Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    izumik22

    長くなりそうなものをちょこちょこアップする予定。
    お気軽にリアクション頂けると嬉しいです😊

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 💙
    POIPOI 12

    izumik22

    ☆quiet follow

    つづき。めるめる自覚編。モブ婚約者の気配がするので、苦手な方ご注意ください💦
    相変わらずウダウダしてるメルメルと、何を考えているかわからない燐音くん。

    #燐ひめ
    rinhime

    期限付き〝恋人ごっこ〟する~(以下略) ④ 例年より少し長かった梅雨が明け、途端に日差しが夏の鋭さを増した。世間に漂い始めた夏休み前の浮かれムードに持ち上げられるようにしてイベントや特番にCrazy:Bが呼ばれることも増えていった。ユニット自体に夏のイメージが強いのかもしれないし、休止する前にできるだけ四人揃った姿を見ていたいというファンの要望もあったのかもしれない。
     秋冬のライブツアーのチケットは即日完売したと聞いた。セットの配置を工夫することで座席数を増やして追加受付ができないか、もしくはリアルタイム配信が可能かを検討しているところだ。
     来月発売するアルバムのプロモーション、ライブの構成作り、グッズの提案、ダンスにボーカルレッスン、取材、撮影、エトセトラ。日々は大したトラブルもなく上手く過ぎていく。――上手く、いっていると、思う。


    「んぃーーっ! もー限界っす!!」
     音楽が止まった瞬間、ニキが板張りの床に倒れ込んだ。そのまま隅の簡易テーブル上に置いてあるコンビニ袋までズリズリと匍匐前進で近寄っていく。その横を足早に通り抜け、HiMERUはコーラのペットボトルを手に取ると一息にあおった。ついでに袋から取り出したプロテイン入りの栄養バーをニキの手元に落としてやると、床に到達する前に素早く飛びついてキャッチされる。野生か。
    「さすがに一時間以上休憩なしで踊りっぱなしはしんどいわ。ニキはん理性残っとる?」
    「食べるのに必死のようですが。少しすれば落ち着くでしょう」
     仕事が立て込んでいる中、全員でのダンスレッスンは久しぶりだった。それもあって、一人ではできないフォーメーション確認を中心に立て続けに踊り込んでしまった感は否めない。
     HiMERUも大分足の力が入らなくなっていて、寝転がったまま口を動かしているニキの隣に座り込んだ。と、ほぼ同時に大きな体がニキの上に勢い任せに飛び乗る。
    「ニキきゅーん、俺っちもげんかーい。充電させてェ」
    「ぎゃーっ!!潰れるっす!やめて!僕からエネルギー吸い取らないで!!」
    「冷てェなァ。そんじゃメルメル~」
    「三万円で手を打ちましょう」
    「数字がリアル!」
     ケラケラ笑いながら起き上がると、今度は鏡前でスマホを弄っているこはくに向かって両手を広げてにじり寄っていく。そんな燐音の背中を見ながら、HiMERUは零れそうになった溜息をコーラと一緒に飲み込んだ。

     日々は上手くいっている。そう、思うのだけれど。
     『充電』そう言って燐音が物理的なコミュニケーションを取ろうとしてくる姿を見るようになった。
    どこぞの吸血鬼でもあるまいし、気力だとか体力だとかを触れることで他人から吸い取れるものでもないのに。
    「……燐音くんなりに、ちょっとくらい寂しいとか思ってるんすかね」
     バーを二本食べ終えて少し落ち着いたのだろう、ニキが呟いた。その視線の先では燐音がこはくに振り払われながら笑っている。
    「……自分で決めたことでしょうに」
    「そうなんすけどねー」
     最近、あらゆるメディアのインタビューであからさまに休止だとかユニットへの思いだとかについて問われる回数が増えた。ラジオ番組に送られてくるメールにもファンの複雑な気持ちが滲んで見える。
     燐音以外の三人はユニット活動は控えながらも表に姿は出し続けるし、ファンとの交流を持つ機会もあるだろう。けれど彼にはそれが無い。ファンやアイドル仲間だけでなく、紆余曲折共にしてきたメンバー三人とも。時が過ぎるにつれ彼なりに実感し、心のどこかでそれを惜しんでいるのだろうか。らしくもない。

