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    CQUEEN57235332

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    切島くん夢

    #hrak夢

    7.夏休み前の頭の中の未来フィルム.7
    「ひ、ヒーロー科のテストって演習試験、あるんだっけ……」
    「おう! 何かアレらしいぜ! 入試ん時みてぇなロボ!」
    「………………そっか」
     憂無は少し寂しそうに笑う。切島はどうした? と聞いて来た。
    「い、いや! な、な、なんでもないの!!」
     そういえば!
     ぐるんと上鳴の方を向く憂無。上鳴は少し吃驚したように声を上擦らせる。
    「上鳴! 上鳴はどうだったの!? テスト」
    「あ? テスト?」
    「そう!」
    「もーバッチリよ! ヤオモモんお陰だわ〜」
    「ヤオモモ……?」
    「八百万の事だ!」
     と切島。憂無は赤くなって小さくうん、と言った。そして赤革手帳にメモをする。
    「憂無! 準備が出来たぞ! さあ帰ろう!」
     天哉が声を掛けて来た。憂無はああ、と答えて名残惜しそうに切島へと手を振る。
    「憂無はどうだったんだ? テストは」
    「余裕よゆー」
     とVサインをした。
    「……頭、ええんやね、前宮ちゃん…………」
     遠い目で麗日が言った。憂無は頭を掻きつつ言う。
    「頭良いかはわかんないけど……」
     天哉の方をちら、と見た。そして続ける。
    「まあ私は詰め込み勉強しか出来ないからあんまりなんだけどね……」
     それよりさ、と言う。
    「ヒーロー科は演習あるんだ。大変だね」
    「ああ、でも……合格すれば林間合宿に行けるからな! 頑張らねば!」
    「そうそう! ね! デクくん!」
    「う……うん」
     そうして駅まで着いたので憂無と天哉は麗日と緑谷と別れた。ピコン、と電車内で音が鳴る。
    「駄目だぞ憂無、電車内ではマナーモードにしなくては!」
    「あ、うん」
     そう言って携帯をマナーモードにするとメッセージアプリを起動した。メッセージアプリには上鳴から連絡が来ていた。
    『また遊びに行かね? 日曜とかどうよ?』
    『いいよー』
     憂無は上鳴に相談しようか迷っていた。勿論切島の事だ。追加でメッセージを送る。
    『新作奢るから相談しても良い?』
    『ヤッター! いいぜいいぜ! どんな相談でも受けちゃうよ!?』
    『じゃあ日曜喫茶店で』
     そう送ると上鳴からはサムズアップのスタンプが送られてきた。憂無は溜息を吐くと窓の外を見る。ガタン、ゴトンと揺られるままに憂無は目を閉じた。

