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    CQUEEN57235332

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    切島くん夢

    #hrak夢

    9.恥じらいと名前頭の中の未来フィルム.9
     付き合い始めたからといって生活に何か明確な変化が起きるわけではない。憂無は手帳を見ながらそう思った。明確に変わった事といえば、切島と一緒に帰るようになったくらいか。天哉も上鳴もその事を知っているのか、なんだか遠慮している節があり、とてもこそばゆいと憂無は思った。まだ手は繋げてもいない。憂無自身、手くらいは……! と思うものの、羞恥と照れが綯い交ぜになって触れることすらままならない時だってあるのだ。だから小指だけでも掴めたのは僥倖言っても過言ではない。ミッドナイトに色々と話すと、彼女は身体をくねらせて恍惚とした眼差しになった。
    「ああ……良いわぁ……これ、これよ!! これぞ青い春…………」
     で、とミッドナイトは呆ける憂無に言う。
    「貴女はちゃんとケリつけられたの?」
     ──もう、雑念は無い。憂無は無言で頷いた。
    「じゃあ、いくわよ?」
    「ハイ!!」
     憂無はサポートアイテムを身に着けると、ミッドナイトへと向き直る。ミッドナイトの『個性』、『眠り香』。強力だが、攻略出来ないわけではない──……。ハズだ。と憂無は思う。実際、ミッドナイトが見た生徒は落ちてはないし。憂無はすぅ、と息を整えると折り畳み式特殊合金長警棒を足で蹴って展開させ、構えた。
    ミッドナイトの鞭がしなり、こちらに向かってくる。しかし憂無は折り畳み式特殊合金長警棒を折りたたむと足に持ち手のゴムを引っ掛け、強く蹴り上げる。
    「同じ手は食わないわよ!!」
     ミッドナイトが落ちてくる憂無を狙うが、彼女は彼女で、策を練っていた。落ちる中で録画されている先程の動きを見ている。そして。憂無はミッドナイトからようやく一本取ることが出来た。憂無は溜息を吐く。ミッドナイトが言う。
    「お疲れ様。夏休みもこの調子で頑張りましょうね」
    「はい」
     憂無は心を落ち着かせる為、息を吸ったり吐いたりしていた。ミッドナイトは言う。
    「今日はここまでね。帰っていいわよ?」
    「あ、はい」
     そう言って憂無が帰る準備をしていると、切島の声が聞こえた。
    「おーい! 前宮ー!」
     ミッドナイトの瞳が愉悦に震える。
    「あらあらあら?」
     憂無は慌てて違う、と言いそうになる。
    「違っ……!!」
    「違わないでしょ。……早く行ってあげなさいな」
    「は、はい…………」
     憂無は照れ臭く、恥ずかしくなって用意を手早く済ませると切島の場所へと向かった。
    「切島!!」
    「お! 憂無!」
     切島の笑顔はニカッとしており、眩しかった。彼の表情が憂無の心に染み渡る。
    「行こうぜ!」
    「う、うん」
     憂無は彼の顔をチラチラ見つつ、共に歩いた。彼の顔は好きなのだ、だから憂無はついつい見てしまう。切島と憂無の視線がぶつかる。
    憂無は顔を勢いよく背けると、切島に言う。
    「あの…………切島」
    「ん? どした?」
     キッパリと竹を割ったような切島に憂無は心が洗われるようだった。憂無は切島の顔をゆっくり見ると微笑んだ。切島は息を飲む。
    「あ」
     切島は思う。夕陽に照らされた彼女はとても綺麗だ、と。憂無は頬を赤らめる切島を見、彼女もまた顔を赤らめる。手は繋いで歩けているのかというと、それがサッパリであった。あれ以来憂無は切島に触れてすらいないし、切島もまた憂無に触れていない。切島としては手を繋いで帰りたいが、無理矢理手なんか繋ごうものなら憂無がどうなるかわからないからだ。恥ずかしい、なんて言って顔を赤くする彼女は正直可愛い、だが……彼女を困らせたいわけではないので切島は何もしない。憂無は憂無で、切島から触られれば嬉しい。嬉しいがそれを上回る羞恥が彼女を駆け巡る。ので彼女としてもどうなるかわからないのであった。駅まで話しながら歩くと、憂無は名残り惜しそうに言う。
    「じゃあ……また……」
    「おう! またな!」
     手を振り合って別れた。電車に揺られていると切島の事を思い出す。憂無はまた赤革手帳に書いた。さながらそれは夢見る乙女のようで、そう思ってしまい憂無は自嘲する。
     私が『夢』見る乙女だなんて。笑える。
     憂無は手帳を閉じると飯田家に戻った。
    「ただいま」
    「おかえり!」
     天哉が出迎える。憂無は部屋着に着替え、夕食を摂る。今夜はカレーだった。もぐもぐと食べると美味しい。憂無は食べ終わると、食器を洗う。そして部屋へ戻ると両方の手帳に今日あった事を書いた。青革手帳には勉強の要点を。赤革手帳には今日あった出来事を。憂無はそこまで書き終えると、手帳を閉じて眉間を押さえる。少し、目が疲れたようだった。携帯がピロンと鳴る。憂無は慌てて携帯を見ると──切島からだった。
    『起きてるか?』
    『うん、起きてるよ』
     憂無がそう返すと切島はスタンプを送って来た。元気なクマのスタンプだ。それに対して憂無もスタンプを送る。それを何回か繰り返したのち、憂無は聞く。
    『どうしたの?』
    『いや! 何があるってわけでもねえんだけど……用がなくてもメッセージ送るのって……いいよなって……いや! 気にすんな! 嫌だったら止めるから!』
    『嫌じゃないよ。私は嬉しいし』
    『そっか』
     少し嬉しそうに切島がメッセージを送ってきた。憂無はそれを嬉しさが滲み出た微笑みで見る。そうやって数回メッセージを送り合っていると天哉が扉をノックをしてくる。
    「起きているか?」
    「起きてるよ」
    「もうそろそろ寝たらどうだ? もうすぐ夜更けだぞ!」
    「はーい」
     そう言って切島にメッセージを送る。
    『天哉に寝ろって言われちゃった。おやすみ』
    『おやすみ!』
     憂無は携帯を充電器に付けてタオルケットを被った。

