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    エヴァと呪術と腐女子

    主に、エヴァのカヲシン(見る専)そして呪術の五乙&夏乙の同人誌が基本です。その他にはエヴァや呪術の考察小説やオリジナル小説を投稿する予定です。ちなみに、個人的にはエヴァが一番好きで二番目が呪術です。
     アイコンはプリ画像さんからダウンロードしました。
     偶にイラストを投稿しますが、デジタルで描いてないのでご了承ください(デジタルでは描けないんです)
     作品のメモとか途中で力尽きた作品を投稿します。

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    POIPOI 6

    双子で最強、親友で最恐、僕らは「さいきょう」シリーズのまとめ

    #五乙
    fiveB
    #乙骨憂太
    boneWorriesToo
    #五条悟
    fiveGnosis
    #双子
    gemini

    双子で最強、親友で最恐、僕らは「さいきょう」 まとめ1989年  五条悟 
         五条憂太 誕生
    この年、対の怪物が世に生み出された

    「おい、憂太。」

    声変わり前なのに僕よりも男性らしい低くて甘い声が背後から聞こえてくる。
    サラサラの生地がふんだんに使われた白と瑠璃色のグラデーションと背後から聞こえてくる声の主の目の色と同じ花が咲き乱れる僕の小紋に声の主、改め僕の双子の兄である悟兄様が羽織った小紋が重なる。

    「何ですか?兄様」
    「兄様なんてやめろよ。胡散臭くてて仕方ねぇ。」

    兄様…いえ、悟兄さんはドッカリと僕の隣に腰を下ろす。
    僕がいるのは、自室の縁側兼釣殿で、いつも涼しい風が吹き抜けるから家の中で一番のお気に入りの場所なんだ。
    僕の生まれた五条家は呪術御三家の一角を担う、いわゆる名家で、能力の高さが物を言う家で、能力が高ければ兄を差し置いて弟が家長になることもある家でもあるんだ。
     僕の悟兄さんはこの家の相伝の術式を引き継いで生まれてきた。相伝の術式でなければ意味がないということで悟兄さんより劣る僕は家の中で疎ましそうな目や品定めされるような目で見られていたんだけど、相伝の術式にはない、模倣コピーという術式と相伝を引き継いだ悟兄さんよりも多い呪力量によって母屋から離れた釣殿付きの部屋を与えられたけど、その代わりにそこから出ることは許されていないんだ。
    現在、僕らは9年の人生に突入し、謳歌?している。古い名家ならではの風習で、僕らは女の子の格好をさせられているんだけど、兄さんは家を破壊するという脅迫を当主である父親に行うことで、女物の小紋を羽織っておくという条件の元、着流しを着ることが許されている。

    「何ですか?兄さん。」
    「いーや…何でもねぇ…」

     双子だからわかるとかそういうのじゃない気がするけど、長年一緒にいるせいか兄さんが苛立っていることが肌から感じられる。
     兄さんはまっすぐ前を見つめたまま銀細工のような髪を風に遊ばせている。兄さんは生きて動いているのが不思議に思えるほど神秘的で綺麗な顔立ちをしている…それに対して僕は、生まれた瞬間から産声を上げることができず、常に病弱で隈が瞼と友好条約を結んでいる…
     一卵性双生児のはずなのにどうしてこうも神は不平等なんだろ…
     唯一の共通点といえば兄さんの白い髪を汚す一筋の銀錆を集めて凝縮したような髪だけが僕の髪色とお揃いだった。
     僕たち双子は呪術師の家に生まれた。それだけでも珍しいのに、兄さんの白い髪には黒の、僕の黒髪には白の、髪が一筋ずつ生えているんだ…染めているわけでもないし、体に異常があるわけでもない…原因もわからないけど取り敢えず無害だからって放置してある。
     正直、兄さんの一筋の黒髪が嫌いだった。兄さんの綺麗で神聖な銀細工に混じって銀にできる錆のような色がなんだか僕が兄さんを穢しているようで嫌いなんだ。
     それに対して、僕は自分の銀錆の髪に生える兄さんの銀細工のような髪が大好きだ。根暗で、病弱で、相伝の術式を引き継がない僕の唯一の長所だって思えるから。だから長く伸ばした銀錆の髪は結ばずに、兄さんの銀細 工の髪は三つ編みにして結んである。
     偶に、背中から胸の前に垂らして太陽の光に反射させて眺めるのがこの閉鎖的な家の中での唯一の娯楽に変わってくれる。