     § § §

     日曜日。七月一週目故にとても暑くなって来た。憂無は適当に服を見繕って外へと出る。チェーン系列の喫茶店で待ち合わせしていると上鳴がやって来た。憂無は手を上げてこっちだと言った。
    「わりーわりー。俺遅れた?」
    「いや、時間には間に合ってるよ」
    「なら良かった!」
     とニッと笑う上鳴。憂無はメニュー表を見ながら言う。
    「新作フラペで良い?」
    「良い良い! ……んで? 相談ってなんだよ前宮」
    「ん……んんー……」
     フラペチーノを頼んだ憂無は上鳴に話し辛そうに咳払いをした。
    「早よ言えって!」
     急かされて憂無はたどたどしく言う。
    「その……………………私、いや私の友達が、人を好きになったらしくて………………」
    「そんでそんで?」
    「その人が自分を好きかわかんないらしいんだよね…………」
     と、そこでフラペチーノが運ばれて来た。上鳴はズッ、とフラペチーノを吸う。憂無はじ、と上鳴を見て返答を急かした。
    「え〜? もうさ、告っちゃえば良くね? そしたらわかるじゃん」
    「上鳴??」
     上鳴は揶揄するような痛い言葉で憂無を突いて来る。
    「てかそれ友達つってたけど自分の事だったりして?」
    「ち、違うし!! ほんまに友達が言ってただけだし!?」
    「フゥーン?」
     上鳴はにやにやと笑いながらフラペチーノを食べる。
    「何笑ってんだよ」
     憂無は上鳴の脇腹を親指で刺す。
    「いって!! 洒落になんねーからやめろよなソレ!!」
    「上鳴が悪い、絶対悪い」
    「悪かったって……」
     上鳴は溜息を吐きつつ刺された脇腹をさする。
    「てか、その友達が好きになったのって誰なん? つーかどんな奴??」
     上鳴は逆に問うた。憂無は唸りつつ言う。
    「えっと……ツンツン頭で……」
     ……爆豪か? と上鳴は思った。
    「カッコ良くて……」
     ……やっぱり爆豪?
    「髪が赤い」
    「切島じゃん!!」
     やっぱお前の事なんじゃねえの!?
     と上鳴は思ったが言わなかった。憂無は顔をほんのり赤くして言う。
    「…………で、どう思う?」
    「わっかんねーよ! 切島が恋愛興味あるかなんて知らねーし!! ……あ、でも」
    「でも?」
     ちょっと前に何か考え込んでた事はあったな………………。
    「そ、そっか」
     憂無はむぅ、と考え込む。上鳴はフラペチーノを飲み終え、言う。
    「これから映画かなんかショッピング行こーぜ!」
    「映画館行こっか……」
     そう言って憂無はフラペチーノの飲み干すと上鳴と外へ出る。
    「上鳴何見たいん?」
    「俺ー? 今流行りのさー……」
     あ、と憂無は上鳴に注意をする。
    「これから転ぶから注意してよ」
    「は? 誰が?」
    「上鳴」
    「いやいや、大丈夫っしょ……俺反射神経良いし」
     そう言って踏み出した先にはバナナの皮。憂無は慌てて上鳴の手首を掴んだ。
    「あっっっ……ぶね〜……」
    「言ったでしょ」
     憂無は上鳴の手首を離した。上鳴は言う。
    「いや、わり……ありがとな」
    「これに懲りたら私の『個性』を信用する事だね」
    「ハイ……」
     そうして映画館へ行ったが見たかった映画は席が埋まっていたので急遽ウィンドウショッピングへと移行した。二人は服を買ったりして別れた。

     § § §

     帰りの電車で上鳴からメッセージが来る。
    『今日はありがとな! また遊びに行こーぜ!』
    『りょーかい、またね』
     憂無はそう打って携帯をスリープモードにした。ガタン、ゴトン、揺られる。
    「おかえり! 今日はビーフシチューだぞ!」
    「おっ、良かったじゃん天哉」
    「ああ!」
     ビーフシチューに舌鼓を打つと憂無は部屋へと戻り、赤革手帳に今日あった事を書いていく。カリカリと音が鳴る空間はとても心地よい。ふと、ピコン! と脆弱を切り裂くように音が鳴った。
    「うわ」
     思わず驚いて憂無はシャーペンを落とす。そしてシャーペンを拾い、携帯を見た。
    「………………!」
     サー・ナイトアイからだった。憂無は思わず携帯に齧り付いて見る。内容は、忙しいから会えない。すまない、と言ったものだった。正直憂無は落胆したがそれをグッと飲み込んで返事をする。
    『また会える時で大丈夫です。お体お大事に』
     と返した。憂無は携帯の電源を落とすと風呂へと入りに行く。そうしてその日は眠りについたのであった。