     § § §

     ────────────。

     § § §

     朝起き、まだ眠気が抜きけらないのか憂無は欠伸をした。コンコンコン、とノック。恐らくというか絶対天哉である。憂無はそう思いつつ返事をした。
    「早く起きたまえ!! 朝ご飯が食べられなくなるぞ!!」
    「はぁ〜い……」
     憂無は制服に着替えて顔を洗うと、テーブルへと着く。
    「おはよう」
     おはよう、憂無。
     家族から挨拶を返される。憂無は焼いたトーストにバターを塗り付け、イチゴジャムをベッタリと塗ると、齧り付いた。
     うん、美味しい。
     憂無はもぐりもぐりと食べる。朝一に食べるのはやはりジャムトーストとミルクティーが相応わしい。彼女はそう思っている。手帳には書かないが。食べ終えると憂無は天哉と共に家を出た。天哉と取り留めもない事を話しながら憂無は歩く。定期をICカードリーダーに当て、電車へと乗った。ガタン、ゴトンと揺られ雄英の最寄り駅へと着くと、憂無は天哉と共に電車から降りて駅の外へと出る。早朝故に人はまだ少ない。憂無は天哉と今朝のニュースについて話しながら歩いていた。
    「じゃあ、また」
    「ああ、またな!」
     そう言って別れると憂無はC組へと向かう。ほぼ毎日一番乗りだ。通学鞄から教科書やノート、筆記用具を出すと机の中へと入れた。スケッチブックを取り出し、窓の外を写生する。憂無は人が来るまで集中して描いていた。鳥や、木々、人々、建物。憂無はぺらぺらと捲り──切島のページへと差し掛かった。憂無は一度ちゃんと切島に絵のモデルになる事を打診しよう、と思いスケッチブックを閉じる。
    「おはよう、前宮さん」
    「おはよう、心操」
     すれ違い様に挨拶。後ろの席の心操は気怠げな表情をしていた。じっ……と見ていると心操が言う。
    「何?」
    「いや……うん。また今度絵のモデルにでもなってもらいたいなって」
     切島に言うのは勇気がいる。故に心操で練習したい、というのが憂無の本音だ。これは誰にも言えないが。
    「はあ、いいけど」
    「あ、いいんだ」
    「別に断る理由もないから」
     そっか……と憂無は頷く。
    「じゃあいつ空いてる?」
    「いつって……まあ、いつでもいいけど……」
     じゃあ今日の放課後ね。
     憂無の言葉に心操は目を丸くした。
    「いいのかよ」
    「え?」
    「前宮さんいっつもA組の連中と帰ってるだろ」
     あぁ、と頷く。
    「ちょっとくらい待っててくれるよ」
    「ふぅん」
     それきり心操は興味が無いのか黙ってしまった。
     午前の授業が終わり、昼休み。昼食を摂ろうと憂無は大食堂へと歩く。