    「菓子でも食うか?」

     そう言って兄さんが懐から取り出した紙袋から何か沢山の小さな物が互いに擦れ合う音が聞こえてくる。

    「憂太にやるよ。」

     僕が口を開く前に兄さんは紙袋を押し付けてきた。

    ガサ

     紙袋を開くと色とりどりの飴が紙袋の口から入り込む光を受けて輝いている。可愛らしい動物や宝石みたいな飴がランダムに入って甘い匂いが昼前の空き腹に誘惑をしかけてくる。
     それでも、兄さんの目の前で腹の虫を制御できずに暴れさせるのはなんだか恥ずかしくて、貧弱な腹筋に鞭打ってどうにか暴れようとする腹の虫をなんとか抑えることができた。

    「飴は兄さんが好きなやつじゃないの?」
    「…今日は憂太と食べたい気分なんだよ。」

    サラリと髪を揺らして僕の方を振り向いた兄さんの右頬には僕が嫌って止まない銀錆の髪が三つ編みになって揺れているのが見えた。

    「一人で食べても美味しくないだろ?」
    「うん…」

    いつもは兄さんの銀細工に混じってくすみ、余計にみすぼらしく見える銀錆の髪がなぜか丁寧に三編みされて深海を切り取ったような宝石でできた瑠璃唐草が飾り立てて眩しいぐらいに光っている。

    「兄さん…」
    「ん?」
    「その髪…」

    飴を頬張る兄さんの方を向いて疑問をぶつけてみた。今は近くに誰もいないから気にせず兄さんとお話ができる。

    「あぁ…憂太とお揃いにしてみたんだ。」

    兄さんは優しい笑顔を浮かべると三つ編みにされた一筋の髪を持ち上げて太陽にかざした。そういえば、ここ最近、黒髪だけ切らずに伸ばしていたような気がする…

    「憂太にも髪飾り、やるよ。」

    兄さんがずいと僕の目の前に手をやって広げるとそこには兄さんの目を取ってきてしまったのかと思えるほどそっくりな色の宝石でできた瑠璃唐綿の花が咲き乱れている。花本体の他にも花弁を模した宝石がチェーンによって組紐から垂らされて星よりもまばゆく光っているのが目に入ったとき言葉にはできないほど綺麗だと思ったよ。

    「結んでやる…」

    兄さんがそれだけ言って僕の背後に回り込むと結んであった銀髪の麻糸を解いて優しい手付きでゆっくりじかんをかけて結んでくれた。

    「…憂太ほど上手くないと思うけど…ほら…」

    兄さんが僕の背後から、隣に座ると同時に胸の前にキラキラ輝く銀髪とそれを更に華やかに飾り立てる瑠璃唐綿は兄さんの瞳のように青く強く美しく星よりもまばゆく光って僕を暗闇から照らしてくれた。

    兄弟姉妹が疎ましく感じられることもあるかもしれない
    それでも、この世に生まれた仲間であるのは変わらない…
    そう一般人の親は子に教え説くがここに生きる対の怪物は互いに欠かせない存在として共にある…

    「美味いな…憂太は?」

    兄さんは僕の手の中にある紙袋から飴を一粒取り出すとヒョイと宙に放って、飴が太陽の光を反射して光ったと思ったら桜よりも桃色が似合う兄さんの口の中に消えていった。
    正直に言うと兄さんが僕の髪を結んでくれたところまでは覚えているんだけど数秒間だけ記憶がない…
    現実かどうかわからないけど胸の前で光る飾りがこれは現実の出来事だって脳に語りかけてくる。

    「おい!大丈夫か?」

    思考の海にクラゲのように漂っていると兄さんが本気で心配そうな顔をして僕の顔を覗き込んできた。う、か、顔が眩しい、目がやられるっ
    兄さんのパーソナルスペースが狭くて毎回心臓に無理をさせているんだけど、それでも綺麗な兄さんの顔が拝めるのだから少しぐらいは無理をしてもらおうと思えるんだ。

    「うん、大丈夫、ところで兄さん、そういえば今日は父上との鍛錬するんじゃなかったの?」

     平静を装って今日の兄の予定を頭に思い浮かべて聞いてみた。

    「弱っちい親父から学べることなんてねぇだろ。」
    「でも、呪術師として学べることぐらい…」
    「無いね。憂太と鍛錬するほうが有効的に時間を使えるね。」

    嬉しいなぁ。
    父上には悪いけど、父上よりも僕を選んでくれたことが一番嬉しい。

    「ほら、早く食えよ。そしたら鍛錬するぞ!。」

    兄さんがぐいと袋から取り出した飴を頬に押し付けてくる。
    あぁ…嬉しいなぁ…幸せだなぁ…
    呪術界の闇を常に身に受けて生きていかなきゃならないけれど、この小さな閉鎖的な家から出られなくても兄さんがいればこのままでも良いかもしれない…

    「ほらぁ!早くしろぉ!。」

    兄さんが笑いながらグイグイと押し付けてくる。
    兄さんの笑顔は僕だけに向けられるんだ。今のはちょっとメンヘラっぽい発言だったかな…でも、この僕がここで生きる為の唯一の理由が兄さんが側にいてくれることだから…それに兄さんが僕以外の人の前で笑ったり笑顔を見せることなんてなかったから…単純な思考しかできない僕はそう考えたんだ…
    ぐるぐる回る無機質な味の情報に水に溶ける砂糖のように入り込んでくる甘味が染み込んできた。兄さんが強引に僕の口に飴を押し込んできたんだ。

    「どーだ?美味いだろ?」
    「…うん。」

    甘い、だけどその中にある違和感が口に広がる…まるで…甘い毒のような…!?

