暁を迎えに(仮)「会いたいと思わないのか?」
「思わないことはない。いつかどこかで元気な顔を見られたらいいなとは思ってる」
「はあ、謙虚なことで」
「そうだろ、私はわりと謙虚なんだ」
「今は、な」
「今も、だ」
杉元は、目深にかぶった帽子を取ってゴシゴシ汗を拭いた。夏の木漏れ日が、傷のない顔にチラチラと落ちる。蝉時雨の合間に、手のひらを冷やすアイスコーヒーの氷が涼しげな音を立てた。
「良かったな」
「え?」
帽子のつばを深く下ろした杉元に、鯉登は少し笑った。そんなにせっせと隠すものもないくせに、なぜか癖みたいになっているそれが健気で微笑ましかった。そして、その献身はこの度めでたく成就したのだ。
「夏が終わった頃に惚気話を聞いてやるから、たっぷり用意しておけ」
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