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    mizuho_hidaka

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    mizuho_hidaka

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    ココイヌwebオンリーでの展示作品。
    イベント終了したのでパスワード解除しました。
    10月既刊や四分にあげている芸能パロのココイヌ。
    短いです。

    #ココイヌ
    cocoInu

    芸能パロ番外編ふあ、と気の抜けた声と共に隣の乾が大きな欠伸をした。

    「眠いのか」
    「んー、昨日はいつもより早く寝たはずなんだけどな。寝足りないのかな……」

    ボリュームのある睫毛がゆっくりと瞬く。音が聞こえないのが不思議なくらいだ、と毎回飽きもせず九井は思う。
    今日は「劇場版TR」の続編ドラマ───シーズン3の顔合わせを兼ねた打ち合わせだけなのでメイクはしていないのだが、むしろ素の顔立ちを晒していることで元の美しさが際立っていた。
    長机に肘をついてパイプ椅子に座っているだけだというのに、空気が違う。
    「出演者は皆そうだろ。半分以上は演技が初めてでも、テレビとか舞台とか人に見られること自体には慣れてるプロばっかりだし」と乾は取り合わないが、欲目を抜きにしてもやはり彼は本人が自覚している以上に美しいのだ。
    うっすらと浮かんだ涙を拭ってやろうと無意識に九井が指を伸ばした瞬間、金属が触れ合うような高い音が微かに響く。
    聞こえたのは九井だけではなかったようで、乾がゆっくりと音の方へと顔を向けた。

    「今日は気圧が重い。気象病かもな。眠いだけか?」
    「ああ」
    「そうか。他に不調がないなら何よりだ。もし頭痛がするようなら、無理せず薬を飲んだ方が良い。もし持ってないなら、いつでも言ってくれ。オレは市販薬を持ち歩いてるから」

    冷たく整った顔は近寄り難い印象を与えるが、微笑を浮かべると驚くほど穏やかに見えた。
    一息に喋った後、乾へと傷ひとつない手が差し出された。

    「今回からドラマに出演する黒川イザナだ。後ろは鶴蝶」
    「わざわざありがとう。オレは乾青宗。本業はモデル。テレビでよく見てます、お天気お兄さん……と、体操のお兄さん」

    立ち上がりつつ、握手を交わす。
    その呼称はどうなんだと思わないでもなかったが、体操のお兄さんと呼ばれた鶴蝶が嬉しそうに破顔したので九井は内心安堵した。

    「世代じゃないのに知っててくれたんだ。イザナはともかくオレは知られてないと思ってたよ」
    「雑誌に筋トレの連載持ってるだろ。あの雑誌、オレもたまに載るから。貰ってきた時に読んだ。実は結構参考にしてる」
    「会ったことないのに何となく他のキャストより知ってる気がすると思ったら、あれか!」

    すっかり意気投合したらしい二人が何やら筋トレ談義を始めている。
    健康には気を遣うものの、筋トレにはあまり興味のない九井としては黙って隣に立っている他ない。
    だが、同じく手持ち無沙汰な人間がちょうどもう一人この場にはいた。

    「……人見知りではないけど、あんなにすぐ初対面の人間と仲良くなるタイプじゃないから驚いたな」
    「こっちもだ」
    「オレも鶴蝶の載ってる雑誌には目を通してるから、乾青宗の顔は知ってた。写真よりずっと迫力あるな。驚いた」

    世辞ではない素直な称賛に、九井は思わず口元を緩ませた。

    「さすが全国ネットの仕事を長年続けてる人間は見る目が違うな。本人に自覚がないんだよなー、世辞だと思うっていうか」
    「引退した姉の七光だと思い込んでる感じか?」

    小声で言われた内容に小さく頷く。黒川が二人に向けた目を細めた。

    「鶴蝶も似たようなもんだ。オレや事務所の力だと思ってる。本人の長年の努力とスキャンダル皆無の好感度が理由だって、ちょっと考えればわかりそうなもんなのに」
    「まあ、あんまり気にしてないのが救いといえば救いか」
    「気にしてないからこそ、強く言えないっていう問題もあるがな」
    「そんなところまで似てるのかよ……そりゃあ気も合うわけだ」

    苦笑しつつ、訂正しなければいけない部分を思い出し、九井は黒川に体を向けた。

    「多分、花垣は顔合わせの時のサプライズにする予定だったんだろうけど、青宗のこと気にして評価してくれた礼にサービスしてやるよ。乾赤音、シーズン3で本人役で出るぜ」
    「引退したはずの今は一般社員やってる人間を引っ張り出すのか? まあ、スタッフだろうと何だろうと配役に合うと思った人間は必ず交渉成功させて出すとは聞いてたが、噂に過ぎないと思ってたぜ……」

    呆れたように天を仰ぐ黒川にまた親近感を抱き、九井は苦笑しながら扉に目を向けた。
    そろそろ花垣が乾赤音を連れて登場する時間だ。
    鶴蝶は素直に驚くだろうが、先にネタばらしをした黒川は平然と会釈するだけに留めるに違いない。
    驚く花垣を想像して少し出し抜いてやれることに満足感を覚え、九井はまだ筋トレ談義に花を咲かせている乾を座らせるため、抱き慣れた肩へと手を伸ばした。

    「はじめ?」
    「そろそろ時間だ、青宗」

    驚いたように隣で目を見張る鶴蝶を視界の端に捉えながら、そんなに夢中になるほど話していたのかと少し嫉妬してしまう。
    オレも筋トレしようかなとぼんやり考えたところで、また高い金属の触れ合う音が響く。
    黒川のピアスの揺れる軽やかな響きに、多分このピアスはトレードマークとして採用されるんだろうな、と根拠もなく九井は確信した。
    座席への移動を促す黒川に従う鶴蝶を眺めながら、パイプ椅子に座った乾が袖を引いてくる。

    「どうした?」
    「あの二人が並んでる姿は絵になるし、……何か、一緒にいるのが自然だなって感じがする。前に松野が言ってたのってこんな感じなんだろうなって」
    「そうだな」

    穏やかに微笑む乾へ笑い返し、九井は白い左頬を優しく撫でた。


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