    バシッ!
    バラバラバラ!

    毒だと認識した途端、体全体に一瞬で毒が回るのがわかった。体力も健康な体もない僕は呪術を極めるしかなかった、だから常に呪力を体内に循環させて異物の排除など血液の役割を補助させていたけど、毒によって血液の力を妨害されていくのがわかる。
    反射に等しい動作で兄の手に渡った飴を袋ごと叩き払った。飴が袋から飛び出して畳に散らばる。池に落としてしまえば証拠が消えてしまうと咄嗟に判断できた。

    「どうした!?憂太!?」
    「グ、ゲホ!ゴホ!。」

    苦しい苦しい、息ができない、助けて…兄さんを守らなきゃ、飴に、毒が盛られているって!

    「ど…どくっ!?ゲホ、くっ!。」

    口を抑えながら必死に伝える。伝わったかどうかなんてもうわからない。朦朧とする意識の中、ゴボゴボと自分の血液が口から吐き出ていくのがわかった。
    釣殿の床と自分の小紋と池の水を真紅に染め上げる。それが自分の最後の記憶だ…

    天井だ…
    何でかわからないけど屋根の向こう側に青空が広がっているのが視える…
    なんでだろう?
    いつもなら、天井しか見えないはずなのに…

    ドタドタドタ
    バーン!

    地面が揺れるほどの荒々しい足音がした後に扉が通常立てられないような音をたてながら開かれた。
    扉が開かれる前から兄さんだって視えた…何事だろう?尋常じゃない顔をしているけど…

    「憂太っ!。」

    手が思うように動かない…
    というか、左目の違和感が酷い…毒で失明でもしたのかな…まぁ、兄さんが助かったんだし大丈夫か…片目がなくたって生きていけるし…

    「ごめんな…」

    兄さんが…泣いてる?どうして?別に死んだわけじゃないし…
    !?
    父上が接近してきている!?どういうこと?

    「悟、弟が心配だとはいえ、弟の部屋の扉は壊すな。」
    「うるせぇ!クソ親父!」
    「はぁ…相変わらずの万年反抗期だな…」

    父上が僕の枕元に座って額を撫でてくる。ゴツゴツした父の手のひら…柔らかくまだ小さい兄の手より安定感があるけど…兄さんの手の方が僕に寄り添ってくれているみたいなのにな…

    「やはり…双子は難儀なものだな…」

    そう言うと父上は僕の左目を隠していたらしい眼帯を解いた。そして僕の顔の前に鏡を持ってくると僕の顔を映した。

    「兄さんの…眼?…」
    「いままで六眼は一人で生まれてきていたが…憂太と悟は史上始めての六眼との双子だったからな…呪術では双子は二人になってやっと一人前なんだ…1度死にかけた憂太は双子の摂理が働いたんだろうな…おかげで悟もほら…」

    よく見ると兄さんの眼の碧が深い色味になっている…どうしよう…もし兄さんの六眼が役に立たなくなってしまったら…どう責任を取ろう…やっぱり、今ここで死んでしまえば兄さんの元に戻るんじゃないか?

    「自害しようとか考えてるだろうがな、安心しろ、悟の眼の色が変わっただけで何も他に変化は無い。」

    え?…本当に?…大丈夫なの?兄さんが虐げられることも、僕のような目に遭うようなことも無くなるの?

    「毒を盛ったのは飴細工師だ…どうやら呪詛師と組んでいたらしいな…」
    「憂太…生きてて良かった…」

    兄さんは深みの増した綺麗な瞳にどんな宝石よりもどんな高価なものよりも僕にとっては価値がある涙を溜めている…兄さんを泣かせてしまった。それでも…
    新たなお揃い…誰にも見せない秘めた宝物…僕は兄から分けてもらった秘宝を誰にも悟られぬよう、誰の目に触れることもないように左目に白い包帯を巻いた…