    「HiMERUくんは来年からの活動どうするか考えてるんすか?」
     ニキがそんなことを口にするのに少し驚いた。ニキはレギュラーの料理番組の継続とレシピ本の発売が決まっている。バラエティにも良く出演しているし、テレビでの露出が増えるだろう。こはくは別ユニット名義での音楽活動をしつつ、オファーも多くきているらしい演技の仕事をすると聞いている。それからHiMERUは。
    「HiMERUは……ブランドモデルのオファーを数件頂いているので。それから、ソロ名義でも歌う予定ですよ」
    「おぉ~!じゃあまたHiMERUくんの歌は聴けるんすね。楽しみっす」
    「ラジオは三人でも続きますし、たまには椎名も一緒に歌いましょうね」
     だからボイトレはちゃんと継続するように。そう釘を刺すと、なはは~と誤魔化すように顔を緩ませるから、まったくとHiMERUは眉を下げる。それから、ふと少し前のレコーディング風景を思い出した。燐音のあの軽快な声が無い三人の歌はどんなものになるのかと考えて――いくら想像を巡らせてみても、どんな音も聞こえてこなくて少し焦る。

    (無駄なこと考えてもしょうが無い、か)
     何よりも今はたくさんのファンに直接会えるライブと、それに備えてのレッスンに集中すべき。そう意識を切りかえて、そろそろストレッチを再開しようとしたその時だった。

    「兄さん、いるかな?」
     レッスン室に響き渡るほどに力強いノック音に続いて開いた扉から、ひょっこりと覗いた赤い頭。誰だなんて確認するまでもないその声に、四人の視線を一斉に受けた一彩は兄を見つけると慌てたように駆け寄ってきた。手には黒いノートパソコンを抱えている。
    「レッスン中に申し訳ない。許してほしいよ」
     呆気に取られるCrazy:Bの面々に頭を下げる弟にふざけているのではないと判断したのか、燐音の表情が変わった。HiMERU達の知らない、君主の顔だ。
    「どうした、一彩?」
    「さっき急に故郷から連絡があって……その……」
     伺うように視線を巡らせる弟に「大丈夫。みんな知ってる」と燐音が先を促す。それにホッと息をついて、いつもよりやや声量を落とした一彩は口を開いた。
    「婚姻相手の女性が、話したいことがあるって。兄さんに連絡がつかなかったから、失礼だと思いつつもこうして押しかけてしまったよ」
    「あー、スマホ忘れてきたんだよなァ。うっかりしてたっしょ」
    「リモートで繋がってるから。今話せるかな?」
     言いながらノートパソコンを簡易テーブル上に広げようとした一彩に、転がっていたニキが跳ね起きた。
    「なになに?燐音くんの婚約者さんのカオ見えるんすか!?」
    「おいニキ」
    「残念だけど今向こうのうぇぶかめら?が壊れていて、画面は映らないんだ。会話はできるのだけど」
    「えぇー」
    「こらニキはん、個人的な話や。わしらは一旦こっから出てったほうがええやろ」
    「わかってますけどー。こはくちゃん、気にならないっすか?燐音くんの婚約者」
    「そら、燐音はんと結婚しようっち変わりモンは気になる。正直見たい。なぁ、HiMERUはん」
    「――――」

     突然。息の仕方がわからなくなった。胃がムカムカして、飲み込んだばかりの炭酸が食道を逆流しそう。動いた直後の空きっ腹にコーラなんて入れるんじゃなかった。
     酸素が足りなくて頭がガンガンと鳴る。目の前の一彩が、ニキが、こはくが。霞んで。燐音が振り向く。
     指から力が抜けて、持っていたボトルがゴンっと床を鳴らした。

    「HiMERUはん?」
    「……あ」
     名を呼ばれて途端に視界がクリアに戻った。首を傾げるこはくの顔。幸いにも周りからしてみればほんの一瞬のことだったのだろうか、HiMERUの様子を誰も不審に思ってはいないようだった。慌てて転がるコーラを拾い上げて、ぐっとせり上がってくる吐き気を抑え込むように咳払いを一度。
    「そ、うですね。天城を伴侶としようだなんて失礼ながら変わった感性のようですし、どんな方か興味深いところですが。女性相手に盗み聞きは許されないでしょう」
     気にはなりますけど、席を外しますね。そう告げてHiMERUは皆に背を向けた。倣うようにして他の二人も各々の荷物を取りに行く。
    「悪ィな。終わったら連絡する」
     スマホ持っていないくせにどうやって。そう思ったけれど、振り返らずにレッスン室の扉を潜った。胃がギュッと縮むようで無意識に掌で擦る。本当ならしゃがみこんでしまいたいのだけれど、そんな姿を彼らに見せたくはない。せめて独りになりたかった。外に出よう。少し、遠くまで。

    (そうか……)

