触れるまでの一秒すら惜しい食堂で食事をとっている最中、カルエゴの口元をバラムはじっと見つめていた。反れる事の無い視線に堪えきれなくなったのか、カルエゴは食事を摂る手を止める。
「何か言いたい事あるのか?」
「え?」
「さっきから見すぎだろ。何だ」
「えっと……後で話しても良い?」
言い辛そうに視線を反らしたバラムに、カルエゴは解ったと頷いた。
食事を終え校舎裏の生徒があまり入り込まない木の下に腰を下ろしカルエゴはで?と前触れ無く理由を訊ねる。
「あーえっと……カルエゴくんの牙綺麗だなぁって」
「牙?」
首を傾げたカルエゴにバラムはこくこくと何度も頷く。
「もっと見てみたいんだけど……ダメ?」
「見るって……や、良いけど」
「ほんと?じゃあ口開けて?」
渋々口を開いて見せたカルエゴにバラムは距離を詰めカルエゴの口の中を覗き込む。食後歯を磨いたとは言え口の中を覗き込まれる経験等無い上、片想いをしている相手にこれだけ近付かれては心音がはね上がってしまうは当然の事。
「触っても良い?」
バラムから訊ねられる事が何なのか理解する事も出来ず、訳も解らずカルエゴは小さく頷いた。
バラムは手袋を脱ぎ、カルエゴの牙へと触れる。牙に触れただけだと言うのにカルエゴの体には電気が走るかのように衝撃が走る。バラムは力を込めすぎないよう優しく歯列をなぞる。牙をなぞりながらも歯茎や唇に触れるバラムの手の感覚にカルエゴは頬に熱が集まるのを感じる。
遠慮無く触れるバラムの指先に苦し気な声が漏れ、手を止められたかと思えば大きな瞳が楽しげに歪み手を口の端に指を入れたまま距離を取る。
上気した頬。荒く上がった息。目尻には僅かに涙が浮かんでいる。飲み込めずに溜まった唾液が溢れそうになっているのを確認すると、バラムはマスクの留め金を外した。
舌が口角をなぞりバラムの指を噛まぬよう僅かに開いたままの口内をなぞると、カルエゴの体がびくりと跳ねた。
(あ……可愛い)
指を抜き舌を差し込んだまま、カルエゴの唾液を舐めとり飲み込む。唇が触れ、真っ赤な顔をして目蓋を下ろしたカルエゴにバラムは舌で口内を味わう。
バラムを引き離そうとして伸ばしていた手がバラムの制服を握ると同時にカルエゴの体は芝生の上へ押し倒される。
「んっ」
甘い声があがり、バラムは声が漏れないよう唇を覆うように甘噛みする。
バラムが唇を離すと、カルエゴは整わない息のままバラムを見上げる。
「可愛い。カルエゴくん」
潤んだ視界の向こうでバラムが微笑んだのが解った。
再び唇が触れるまで後一秒――――