    「憂太、僕ら、お揃いだね。」

    やっぱり、兄さんの笑顔が一番綺麗だ。

    あの毒殺未遂事件から数年が経った…
    僕の左目は相変わらず兄さんの眼が光っている。そして目の前に視界を阻む物体があろうともその先を見通すことができた。
    六眼の一部が僕に移ったと聞いたので兄さんみたいにいろんな攻撃ができるのかなって思ったんだけどやっぱり完全体じゃないから使えないみたい…兄さんの術式を模倣すればいいだけの話かもしれないけど、この世で最恐であるのは兄さんでなければ意味がないと本能が警告を響かせてきたんだ。
    本能が直接警告を響かせるのに逆らっても良いことはないだろうからね…
    だから、あの毒殺事件以降も視界が少し広くなっただけで生活に支障をきたすこと無く過ごすことができた。
    今思い出したけれど他にも変化はあって、それが2日に一回の頻度で顔を合わせていた兄さんが最低でも一日に何回も僕のもとに尋ねてくるようになって、僕の部屋の隣の空き部屋に自室を構えたことかな?
    それと暇さえあれば僕のことを膝の上にのせてずっと僕の頭をちゃんと自分の側にいるか確認するかのようにやさしく撫でるようになったこともある意味一つの変化だね。
    それよりも母屋の方が騒がしい…いや、いつも騒がしいことには変わりないんだけど(騒がしい要因の中でも特に悟兄さんが大人たちに反抗するせいであることが多い)今日はなんだか普段怒っていてもあまり大声が聞こえないはずの父上や母上の激高した声が聞こえてくる。
    僕の部屋は以前言及した通り、母屋からはかなり離れているのでよほどの大声でない限り母屋からの音が聞こえてくることは無い筈なんだ…

    「流石に親を殺すようなことはしないだろうけど…」

    以前は兄さんLOVEのメンヘラ気質だったのに急に塩対応になってどうした?と思ったでしょう?まぁ…深い理由があるんだ。
    それは今から説明する。

    「兄さん、兄さん。」

    兄さんのスキンシップが増えてから、天に召されそうなほど嬉しかった僕は撫でられる度に嬉しくて兄さんの方を振り向いて何度も何度も兄さんと呼んだ。
    正直、その時の自分の顔がどんなものかは見えなかったけれど、多分もの凄く変な顔をしていたんだろうね…だって兄さんが僕の顔を見る度に顔を横に背けようとしていたからね。
    兄さんに顔を背けられようとも兄さんといられるだけでも嬉しくて酔いが回っていた僕は兄さんが嫌がっているのにも関わらずにずっと兄さん兄さんと呼び続けたんだ。
    兄さんが僕とスキンシップをするようになってから数ヶ月がたったぐらいだったかな?兄さんと大喧嘩してしまったんだ。
    今思い返してみれば大喧嘩ともいい切れなかったかな…正直、喧嘩というよりも

    「なぁ…毎回俺が撫でるたびに振り向いてくるのやめてくれないか?」

    唐突な発言だった…いや、前兆はあったかもしれないから僕にとっては唐突なんだ。

    「ッ!?どうしてですか?」

    酔いが回っていたはずの僕が一瞬にして兄さんによって一気に現実に引き戻された。兄さんに見放されることを恐れた僕は焦って聞き返した。

    「どうも何も…その顔されると心臓に悪いんだよ…」

    それだけ言って兄さんは僕を膝上から下ろすと部屋から出て行ってしまった…それが、僕の性格が少しだけ変わってしまった理由なんだ…たったそれだけ?と思うだろうけど、閉鎖的で世の中を知らない僕にとっては性格が変わる大きな要因になったんだ…
    僕はそれからは兄さんに嫌われないように努めて兄さんへの執着をできるだけ隠してきた。それで、デフォルメがこんな感じになったんだ…

    がしゃーん!

    そろそろヤバいかな…
    僕は近くにあった羽織を羽織った。

    「兄さん、父上、母上、どうしたんですか!?」

    ドタバタと足音を立てて部屋に入ると兄さんが部屋の中央に立ってめちゃくちゃ怒っているのがわかった。父上は微動だにしない様子だったが、流石に冷や汗を浮かべているし、母上は恐ろしげな表情をして部屋の隅の方へ逃げてしまっている。

    「ゆう…た?」
    「ちょうどよかった。憂太、悟が高専へ入学したいと暴れてな…説得してくれ…」
    「説得?」
    「あぁ…確かに高専は良いところだが、呪術師である以上、教育は必要ないと思うのだ…」

    兄さんは、高専へ入学したいと暴れているのか…そこまでする必要ってあるのかな?

