「ウサギくん、やはり私は思うんだ。教える者は教える事柄以上に、教えられる者のことを知る必要があるのではないかと」
すっかり慣れてしまった、研究所のある一室にて。そんな前置きの後渡された一冊のノート。しかも新品の黒いリングノート。悩み事の解決策として提案があるといわれたかと思えば、碌な説明もなくそれを渡されて。不思議そうに思う僕に対し、声がまたかけられる。
「だから、そのノートに最低1ページ。君の担当する生徒のことを書き記して見てはいかがかな。
ただし、資料を閲覧して手に入るものだけではいけない。君自身交流して、思ったことも書くんだ」
いつだってこの人は難しいことを言ってくるけれど、今回は特にそう思った。交流がうまく出来ないから悩んでいるのに、交流をしろだなんて。でもそんな屁理屈をごねたところで結局、言わされるまでこのやり取りは続くということを、僕はもう嫌というほど経験をして、そういうものであるという認識もしてしまっていたのだ。
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