     § § §

     折り畳み式特殊合金長警棒を手にミッドナイトと立ち回る。
    「まだ甘いわ!」
     ミッドナイトが鞭を一振りすると憂無の足に絡み付け、地面に叩き付けた。憂無は即座に折り畳み式特殊合金長警棒を突き、叩き付けるのを回避し、鞭を解く。憂無は再びミッドナイトと対峙した。
    「良いわぁ……前宮さん、貴女司令塔向きな『個性』だけれどそう立ち回る気は無いのね?」
    「ありません。私が目指すのはあくまで『最高の相棒(サイドキック)』ですので!」
    「そう……ならこれからもビシバシ行くからね!」
    「はい!」
     再び二人は組み合う。組み合った後、憂無はゴーグルのダイヤルをいじり、録画を見た。ミッドナイトの動きを分析する。ああだこうだ考えていると憂無の首に冷たいものが押し当てられた。
    「ヒッ!?」
     飛び上がった。ミッドナイトはそれを見てクスクスと笑う。
    「はい、ドリンク。私特製よ?」
     ドロリとしたドドメ色のドリンクに憂無は戸惑ったが、受け取る。匂いは……やたら生臭い。ミッドナイトの視線が刺さる。飲まねば──と思い一気に呷った。
    「ゔっ………………」
     憂無は口元を押さえる。
     ま、不味い!? 何これ……!!
     吐き出す訳にもいかず、憂無は半泣きでその特製ドリンクを飲み切った。
    「な…………何入ってるんですか、コレ……」
    「身体に良いものよ!」
     なるほど。
     憂無はそう言って胃の辺りをさすった。少し胃が重い気がする。ミッドナイトは言う。
    「ほら立ちなさい! もうすぐ夏休みだし、鍛えに鍛えまくるわよ!!」
     憂無は折り畳み式特殊合金長警棒をグッと手に持ち構える。そしてまた組み合った。そうして暗くなるとミッドナイトは言う。
    「さあ、そろそろ終わりにしましょう。送って行きましょうか?」
    「いえ、大丈夫です! さっき見ておいたので……」
    「あんな短時間で眠れるの!? しかも立ってなかった!?」
    「まあ……どこでも寝られるのが特技みたいなもんなので……」
     へへ……と憂無は少し照れて言った。は〜、とミッドナイトは少し呆れたのか、見直したのか息を吐く。憂無はミッドナイトに挨拶すると家まで帰った。帰れたのは七時半頃で、皆ご飯を食べ終わっている。憂無が遅れて夕食を摂っていると天哉が話し掛けて来た。
    「憂無……最近遅いが一体どうしたんだ?」
     俺で良ければ相談に乗るぞ、と天哉は言う。しかし憂無は笑って言う。
    「へへ、内緒」
     ム、と天哉は面食らった。嘘を吐いている訳でもない、しかし本当の事を言うでもない。天哉は追撃をかけるべきかどうか迷い──その間に憂無は部屋に戻った。風呂に入り、憂無は上鳴と相談事や遊びのメッセージのやり取りをしてそのまま寝落ちする。
    「………………」