    「兄さん、何も暴れること無いんじゃないですか?」
    「…憂太は、外の世界を見たいとは思わないのか?」

    突然どうしたのだろう?外の世界って、五条家の外のことだろうか……確かに、兄さんと一緒にいたからあまり考えなくて済んだけど、兄さんがもしこの家を出ることになったとき僕がここにいる理由がなくなってしまうかもしれないね…それに…兄さんが望むことだし、もしかしたら兄さん離れができるいい機会かもしれないからね…

    「確かに…気になります…」
    「ゆ、憂太!?」
    「よっしゃー!やりー」
    「だが…」
    「寮では憂太と完全同室、そして定期的な帰省をする。だから、入学させろ。」

    兄さんにしてはまともな提案をしている。でも、父上は厳格だからね…頭を縦に振ってくれるかどうか…

    「……はぁ〜良いだろう…それと、高専卒業後は当主になることも条件に入れろ。」
    「はいは〜い!。」

    兄さんはさっきとは打って変わって、殺気立っていたのが嘘のようにご機嫌で部屋を出てった…
    かくして、僕らは高専に入学することが決まった…

    閉鎖的な家での生活は確かに満足ができるものかと聞かれれば満足できたとは答えられないかもしれない。
    正直、兄に執着する原因がそもそも、頼れる人間が兄さんしかいなかったことだと思うんだよね…
    父上も母上も御三家の人間にしては多少なりともまともだったけど裏ではどんな事を言っているのか信用ならないから…
    それに対して兄さんは言動の芯がはっきりしていて表裏の差が全くないから信用に足りるんだ。
    まぁ、突拍子もない事をするのが玉に瑕なんだよね…
    で、今は届いた制服を試着してみたんだけど…

    「兄さん!。」
    「!?おぅ、憂太か…どうした?」

    隣室の扉を思い切り開いて兄さんの所在を確認した。兄さんは驚いた表情で僕の方を振り向いた兄さんはまだ着替え終わっていないらしく、上半身裸で腰には着流しがだらりと垂れている。
    手には自分の制服とは正反対の色をしている闇に紛れる漆黒の制服だ…

    「なんでよ!?」

    思わず叫んでしまった。いや、だって…兄さんの制服は見本で見せてもらった制服とボタンの数と襟の合わせの形以外は全く同じなのに僕だけ…僕だけ…夜空に輝く月よりも目立つ白、制服を裏返してもタンスの裏側を見ても制服はこれだけ…いや…何なんだよもう!!
    カスタムできるとは知っていたよ!
    それより、なんでこんなに叫んでいるかって!?そりゃ勿論、こんなことするのは兄さん以外にあり得ないからだよ。嫌がらせでなにかされないようにと対策を取るために兄さんに制服の注文表を預けていたんだけど…いたずら好きな兄さんが何かしでかさないわけないよね…

    「お〜やっぱり憂太には白が似合うね〜。」

    兄さんは呑気なものだよ…制服のカラーリングなんて注文表の最後の方に目を凝らさないと見えないほどの文字で欄があるんだから…流石六眼持ちだと言うべきかな…まぁ、僕も一部だけだけど六眼もちだから人のこと言えないけど…

    「なんで兄さんは黒なんですか…」

    思い切り恨みの念を込めて自分より頭一つ分大きい兄さんを見上げる…そういえば一卵性なのにこうも差があるんだ…生まれた時間も数時間ぐらいしか変わらないのに…
    僕も流石にそこまで子供じゃないから嫉妬とかはないけどね。

    「ん〜?憂太とお揃でも良かったんだけど、それだと真っ白けになるだろ?」

    兄さんは自分の頭を指さしながら僕の顔を覗き込んできた。
    いや…たしかにそうだけど…ってゆうか安直すぎない?じゃあ、僕は?僕の制服の色を変えられた理由は?

    「正直、黒でも良かったのかもしれない…でもね〜憂太の印象といえば白なのよ。」

    流石兄さん。こうなったらどうしようもないね…兄さんにわからないことが僕にわかるはずなんて無いんだから。
    明日が入学、荷物も搬入済み、後は同級生とか合わせをするのみ…だったんだけど…

    「初めまして。私は夏油すぐr…」
    「変な前髪。」

    それが目の前に広がる瓦礫の山とその前に正座させられて夏油と名乗った男子生徒と兄さんが担任教師に愛のムチを食らってる。今後に不安しか覚えられない初日となった。



    仲がいいほど喧嘩をする…確かにそれには一理あるかもしれない…喧嘩の定義というのは人それぞれ、殴り合いに発展するのが喧嘩というのかもしれない。相手の意見と自分の意見が食い違うのが喧嘩かもしれない。ただただ相手からの反応が帰ってこなくなるのが喧嘩かもしれない…結局これらのことは自分がされたら嫌なことが喧嘩になるんだろう

