ボツボツ1
「カレーがあってさ」
と獅子神が言った。村雨はエレベーターへの長い廊下を並んで歩きながら、拳一つほど高い位置にある彼の顔を横目に見上げた。
「深鍋いっぱい。スパイス多めで、肉は牛を軽く焼いてから煮込んだやつ。食うか?」
「いただこう」
よし、と獅子神は頷いて、二人を先導する梅野に「てことだから村雨もオレんちな」と声をかけた。
銀行員は小さく肩をすくめて、「仲が良くて何よりです」と皮肉でもなさそうに言った。
獅子神の家を訪れるのが何度目か、もう数えていないが、他の二人のどちらもいないのは初めてだった。
靴を脱ぎ、エントランスに備え付けのサニタリースペースで手を洗ってから、獅子神の後を追う。家の主人はキッチンシンクで手を泡だらけにしながらこちらを振り返った。
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