     § § §

    「前宮……俺……お前の事が……!」
     
     § § §

    「なあ……爆豪……」
    「ンだよ」
     切島が気遣わしげに言う。
    「おめー……恋って」
     したことあるか? そこまで言おうとして爆豪が切島の顔面を掴んで『爆破』した。切島は即座に『硬化』し、それを耐えた。切島は慌てて大声を出す。
    「っぶねーな!? 何すんだ、バクゴー!!」
    「るせんだよ……胸糞悪ィ話題俺に振るんじゃねぇ! 次したらぶっ殺すからな」
    「なんだよ……」
     切島は少し不貞腐れた様子で唇を尖らせた。そして。結局は憂無の友人でもある上鳴に相談するのであった。
    「……つーわけなんだけどよ……どう思う」
     事のあらましを話した切島は上鳴に問うた。対する上鳴は。
    「どう……思うって……」
     オイオイ、切島も俺に相談してくんの!? 何で!? つーか何これ、本当はあいつら付き合っててコレ俺に対するいじめとかじゃないよね!? 
     そう思った上鳴だったがグッと言葉を飲み込み、言葉を絞り出す。
    「さ、さあ……俺はちょっとわかんないかな〜……はは……」
     思い切り目を逸らして言った。怪しい。切島はそれを正面から受け取り、そうか……と悩む。
    「てかさ」
    「ん?」
    「切島はどーなのよ。お前は好きな訳? 前宮の事さ」
     切島は黙りこくる。そして。
    「そりゃ……その……好きだよ…………ああ、くそ。漢らしくねえ……!!」
     ハハーン? と上鳴はニヤリと笑う。
    「好きなんだ〜前宮の事〜!」
    「だっ、誰にも言うなよっ」
     本人になんて以ての外だからな!! と切島は言った。しかし上鳴は自分が振られた理由を思い出す。そして神妙な顔付きで聞く。
    「切島さぁ……お前覚悟、ある?」
    「覚悟?」
     うん、と上鳴は頷く。そして続ける。
    「前宮、あいつ……本当は何も覚えてないんだって。手帳に書いてる事でずっと普通に振る舞ってる。思い出作っても忘れちまうって……」
    「………………」
     切島は一度話すのを止め、言う。
    「俺ァ覚えてる。入試であいつに救けられた事だって覚えてる。あいつが忘れちまうってんなら──……俺があいつの分まで覚えてるってだけだ!!」
     その言葉に上鳴はふっと笑うと切島の背を叩いた。
    「なら良んじゃね? 告っちゃえよ〜」
    「なっ、まだ責任取れる歳じゃねえだろ……!!」
    「先に別の奴に取られてもしらねーよ? 俺」
    「……!」
    「林間合宿前のさあ、夏休みにでもどっか誘って告ちゃえって!!」
    「………………ま、待て待て!」
     切島は片手で顔を覆って言った。顔はほんのり赤い。
    「まだ………………俺の腹が決まってねえ……」
    「覚悟あんじゃねーの?」
    「それとは別だ! 別!!」
     まあ、良んじゃね? 切島のやりたいよーにやれば。
     と上鳴。
    「あ! でも泣かすようだったら止めるからな! 前宮の友達として!!」
     とも言った。切島は表情を緩めて言う。
    「……ありがとな」

     § § §

     憂無はいつも通り天哉と登校し、C組でぼやっとしていた。心操が声を掛ける。
    「前宮さん」
     しかし返事はない。
    「前宮さん!」
    「……はっ! な、何、心操」
     慌てて答える憂無に心操は前方を指差す。
    「前」
     憂無が前を見るとプリントが机にあった。憂無はごめん、と言って心操にプリントを渡す。
    「しっかりしてくれよ」
    「……ああ、うん。ごめん」
     再び、謝る。憂無は今朝に見た夢が理由だと分かってはいた。ので今朝はA組にも近付いていないし、大食堂にも行ってない。彼も自分だってヒーローになりたいのだから今はそういう事をすべきではないのだ。……そう思って憂無は切島を避け続けた。
     ミッドナイトとの訓練中、ボコボコにされる。
    「うぅ……」
     呻くとミッドナイトから鋭い指摘が飛ぶ。
    「なってないね! ちょっとあんた、雑念が多すぎるわよ!!」
     雑念。
     思い当たるそれに憂無は頬を赤らめる。ミッドナイトは舌舐めずりし、憂無に近付いた。
    「先生に話してみなさいな」
    「…………えー……」
     憂無は渋る。しかし雑念があるようでは訓練しても同じ事、と言われ憂無は渋々話した。
    「なるほど? 好きな子がいて? その子から告白されるシーンを夢に見たと? 何それ〜! 青春じゃない!! 良いわぁ……」
    「……こ、こうなるから嫌だったのに……!」
     憂無は涙目でミッドナイトを見る。ミッドナイトはこほんと咳払いをすると憂無へアドバイスをする。
    「良い? 別に恋愛禁止、だなんて定められてはいないし彼もその気があるなら付き合ってみるって選択肢もあるんじゃない?」
    「でも……」
    「現に、前宮さん。貴女、それが雑念になっているでしょう?」
     決着付けなさいな。
     そう言われ憂無は下を向いた。どうするか、逡巡し──……そして決める。
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