     扉を閉める直前。マイクを通した、少し機械的だけれど柔らかい女性の声が「燐音様」と紡ぐのを聞いた気がした。

     
     結局、その後燐音からの連絡が無いままダンスルームの貸切時間はタイムリミットを迎え、三人はそれぞれ次の仕事へと散ったのだった。


    ***


     帰宅途中のコンビニで思わずカゴに入れてしまった缶ビール。プルタブを引いた瞬間のカシュという気の抜ける音が、無音の自室ではやけに大きく聞こえる。
     ソファに深く沈み込んで、ひと口。初めて買ったその銘柄は何だか苦みが強く舌に残って、HiMERUは思わず柳眉を寄せる。それでも続けて二度、三度と缶を傾けては喉の奥でひっかかるしこりを流すように飲み込んだ。
     ビールの味は飲んでいるうちに慣れるものだという。アルコールを嗜むようになってそれこそ初めは、世間の大多数と同じ様にこんなもののどこが旨いのか――燐音がなぜ進んで口にするのか、まったく理解できなかったけれど。付き合いだなんだと口にしているうちに、甘くないそれを欲する時があるのだと知った。
     ああ、嫌だ。気持ちの晴れないことがあった時にアルコールに逃げるなんて、大嫌いな駄目なオトナそのものなのに。

    「……ぜーんぶあいつのせいだ」

     全部。ぜーんぶ。胃が痛いのも頭が痛いのも息ができないのも目が霞むのも。全部。
     大きく口を開けて笑うのも、たまに年上の顔をするのも、見つめてくる碧も、隣で踊る熱も、歌声も。全部。 
     
     ――全部。
     好きだと、思い知らされた。

     わかっていて始めた「恋人ごっこ」だ。
     男同士、アイドル。だからこそ。期限の決まっている関係は気楽で、性欲処理にはもってこい。後腐れなく終わりにするのが条件の一つ。
     それなのに。
    (わかってた――なんて)
     とんだ思い上がりだった。
     唐突に、ではないのだけれど。現れた「婚約者」の声が、聞こえてしまって。ああ、本当に存在しているのだとここにきて初めて妙な現実感を持ったのだ。それは想定外の大きな衝撃で、ショックを受けた自分自身にも動揺した。
     おかしな話。身体なんてとっくに明け渡してしまって、そこにセフレ以外の感情なんて無いはずだったのに。いや、そもそもセックスできた時点で少なからず気持ちがあったのだろうか。気がついたのと同時に失恋だなんて、いくらなんでも格好悪すぎる。〝HiMERU〟は完璧で憧れられる存在でいなければならないのに。 
     
     手の中の缶はあっという間に軽くなって、振るとパチャパチャ間抜けな音を立てた。もう一本買えば良かった。そう思いながら、汚れ一つ無い天井をぼんやりと見上げる。あいつの肩越しに何度も見上げた白い天井。
     始めたのはこの部屋だった。誰かのものになるなんてもったいない、そう思って。
    「我ながら趣味が悪い……」
     変わった感性の方、だなんて。そのまま自分に跳ね返って突き刺さる。

     一体いつから?
     肌を合わせて生まれた情か?仕事の場で見せるアイドルとしての輝きに惹かれたからか?それとも軽薄な笑みの下の素顔が存外自分と似ていたからか?
    もしかしたら、最初の夏、勝手に消えようとした彼にたった一人で会いに行った、あの時にはもう?
     きっかけなんて今となってはわからないけれど。

     考えたところで、自分は彼が故郷に戻るその日までの〝恋人〟(仮)。その現実は何も変わらない。そう堂々巡りの思考を断ち切って、冷蔵庫の水を取りに行こうと立ち上がった時だった。
     ピコン
     バッグの中から聞こえたメッセージの受信音。
     手探りで取り出したホールハンズに通知は無い。
    (まさか……)
     もう日付も変わるこんな時間に、それも〝こっち〟に連絡してくるやつなんて。

    『甘いの。何か食いたいモンある?』

     私用端末に表示された予想通りの名前に、驚きよりも呆れが先立った。待ってくれ、いくらなんでも今夜はそんな気分になれない。昼間婚約者と話をしていたくせにデリカシーというものが無いのかこの男は。
     画面を凝視したまま指を動かせずにいると『メルメル?』と続けざまに放たれる短いメッセージ。断ろう、そう思って指先を動かすのと電話の着信が同時だった。
    (しま……っ)
     スライドしてしまった画面は通話中を示す。
    『……あ、出た』
     聞こえてきた声は考えていたのとは違って驚くほどに落ち着いていた。切ろうとしていた手が止まる。
    「――なんでしょうか」
    『理由が無きゃ来ちゃいけねェ?』
    「いけないに決まって――あんた、今どこ」
     言い方が引っかかった。
     外れてほしかった予感ほど良く当たるもので。澄んだチャイム音が、玄関と耳にあてたスマホの中とで二重に届く。
    『充電。させて』
     部屋に招き入れてしまえば。また、セフレだと思い直すことができるだろうか。気付いてしまった気持ちと一緒にゴムの空箱を捨てるのだ。期限を迎えるその日までに。
    『ダメ?』
    「……五万」
     努めて冷淡に呟けば、値上がってンじゃん。と軽さを取り戻した笑い声がした。


