背中を見るもの小ぶりな袋のお礼をする表情が、はにかみから溢れた喜びに満ちたものだったから。
「よかったね、何か欲しいものでもあるのかい?」
大切な封筒をポケットに仕舞っているところに声を掛けると、ハッと振り向いて小さな頭がこくんと頷いた。望みを声に出すのが面映ゆいのかもじもじとしているのがいじらしくて、屈んで耳を寄せてみる。そうでなくともテリオンの声はいつもささやかなので、うっかりすると聞き逃してしまう。しかし意外にも、至近距離で告げられたのは私にとって非常に馴染み深い場所であった。
いつも学生や学院関係者で混み合っている馴染みの書店は、今日は年明け間もないこともありお客はほとんど入っていない。いつもは慌ただしく会計や在庫整理に追われている店員も暇そうに頬杖をついている。
書店の扉を潜った途端、テリオンはきょろきょろと辺りを見まわしたりちらちらと私の顔を伺ったり、繋いだ手をもぞもぞと動かしたり落ち着かない様子を見せ始めた。
先程の様子からすると人目を気にしている可能性もあると思い、私はこちらを見てくるよと少し離れた所から見守る事にした。
しかし、テリオンがこの店で欲しいものとは一体何であろうか。
あの子と暮らすようになってから、私は実家にある児童向けの本を沢山取り寄せた。かつて私が事あるごとに強請り続けた事もあってその品揃えは大したもので、有名な児童書はほぼ揃っていると言っても過言ではないだろう。ましてやこの書店は学院に近い事もあり置いてあるのは参考書や学術書がほとんどで、児童向けの本が充実しているとは言えない。
「おや……?」
子供たちの間で流行っている本でもあるのだろうか?と追いやられるような端に位置する児童書売り場を覗き込んでみる……が、そこにテリオンの姿はなかった。
人の少ない店内とはいえ子供の姿を見失うなんて保護者失格だ。慌てて店内を見回すと、背伸びして受付に分厚い本を差し出している小さな後ろ姿が見えた。
声を掛けようとして踏みとどまる。テリオンが差し出している本にとても見覚えがあったからだ。受付に座る店主も、目の前の子供と受け取った本を見比べて目を白黒させている。
無理もない、それは学院でも経験を積んだ学者達が手に取る専門性の高い学術書で、到底子供に読めるような書物ではない。著者は──サイラス・オルブライト。
私と一瞬目が合った事でいろいろと察したであろう店主が、満面の笑みで子供にも持ちやすいよう袋に入れてくれている。あの様子ではきっとその後の話を聞きたがるだろう。思い切り緩んだ顔まで見られてしまったし、次に訪れるときには差し入れでも用意しておこうか。