約束になんてならない 少し話さねェーか、と本部の廊下を歩く迅に声をかけた時、彼が少しも驚いた様子を見せなかったのは『視えていた』のだろうか。
「ぼんち揚げ、食う?」
本部の屋上で、周囲を取り巻く廃墟になりかかった警戒区域を背に、迅はいつもの《、、、、》人懐こい笑顔を浮かべた。
「ああ」
差し出された揚げ煎餅の袋から、一枚取り出すと弓場は口に放り込んで噛み砕く。弓場は迅とは高校は別だったから知らないが、学校でもそれを持ち歩いていて、教師に取り上げられてもどこからともなく取り出すんだ、と嵐山が笑っていたことを思い出す。
甘めの醤油味が香ばしいそれを飲み下すと、弓場は少し迷って口を開いた。
さしもの弓場とて、差し出口ではないか、と迷わなくもないのだ。だから。
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