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    超今更なデンアキワンドロライのお題【思い出す】に寄せて…ということで9巻後の薄暗いデンアキです!付き合ってないけどデンアキ!

    #デンアキ
    denaki

     一回だけアキにタバコを吸わせてほしいとねだったことがある。
     パワ子ちゃんが夜中に泣いて叫んで暴れるのを俺とアキでどうにかなだめすかして、体力を使い果たしたアイツが眠ったのを見届けて。ふたりでなんとなくベランダに出た。吐く息が白くなり始めた頃だった。
     あの頃のアキは、ただでさえ少ない自分の持ち物を整理するのにハマってた。もう使わないもんを捨てたり、あんまり着てないまましまってあった服を俺にくれたりした。
     今になって考えりゃ、それが別にマイブームでもなんでもなかったっつーのは俺でも分かることだけど、そん時の俺にはその程度の行動だったし、なんかしゃれた服もらえてラッキー、とかそんな感じのことを思っていた。
     ちょっとさみぃなと感じるベランダで、アキが部屋着のポケットから出したタバコはその作業中に偶然発掘されたものらしい。いつの間にか吸うのを見なくなってたから、タバコを持つアキの姿はなんか、もうスゲーめちゃくちゃ懐かしく思えた。そんなに経ってないはずなのに。
    「めずらしー」
    「うるへぇ」
     俺のひとりごとはしっかり聞こえていたらしい。タバコを銜えたアキが返した。なんちゃらかんちゃらと何語だかわかんねえ文字が書いてある箱の中には、残り少ないタバコとライターがせまそうに同居していた。
     片腕だと不便だろうから、俺が火をつけてやろう。そう思ってほれ、と手を出すと、アキは思いきり顔をしかめて俺を睨んだ。いつも思うけどコイツの睨み顔殺意高すぎ。
    「ハァ~? ンで睨むんだよ。コワ」
    「やんねえぞ」
    「ちげぇし……火! つけてやるっつってんの!」
     だから早くライター寄越せ。俺がそう言ってずいずい手を突き出すと、アキは少しのけぞりながらライターを俺の手のひらに落とした。なんか言いたそうだったけど、タバコを銜えてるから何も言えてなかった。
    「………ん」
    「…………ン、ん?」
     いやアキ、火つけるだけなのになんで目ェとじてんだ? え? チューしてほしいってこと? いや、じゃあタバコがジャマじゃね? てかチューしねえだろ、男同士だぞ。
     わけわかんなくりなりながら黙ってタバコに火をつけると、アキはまつげをふるわせながら深く息を吸いこんで、俺から顔をそらして煙を吐き出しながら目を開いた。なんかそれがすごくゆっくりに見えた。
    「うめえ?」
    「まずい」
    「んだそれ」
    「時間が経ったタバコはまずくなんだよ」
    「ふーん……」
     小さいタバコの火がアキの輪郭を照らしていた。俺たち以外のみんな死んだんじゃないかと思うような静かな夜だけど、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの音量で静かにタバコは燃えていった。
     アキの横顔はいつもどおりだ。いつもどおりの寝巻に、オレが結ってやったチョンマゲ。なんで髪切らなかったんだっけ、と思ったけど、俺らが切らなくていいって言ったんだった。
     パワーがやった時は何回も髪引っ張られていてえって言ってたし、できたチョンマゲはゴムとゴムの間から髪の毛が飛び出てて、枝分かれしてるみたいでおかしかった。一回だけマキマさんが結びなおしてくれたと言っていた時のは綺麗だったけど、ちょっとだけ場所が低いと思った。俺のほうが再現度たけーじゃんと思った。マキマさんと張り合ってどーすんだよ。そんなことを思ってたからか、なぜか、マキマさんに触ってもらってズルいなんて一ミリも思わなかった。
     なんでだろ? わかんねえけど、アキは特別なんだ。
    「…………」
     柵に背中を預けてベランダの天井を見る。一面の白いコンクリ。触ることはないけど、アキのあったかさを感じる距離で並んで立っている。
     むしょーに、アキの考えてることが知りたくて。そしたらアキのタバコが欲しくなった。
    「なぁアキぃ……やっぱそれ俺も吸いてえ」
    「お前みたいなガキにはまだ早い」
     即答。アキはかたくなだ。ケチだ、と漏らすと、ケチじゃねえだろ法律だぞと返ってきた。かたくなだし地獄耳だ。
    「無理に大人の真似ごとなんてする必要ねえだろ」
    「そーいうわけじゃねえけどぉ……」
     冷たい風が吹きこんできて、俺たちの髪を揺らした。タバコの火がアキの横髪を焦がしちまうんじゃないかと思って横目で見たけど、別にんなことはなかった。だいだいいろの火が静かに、じりじり燃えていく。タバコはどんどん短くなっていく。俺はなんかそれを止めたいような気持ちになって、なんだそれ、と思う。
    「吸うならハタチになってからにしろよ」
     そう言いながらアキはさっきまでよりも長く煙を吐いた。
    「俺はこんなもんに頼らなくったって、歳取っていけば自然と大人になれるんだって思ってた」
     アキは行儀悪く、タバコを足元に落としてサンダルで火を消した。
    「そんなことねえのにな……」
     そう言ってるあいつの顔、うまく思い出せない。
     黒い空に浮かんで消えていく白い煙の、どこからアキの息が始まってんだろ? とか、どーでもいいこと考えてたから。


     なあ、やっぱよお、あの時やっぱちゅーすんのが正解だったんですか? 早川センパイよぉ。大人のシンボルってヤツを取り上げて、無理矢理しちゃうのが正解だったのか? そうならそうだって言ってくんなきゃわかんねーよな。
     俺は未だにアキのことをどう思ってたのかよくわかってない。でもキスしたいと言われたら、できてたんだと思う。
     答え合わせはできない。手品探偵かぶれのアイツもいないから、推理すらできない。
     なんもわかんねえままで笑い話にもできない、変な思い出だ。
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