     玄関のドアを開けたHiMERUの顔を見た燐音は、開口一番、酒?と指摘した。曰く「目元が緩くていつもより緊張感が無い」。どうやら自分は酔いが顔に出やすいタイプらしい。
    「悪ィ子になっちまったなァ」
    「酒クズ賭事クズ、おまけに浮気しに来た男に言われたくない」
     改めて言葉にしてみると、やっぱり我ながら趣味が悪いものだ。


     冷えたシーツを手繰り寄せるようにして丸まりながら目を閉じる。視界を封じたことで他の感覚が鋭くなって、背中から抱きしめてくる燐音の息遣いだとか、匂いとか、髪の毛がHiMERUの項を擽ってくるのだとかを逐一感じ取ってしまって落ち着かない。いっそ抱き潰されて気を失ってしまったほうが良かったのかも。
    「……メルメル、寝た?」
     ふたりきり、なのに。耳をすまさなければ聞き取れないほど朧気に、耳朶を撫でた声。返事をしてほしいのかそれとももう聞こえていないと確認したいのか、わからない。
     会話をする気にはなれなかった。天邪鬼なこの口は、聞いたところでどうにもならない〝彼女〟のことに話を向けてしまうかもしれなかったから。落ち着いた話し方をする方ですね、とか、もう顔は合わせたんですか、とか。どうしてここにいるんですかとか。自分はこんなに面倒くさい人間じゃなかったはずなのだ。
     
     言葉を返さず、身動きもしないで。呼吸も意図的に細く平坦に。そうしていると、寝てしまったと判断したのか燐音の問いも消えた。その代わり、HiMERUの薄い腹に緩く回されていた太い腕にぎゅうと力が込められるのがわかる。距離を無くすように。
    「……メル。HiMERU」
     少し低い甘い音が。心細げに奏でた名前に、息を止めそうになった。強張ってしまった身体に気付かれてしまっただろうか。
    (――なんで、呼ぶんだよ)
    「……メルメル」
     俺、を。なんで。
     背中に感じる燐音の鼓動は酷く静かだ。
     同じベッドの上。その体温が肌に染み込むほど近くにいるはずなのに、何一つわからなくて遠い。――いや、遠いままで良いのだ。間違えるな。これ以上気持ちを持っていかれたくない。

    (今日は帰らないのか……)
     朝起きたその時に、目の前に寝顔があるのは割としんどいかもしれない。いっそ今すぐにでも故郷に帰ってくれないか――なんて。そう突き放したらどんな顔をするのだろう。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💙💕😭❤😭💖💖❤💖💖💖😍😍😭💘💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    izumik22

    SPUR MEつづき。ここから後半です。
    前回の話から少し時間が経ち、燐音不在、クレビの他3人は個人活動をしています。
    要くんが元気です。(会話パートはありませんが、存在してます)
    大きな出来事の無い日常。ここからしばらく燐音くん出てきません🙇‍♀️💦
    ~〝恋人ごっこ〟する燐ひめ ⑦ 仕事に追われる毎日の中で、時間はすり抜けるように過ぎていった。冬を越えて、春を越えて、夏を越えて。それを二周。気付けばあと数か月であれから丸二年、HiMERUは二十五歳になっていた。あくまでも公式プロフィール上である。

    ***

     ガラガラと引き摺るキャリーケースは日本を飛び立った時に比べると随分重くなった。主に仲間たちや大切な家族へのお土産が増えたからだ。菓子箱は嵩張る。
    「蒸し暑い……っ」
     遠慮を知らない太陽はもうとっくに沈んだというのに、夜になってもなお汗ばむこの国の気候は好きになれない。十五時間に及ぶフライトを終えて帰国したHiMERUは、空港ロビーを足早に抜けながら小さく舌打ちをした。

     連日最高気温を更新し続けていた真夏の日本を抜け出したのは一か月と少し前のこと。フィレンツェに活動拠点を置く瀬名泉の指名を受けて、ブランドのイメージモデルとしてヨーロッパでのショーに幾つか参加していた。相変わらずプロ意識の高すぎる瀬名はなんだかんだと口うるさく言いながらも仕事相手としてHiMERUを気に入っているらしく、同じステージに立つ機会も少なくない。HiMERUが個人活動を始めてからは特に。
    4360

    related works

    recommended works