    入学までにひと悶着あったもののなんとか初日を迎えることができた…の・に!
    またもや兄さんがやらかした…

    兄さんと僕の目の前に差し出された手を僕が困惑しながら見ていたら兄さんよりも小さいけどその差も誤差ぐらいの大きさの男子生徒が自己紹介を進めていく

    「初めまして、五条くんと五条さん。私は夏油すぐr…。」
    「変な前髪。」

    兄さんが話に横槍を呪力を込めて投げ入れた…
    夏油くんのこめかみにあからさまに青筋がバキバキに立っているのがわかった。

    「に、兄さん!。」
    「はっ!こんなやつが俺らの同級生になるわけ?憂太のことも女と勘違いするほどの節穴しか持ってねぇ弱味噌が?」
    「兄さん!。」

    駄目だ…完全に口は笑ってるけど目が全然笑ってない。五条家の親戚に対するときの目と全く同じ目で睨んでる…

    「僕が悪いんです。僕の髪が長いのが悪いんです。」

    正直に白状すると五条家の風習で女の格好をするのは本来は10歳までで、それ以降は男の格好をしても良くて、現に兄さんは長く伸ばしていた黒髪を偏り少し下までの長さで切ってしまったんだ…まぁちゃんと三つ編みにして髪飾りもしてくれてるけど…
    横目に夏油くんを見ると体の横でギュッと血管がバキバキに浮き上がった手で拳を握っている…かなりまずい…他人の僕が見ても確実に怒っていることがありありとわかる…

    「こいつも髪長いくせに観察力が足りねぇんだよ。数ヶ月後には俺ら二人だけになってるんじゃねぇの?」

    兄さんはわざとらしくギュッと拳を握っている夏油くんを見ながら言った…
    兄さんは性格に難がある上に初対面の人には必ずと言っていいほど喧嘩を売るんだ…もう、五条悟の魂に刻まれた本能みたいな感じで必ず喧嘩を売る…

    「ゆ、ゆうたくん?すまないね…。」

    夏油くんがプルプルと震えながら僕に謝ってくれた。

    「え?あ、いや。髪の毛伸ばしてた僕が悪いんです。大丈夫です。」

    本音を言うと嘘。ちょっとだけ男だって認識されなかったのが悔しかっただけ…だけどその感情を顕にするほどではないから心に秘めておくつもり…

    「はんっ!こんなやつ許さなくていいぞ。そもそも初対面のくせに憂太って馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ!。」

    駄目だこりゃ…
    目の前に逞しい背中が出てきて視界を遮られる。
    神経が自動的に研ぎ澄まされる感覚と同時に兄さんの臓腑と骨肉が透け、その向こう側にいる夏油くんの激情も感じ取れた。笑顔がかなり引き攣っているのもわかる…

    「僕は呼び捨てしてくれる人が増えて嬉しいです。だから怒らないでください。」

    羞恥心を殴り飛ばして自分の中では精一杯の上目遣いで兄さんを見上げた。まぁ、殴ってもしぶとい羞恥心のせいで頬が赤かったかもしれないけど。流石に入学初日にいざこざを起こして今後の学校生活が最悪になってはせっかくの外界も台無しになってしまう。

    「…呼び捨てして良いのは俺だけだろ。」

    なんでそうなるの。嬉しいよ、嬉しいけど今はそうじゃないのよ。彼との和解の言葉がほしいんだよ

    「どーせ弱者でもかばって偽善ぶりながら死んでくんだろ?ダッサ。顔から胡散臭さがにじみ出てるぜ。あ〜くせぇくせぇ」

    ドゴォン

    夏油くんの真横にあった机が煙を立てながら真っ二つになった。
    もう終わった…
    兄さんは机が真っ二つになったのに鼻をつまんで手を顔の前でヒラヒラさせている。

    「おーおー。脅しか?やるならもっと派手にやれよなっ!。」

    ドゴォン
    バリバリバリ

    床にクレーターができて、振動によってその周辺の窓ガラスが一斉に割れた。一応言っておくけど呪力だけでこの被害なんだ。

    「こうか?」

    「ォナカァ…ヘッタヨォオオ…」

    バギバギバギバギ

    夏油くんも兄さんに煽られて教室を使役しているのかわかんないけど呪霊を放って破壊させ始めた。
    止めないのかって?僕が兄さんに適うわけ無いじゃないか。
    まぁ…殴ろうと思えばできるけど。

    「はっ!術式無しで壊せよ弱味噌。」

    バギャギャギャギャギャ

    床に兄さん呪力が走る。それと同時にコンクリート敷きの床が恐らく修復が困難なほどバキバキに割れた。勿論僕は体に呪力を纏って天井まで吹き抜けになった教室から飛び抜けて、隣の教室の屋根に一旦避難した。

