ガラスの恋「大和いる？」
出番までの待ち時間の間、今日同じ番組に出る楽が大和達の楽屋に訪ねてきた。
「いるよーなに？」
「ちょっといい？」
入口で大和を白く細い指で手招く。楽屋中で、皆の前では話す事じゃないのだろうと気付き手招きされるまま楽の元へと行く。
「なぁに？」
「ここじゃなんだから」
踵の高いロングブーツのおかげでさらに身長を高くした楽は、ヒールの高さなど物ともせず颯爽と歩いていく。大和は衣装のスカートのチュールに気をつけながらその後ろを歩いた。
人の行き来の少ない自販機コーナーへと来ると、楽は小さな紙袋を大和に渡した。開けてみて、と促され紙袋を開ける。大和の手のひらに小さな台紙にひとつグリーンのガラスがついた指輪がついていた。
「指輪…？」
「そう、かわいいでしょ」
金メッキのリングに歪な形のガラス玉が乗っている。
「なんか楽が選ぶにしては…珍しいデザインだね？」
楽のイメージやスタイリングはハイブランドの洗練された物で固められている。楽もそれに不満があるように見えないし、大和も似合っていると心から思っているのでこの少しチープでカジュアルなデザインの物を選ぶのは珍しい気がした。
「これ、このガラスね、日本酒の瓶を砕いたもの使ってるんだって。この前地方ロケに行った時に見つけて。もう大和の事しか思い出せなくて！みんなにはお菓子買ってきたから食べてね。後で天が持って行くと思う」
「う、うん、ありがと…」
「私もお揃いで買ったんだ」
ほら、と左手を大和の目の前にあげてくる。同じリングが嵌っていた。瓶を砕いただけあって形は大和のものと違う。
そのリングが嵌っているのは左手の薬指だった。
「なんでその指なの…ヤバいじゃん」
「本番ではしないもん。ね、大和もしてよ」
そう言いながら大和の手にしている指輪を台紙から外すとなんの躊躇いもなく自分と同じ指にはめた。
「ちょっと…楽…」
「おそろい、いいでしょ」
この世の美しい物を全て集めて形にしたような笑顔を微笑まれて大和は敵わないな、と思いながらガラス玉を見つめるとどんな高級な宝石よりも輝いて見えた。