居場所期待してるよ、誰に言われた言葉だったろうか
頑張ってな、何を頑張ったらいいのか
誇りに思うよ、誇りとは何だろうか
勇者、勇者とは何だろうか
悪魔の子、ボクが何をしたというのか
みんな好き勝手にボクを祭り上げて、危険だと言われたらそれを信じてボクを怖がる。
もちろん、ボクを勇者だと、世界を救うのだと、思ってくれてる人はいるだろう。
でも、なんでボクなの?なんでこんなに苦しい思いをしなければならないの?なんで痛い思いをしなければならないの?なんで?なんで?どうして?
辛い、痛い、助けて、ボクを、誰か、誰か、"ボクを"助けて、勇者じゃない、"ボクを"助けて。
ドロドロと黒い気持ちが流れ出てきて飲み込まれたところでボクは夢から覚めた。
ここ最近は同じ夢を見る。
"ボクを助けて"
勇者という言葉はこんなに重い。
どれだけ助けて欲しくても、どれだけ怖くても、どれだけ苦しくても、どれだけ痛くても、"助けて"なんて言えないのだ。
言葉にしようとすると何かがせりあがってくるように吐き気がした。
仲間達に休んだほうがいいと言われて宿屋にいるが、休めそうにもない。
ふと、鏡を見ると酷く疲れた顔がうつった。
お前だからじゃない、勇者だから必要とされているのだ。
誰かが頭の中に囁いた気がした。
「あぁ、そうだね、ボクじゃなくたっていいのは知ってるよ。」
囁いた言葉に返事をする。
ならばこちらに来るのはどうだ?
「こちら?」
魔王になってみるのはどうだ?
「ボクが?魔王?それこそボクじゃなくてもいいじゃない。」
お前だから声をかけているのだイレブン。
「ボク、だから?」
そうお前だからだ。
心臓が痛む、締め付けられる。
違う、ダメだ、これは罠。
わかってる。わかってる?
こちらへ来いイレブン。
「助けてくれるの?」
助けてやる。
助けてやるだなんて、なんて簡単な響き。
そんな響きが心地いいなんてボクも末期なんだろうな。
「ボクは」
どこともわからないが、手を伸ばそうとする。
ボクは何を言おうとしているんだろうか
「イレブン」
ドッと心臓が強く鳴った。
現実に引き戻されるような感覚。
後ろから抱きしめられている、と理解するにはちょっと時間がかかった。
「か、か、か、カミュ!?なん」
抱きしめられている、と理解すると次にくるのは困惑だ。慌てて腕から脱出を試みる。
「俺が助けてやる。」
カミュの腕から脱出しようとバタバタしていた足と腕はピタリと動かなくなる。
「…え?」
何を言われたのか、理解が追い付かない。
「変なやつの手より、俺の手をとれイレブン。」
あの声が、カミュにも聞こえていたのだろうか
「助けてと言ってくれ。」
答えに困っていたら追い討ちをかけられた。
揺らぐ、揺らぐ、ダメだとどこかで警報が鳴る。
「…カミュ」
でも、もう限界だった。
「ん?」
優しげな声色。
それだけでも、ボクの理性を壊すのは簡単だったようで。
「た…す…」
涙があふれる。
「たす…け…てカミュ…」
感情のダムが決壊しそうだった。
涙が止まらない。
抱きしめられていた体勢からカミュの顔を真っ直ぐ見る体勢にかえる。
「俺がお前を助ける。」
その驚くほど優しげな表情にボクはもうダメだった。閉じ込めていた感情は、それはもう簡単に、ぼろぼろ、ぼろぼろ落ちていく。
「っ…いたいよぉ…こわいよぉ…ぼく…ぼく…くるしいよぉ…かなしいよぉ…」
ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙も一緒に
そんなボクを何も言わずに、そっと抱きしめてくれるカミュに、醜くて、弱くてごめんなさいと謝ると
「そんなお前も愛してる」
と耳元で囁かれ、涙も忘れて湯気が出そうなくらい赤くなったボクを見られるはめになった。
カミュはいたずらっ子のように笑ってそれから
「お前の居場所は俺の隣な、おかえりイレブン」
と言った。
別の意味で助けてほしい、ボクの心臓が持ちません…
(素でこれってどういうこと!)