    「術式があってもなくても変わらないだろう?」

    夏油くんは額に青筋を立てながら入口(今ではハリボテに過ぎないけど)に向かって呪力を濃縮した玉を放とうとするのが見えた。だけどその先に携帯を見ながら教室に入ろうとする女子生徒が見えた。
    ヤバい
    彼女が誰か知らないけど。何も知らない人を巻き込むわけにはいかない。

    「ちょっとは…大人しくしてくださぁあい!!。」

    左手に反転術式、右手に呪力を纏わせて、左手で兄さんの、右手で夏油くんのみぞおちに思い切り踏み込んで拳を打ち入れた。兄さんの無下限は自動的に害をなすものを弾くけど反転術式は害どころか体を修復するものだから招き入れてしまう、その引き込まれる力を呪力強化の代用にできるんだ。

    「ん?教室間違えたか?なぁ、そこのヒョロゴリラくん。ここって何年教室?」

    携帯から顔を上げた女子生徒が僕に聞いてきた。ヒョロゴリラって…酷くない?言わないけど

    「い、一年教室だよ。」
    「ふ〜ん…で何でこんな事になってんの?」
    「それは…その…」
    「ゴラァアアア!入学早々何やってるんだ!。」

    で爆音を聞きつけた担任になる予定の先生が兄さんたちに指導という名の肉体的指導があって今の惨状だ。
    ガミガミ雷を落とされる兄さんたちを背景に女子生徒と対面している。
    髪は肩までで切りそろえられていて何だか大人っぽい女の子だ。

    「えと…遅くなりましたが、初めまして。五条憂太です。」
    「あぁ。家入硝子だ。硝子って呼んで。」

    女子生徒改め、しょうこさんは自己紹介するとさっさと携帯の方に顔を向けてしまった。素っ気ないけどまともな返事をくれるだけでも嬉しい。

    「はぁ…五条…いや憂太と硝子ちょっとこっちに来い。」

    強面の担任が説教し終わったのか僕らの方を向いて手招きしてくる。兄さんの横で飛び跳ねてる人形なんて見えてない見えてない。

    「学生証を配る。無くすなよ。悟。傑。憂太。硝子。」

    一人ひとりの名前を呼びながら学生証が手渡された。

    「全員大体は最初は四級からだ。階級は写真の左上に表記してある。」

    ん?僕のは何で特って書いてあんの?

    「先生。その、僕の学生証、表記間違いがあります。」
    「あぁ…憂太だけ特級だ。」
    「?」
    「強い順に1級、準1級、2級、準2級、3級、4級何だが、一級のその上に単独で国家転覆ができるレベルもしくは軍隊を所持している者に与えられる特級がある。そして特級は今憂太を合わせてもこの世界に2人しかいない」
    「「「「は!?」」」」

    全員が大口を開いて担任を見た。あの大人っぽいしょうこさんまでもが…
    これは…確実に波乱万丈な学生生活になる予感…

    瓦礫の山となった教室を背景にグラウンドに立つ僕は叫んだ。
    何でって?理由は簡単だよ。

    「何でどうしてそうなるの!!!。」

    普通は四級から階級が順に上がっていくはずなのに、僕は…僕は一般的な階級に収まらない階級になってしまったんだ…

    「兄さんのほうが強いはずですよ?階級を付けた人の頭、爆発してるんじゃないですか?」

    普段は絶対に口から出ない暴言も今の非日常ではスルリと滑るように漏れ出てしまった。

    「ま、まぁそう言わずに…」

    担任の先生も困惑した表情をしているけど今はそんな事関係ない。
    だって本当に僕にこの階級を付けた人は頭おかしいんじゃないかって思ったんだよ。
    兄さんは六眼持ちで特級になるのにふさわしいのは兄さんでしょうが!なのに呪力だけが取り柄な僕が特級になれるわけ無いじゃないか…あ、それとももしかして特級は四級よりも低い階級ってことかな?

    「確かに悟は御三家の一角である五条家の相伝使いだが、憂太もその相伝持ちよりも多い呪力を持っているんだぞ?」
    「だから何でそうなるんですか!」

    もう駄目だ…安泰な学校生活が音を立てて崩れていくのが聞こえるよ…

    「ま、まぁ…そう言わずに…」
    「納得できる説明がなければここを更地にしますよ!。」

    流石にやり過ぎだと思っただろうけどちょっと理由ぐらい聞けよ。
    兄さんは僕よりも何倍も強いんだ。わかる?僕なんか屁でもないしなんなら小指で潰せるよ?
    呪術界屈指の御三家の一角を担う五条家の相伝持ちで六眼の持ち主なんだよ!?この2つが揃っているの者は最強であると呪術界では有名でしょ!?呪力なしでも筋肉があることで底上げされた兄さんの力よりガリガリひょろひょろ不健康万年病弱の呪力のみで生きているような僕の方が強いっていうの!?

