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    kariya_h8

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    kariya_h8

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    #主明
    lordMing

    「ずるい」「ずるい」
     異世界から現実世界に戻るなり、やつは開口一番そうのたもうた。
    「…………何が」
     聞きたくもないが放置するほうが面倒なことになりそうな気配を察知し、不承不承尋ねると彼は「さっき」と口をとがらせた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ苛立ちが勝る。
    「すみれに絆創膏あげてたろ」
     言い分に一瞬眉根を寄せ、確かに先ほど異世界内で怪我を負っていた彼女に持ち合わせの絆創膏を渡したことを思い出す。ちょっとした擦り傷だから放置しようとしていた彼女に「これからまだ先は長いのに、傷に気を取られてやられたんじゃたまったものじゃない」と渡したものだ。どうせ僅かしか回復しないものだし余りものだし。恐らくそれのことを言っているのだろう。
    「ああ、小さいけど怪我をしていたみたいだからね」
     回復道具の受け渡しや装備品の交換なんて日常茶飯事だろう。今さらなにが気になるというのだろう。
    「それから」
     まだ続くのか。
    「杏にハンドクリームあげてた」
     何を見ているんだおまえは。
     異世界への出発前、ルブランでハンドクリームを取り出していたところ出し過ぎてしまったからたまたま近くにいた杏に押しつけ……もといおすそ分けをしていたことだろう。ティッシュで拭ってもよかったが、鞄から取り出すのに服に付けて汚してしまいそうだったから。そのとき近くにいたのが彼女だっただけで、他意は微塵もない。別に竜司でも良かった。いや竜司にはもったいないか。べたつくからと洗い流してしまいそうだ。
    「出し過ぎてしまったからね。君たちだって良くやっているだろう」
    「…………俺は、ない」
     おや。
     予想外の反応に彼を見やると、彼は俯き加減で拳を握り締めていた。なるほど、本来なら自分が彼女たちにしてあげたかったことを自分が先んじてしまったから嫉妬しているわけか。女子にはカッコつけて良い顔見せたいって? くだらねえ。
    「言っておくけれど、僕は君と違って彼女たちに他意なんて持っていないし興味もない。そうやって下らない嫉妬を向けるのは止めてくれ」
     彼の守備範囲の広さを思い出し、思わず溜息だって零れる。女好きも別に構わないが程ほどにしてほしいし状況を考えてほしい。プロセスも重要だが、明智にとって重要なのはリザルトのみだ。だから二学期のときのように決行日前日に女と二人で出かけていようが、浮かれた格好でメメントスに乗り込もうが口は出さなかった。とはいえ、こうも悋気を向けられては厄介だ。作戦に支障が出かねない。これ以上影響を大きくしないためにも、問題は最小限に止めておく必要がある。
     自分の行動には一切の裏はないと言うも、彼は首を横に振った。
    「明智にじゃない」
     なにが。
    「俺は、お前から何かもらったことなんて一つもない」
     言っていることが理解できず、一つ二つ瞬く。
     こいつは何を言っている。
     脳で情報処理を行っている間に、男はずいと体ごと近寄り左手を取った。
    「11月に手袋は渡されたけどあれはプレゼントじゃないし、明智が俺を想って何かをくれたことなんてないじゃないか」
     彼は目いっぱい頬に空気を詰め込み、眉の間にくっきりと皺を寄せて睨みつけてきた。言っておくけれど可愛さは微塵もない。むしろ戸惑いが勝る。
    「夏に水族館のチケットあげたじゃないか」
    「知り合いからもらったやつだろう、俺のためのものじゃない」
     確かにそうだけど、何かを彼に受け渡したという意味なら少なくともゼロではない。それにあの頃は駆け引きの真っ最中だったから、彼のためといっても嘘ではない。
    「けれどどちらも安物だし、ハンドクリームに関しては余ったものだけど」
    「ただの絆創膏じゃなくて、ハイドロなんとかっていうあのなんか高いやつだったじゃん。ハンドクリームも良いとこのだし良い匂いするし」
     めんどうくせえなこいつ。あとさりげなく嗅ぐんじゃねえ。
     うだうだと実のないことを続ける女子高生のような言動に、明智は隠すことなく長い溜息を吐く。
    「僕が彼女らに何かを施したとして、君は僕にどうしてほしいわけ」
     単刀直入に尋ねると、待ってましたとばかりに彼は顔を輝かせた。うざい。
    「俺も明智からなんかほしい!!!!」
    「うわっ、うざい」
    「さっき地の文でも同じこと思ってなかったか?」
    「地を読むなよ、気持ち悪いな」
     掴まれた手を荒く振り払うと、彼は痛くもなかろうにわざとらしく手を振る。
    「だってさ、俺はお前のこと考えてお前が好きそうだからってビタミン剤とか掃除機とかあげただろ?」
    「あれは押しつけって言うんだよ。カフェに掃除機持って来る奴がいるか?」
    「でも使ってくれているだろう?」
    「まあ……便利だからね」
    「なら良かった」
     好きかどうかはさておき、彼が寄越してくれる物の数々はどれも品が良く、そして非常に利便性が高いものだった。これがただの趣味の押しつけ、または明智吾郎というブランドへの「こうあってほしい」という願望だとしたならば即駅のゴミ箱へ押し込んでいただろう。こういうものがあると便利だな、と思うものを絶妙なタイミングで寄越されれば使わないはずもなく、貰った品々は消耗品以外明智の部屋で今日も元気に稼働中だ。
    「つまり君は今まで好き勝手に押しつけてきた物品の見返りが欲しいと?」
    「そういうことじゃなくて、明智が俺のこと考えて選んでくれたものが欲しいなって」
    「気持ち悪いな」
    「あれ、地の文じゃない」
    「つい本音が」
     確かに一方的に施されてばかりではどうにも落ち着かない。ほぼ押しつけに等しいものだったとしても、他の大人たちとは訳が違う。下心しか無かった大人たちとは違う。彼のあれは奉仕などではなく一種の趣味だったとしても、だ。
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