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    狐の嫁入り(楽ヤマ)

    ##楽ヤマ
    ##文章

    楽はこの八乙女家の現代にそぐわない仕来りを自分の代で終わらせるつもりでいた。
    『八乙女家には狐が嫁入りしている』
    22歳になる日、八乙女家の嫡男は狐を嫁として迎える。家の一番奥のお狐様の部屋に婚礼衣装で入り一晩過ごす。狐は八乙女家の嫁となり次の代まで繁栄を約束される。『狐』がどんな者なのか、どんな物なのか当主となる者しか知らず楽もまた父に儀式の事だけ教えられ、その姿はついぞ見た事がなかった。
    八乙女家の「正妻」は代々狐で、実際には人間の女性が子を成している。楽もそうだった。母親は楽が15の時に家を出た。時折、世間で言う離婚となる代がある。狐の嫉妬では無いかと言われる事もあった。そもそも女性にも狐にも失礼ではないか、と楽はずっと思っていてこんな馬鹿げた事は自分で終わらせるつもりだった。
    ーーーとうとうその日がやってきた。新しく設えた紋付袴に身を包み、自分の家なのに始めて踏み入れる奥の座敷。
    蝋燭の灯だけでその座敷まで行くと襖を開ける。
    そこには白無垢に身を包んだ人の形に近い何かがいた。

    「……狐…か」
    声にして問うと、人語を理解出来るのか綿帽子が微かに動いた。
    「……よろしくお願いいたします」
    微かに聞こえる声は思いの外低く、だからといって不快なものではなかった。
    三つ指をついて頭を下げる姿は本当の花嫁のように見えてくる。袖から見える指は人間と同じ形をしていてすらりとしていて美しい。
    「…俺は、お前を嫁にするつもりはない、もう自由だ。ここから出て行っていいぞ…」
    せめてどんな姿をしているのか見てみようと狐の前にしゃがみ、綿帽子に手をかける。
    「……ちょっと、勝手な事しないでくれる?」
    綿帽子のしたから出て来た顔はすっとした切長の瞳で、何というか少々目つきが良いとは言い難い。狐、と思えばたしかにそんな顔立ちだ。しかし全体のバランスは悪くなく、和装がよく似合う。
    あと、なんとなく「雌」ではない雰囲気ではある。
    「……お前…本当に嫁入りの狐なのか…?」
    「あったりめーだろ。八乙女家の時期当主さん。で、なに、俺、もう離縁されんの?」
    「…雄…なのか…?」
    「まぁ、そっちの成分の方が多いかな?」
    狐は綿帽子を脱ぎ捨てて、ばさばさと頭を振る。狐と言うには不思議な色の緑ががった髪と、髪と同じ色の狐の耳が見えた。
    「?!!!」
    人のようでいて、人ではないその姿に楽は唖然とした。
    「せっかくの三食昼寝付きの御身分になれたと思ったのになぁ。ここまで来るのにちょっと大変だったんだから一晩くらい置いてよ。あと、出来れば子種を頂きたいんだけど」
    「…子種…?」
    この家の仕来りは、楽が想像していたよりずっと奥深いもののようであった。

    つづく
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