    「さぁ!説明してください!。」

    担任である強面の男性に詰め寄った。そういえばこの人の名前知らないな…まぁ…ちゃんとした説明をしないならやる殺すだけだけど

    「君が考えている通り、悟は十分強い、ただ考えてみろ。その最強であると考えている人物よりも多い呪力、そして資料によると君は一部ながら六眼も持ち合わせている。それに反転術式持ちだとも資料に書いてあったが上での判断だ。」
    「それがどうしたっていうんですか!特級にふさわしいのは兄さんであって僕じゃない!。」

    優しく諭すような担任の声に少しクールダウンした僕の脳みそは何でそこまで怒ってるんだと疑問に思い始めた。

    「ま、まぁ憂太、そこまで言わなくても。」
    「双子は二人揃ってやっと一人と認識してもらえるんですよ!?知らないですか!?」

    兄さんが横から入ってきた。流石にやりすぎみたい…でもやっぱり納得いかない。

    「あぁ…知っている。だがな、決まりというものがあるんだ。それに当てはまらないのが特級なんだ。」
    「憂太、ほら、一旦落ち着きな。」

    もういいよ。諦めるよ。納得いかないけどね!担任と関係が崩れるのは流石に嫌だし。普段は僕がなだめる役であるはずの僕が兄さんに宥められてるんだから萎えた?よ。

    「一番ヤベェのは弟の方みたいだな。」
    「…そうだな…」

    背後の方からタバコの煙の匂いとともに夏油くんとしょうこさんの声が耳に流れてきたけど、風にかき消されて聞こえなかった。

    「はぁ…納得いったか?」
    「…はい…ちょっとだけ。」
    「そうか…まぁ、過ごすうちにわかるだろう。」

    担任は眉間を揉むと溜め息をついた。ため息をつきたいのはこっちだよ。何で化け物と言われるような階級に勝手にされちゃうんだよ…

    「ところであんた誰?」

    初対面の人に流石にその物言いは失礼でしょうよ、兄さん。まぁ、流石に初対面の人に怒鳴り散らかした僕も人のこと言えないけどね…

    「あんたではない。夜蛾正道だ。お前らの担任を務める。」
    「ふ〜ん…そういうセンセーは何級なのさ。」
    「一級だ。術式は一緒にいるうちにわかるだろう…」
    「ふ〜〜ん。」

    先生は兄さんの失礼な物言いにもあまり動じずに答えてくれたのに兄さんはすぐに興味を無くしたみたい…

    「それよりも悟、傑。お前たち、これから半年は減給だ。」
    「は?高専生に給料なんてあんのか?」

    真っ先に兄さんの口から出た言葉は疑問の言葉だった。そりゃそうだよね。高校生でもアルバイトが許可されている学校もあると思うけど呪術師は表世界でも認められていない職業である上にそんな呪術師を育てる高専がアルバイトを許可などするはずもないのに…

    「一応高専と名乗っているが任務の受け渡し業者みたいなものだ。だから教育は鍛錬や任務の二の次だ。」

    教師なのにそんなこと言っちゃって大丈夫なのかな…やっぱり不安だ。

    「そして任務は命を落としてしまうものもあるから学生であっても給料と言う名の報奨金が出るんだ…正直、俺はお前たちには死なずに卒業してほしいと考えている…だからあまり任務を回すことはしないように努力する…ただ、俺がどうしようもないような事があった場合対処できるように、鍛錬に力を入れようと思う。」

    …いい人なんだなぁ…包帯を少しだけ緩めて先生を視たけど、綺麗な魂が視える。

    「と、いうことで悟と傑。瓦礫の撤去と申請書の作成をしろ。」
    「え〜。」
    「…」

    兄さんは子供のように文句を言ったけど夏油くんも不満げな顔をしている。

    「瓦礫の撤去が早くできたら申請書の作成の免除を考えてやってもいいぞ。」
    「わかった…」
    「わかりました。」

    おぉ…流石教師、あの兄さんに言うことを聞かせたよ。

    「じゃあ…一時和解だ。」

    あ、まだ喧嘩していることになってるのね…

    「チッ…免除のためだ…和解す…るわけねぇだろバァーカ!。」
    ドゴシャァ

    兄さんが夏油くんの手を握り返したと思った瞬間、夏油くんが宙に舞い、そしてグラウンドの硬い地面に上半身からめり込んだ。

    …拝啓父上、母上。どうやら兄さんは本気で喧嘩できるほどの友人を見つけたようです。
    南無…と合唱する僕の背後で瓦礫が飛び交い、その場を離れたはずの先生が怒号を上げながら術式を発動し、めり込んだ状態から抜け出た泥まみれのブチギレた夏油くんが兄さんにやり返そうとする惨状が繰り広げられた。

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