
「お、いいですね!一走り行ってきますわ」
過去への思いを振り払うようにそう声をかけると、シードはまたニヤリと笑いながらあっという間に姿を消した。
執務室に移動ししばらくするとシードが酒瓶とグラスを持ってやってきた。酒をグラスに注ぎ慰労の意を込めて軽く乾杯をする。
「おめでとうございます」
「ありがとう。明日からまたよろしく頼むよ」
ぼくたちが今考えるべきは祝い事ではなく明日からの遠征のことやその先のことについてだ。けど、それでも彼らへのお祝いを心の中ですることぐらいは許されると思いたい。
(おめでとう)
頭に浮かんだいつもの言葉は音にはならず、苦みを感じる酒と共に飲み込んだ。