     § § §

    「そーいや切島。前宮とはどこまで行ったん」
    「どこまでって何だよ」
     と切島。上鳴は言う。
    「いやいやいやわかるだろ? 付き合って……からの次! わかるよな!!」
    「あ〜……」
     切島は言いにくそうに言う。
    「手…………繋いだ……?」
     実際は手を繋いだかと言えるか微妙なラインだが。上鳴は大いに嘆く。
    「いやいや小学生かよ! いや! 今の小学生なら切島と前宮より断然先進んでるわ!」
    「な、なんだよ…………」
     つ・ま・り。
    「キスとかしてねぇの?」
    「してねえよ!!」
     大きな声を出してしまう切島。上鳴はびくっとしたが再び切り込む。
    「いやいや、キスくらい今なら小学生だってしてるぜ? そこんとこ、どうなんだよ。切島」
    「どうって…………俺どうこう以前に前宮がな………………」
     上鳴は目を丸くして切島に言う。
    「ちょい待ち。まだお前ら名字呼びなの??」
    「え、あ、まあ……そうだな……」
     あちゃー、といった様子で上鳴は顔を片手で覆った。上鳴は言う。
    「カレカノよ? 名前呼びがフツーじゃん?」
    「………………そう、なのか……?」
    「そうそう!」
     と上鳴。切島は腕を組み、うーんと唸る。そして五分程経つと。
    「まあ……前宮と考えてみるぜ……」

     § § §

     憂無が大食堂で昼食の乗ったトレーを持ち座る場所を探していると切島がやって来る。
    「よ、一緒に食わねえか? 憂無」
    「え、あ、うん。い、いいよ………………って」
     い、今。
    「な、名前………………!!」
     憂無は真っ赤になって切島を見る。
    「嫌……だったか?」
     切島は眉を下げて言った。憂無は頭を横にブンブンと振る。切島はニカ! と笑って言う。
    「そんなら良かったぜ!」
     切島は歩き出す。憂無はその後をちょこちょこと歩いて追った。
    「……あれ?」
     いつものメンバーが居ない。憂無が不思議そうにすると切島が言う。
    「いや……『付き合い始めたんならカレカノで食え』って上鳴に言われちまってよ……」
     確かにおめーとサシで食った事ねえし……良い機会じゃねえかなって思ってよ。
    「な、なる、ほど」
     憂無はカクカクとぎこちない動きで椅子へと座る。顔はまだ赤みが差し、切島と目を合わせられないらしい。切島の昼食は肉が沢山入っている丼ものだった。憂無は日替わり定食Cにしている。食事の途中、切島は言う。
    「そういや俺の事も名前で呼んでくれよ。憂無」
     下の名前で呼ばれる度に、憂無は真っ赤になっていて沸騰寸前の水みたいだった。憂無はそう言われた瞬間、箸をトレーの上にガチャ、と落とした。
    「や、嫌なら良いんだ!」
     切島は軽く手を振って言った。しかし憂無は腹を括り、言おうとする。呼ぼうとする。
    「え……いじろ……う………………」
    「言い辛ーか?」
     憂無は黙って目を逸らす。切島は言う。
    「中学ん時は『鋭ちゃん』とも呼ばれてたぜ! 友達に!」
    「え……えい……えい…………ちゃん……」
     ドキリ。鋭児郎の心臓が高鳴る。恥ずかしそうに、己の名を呼ぶ少女に彼はときめいたのだ。鋭児郎は言う。
    「ま、まあ言い易ー方で呼んでくれな!」
    「え、鋭児郎…………」
    「おう!」
     なんだ? と鋭児郎が言う。それに対して憂無は。
    「よ、呼んでみただけ……」
     と恥じらった。これは、と鋭児郎は思う。ドキドキ感。憂無はこれのもっと大きいものを味わっているのだろうか? と。いつも顔を赤くしている憂無を見て鋭児郎は思った。
    「…………なあ、憂無」
    「な、なに?」
    「……呼んで見ただけ、だ」
     スッと目を細めて微笑む鋭児郎に憂無はまた一層顔を赤くする。頬を両手で押さえた。そんなこんなで昼が終わると、憂無は携帯で鋭児郎へとメッセージを送る。
    『今日は一時間くらい遅れるから待ってて。待てなかったら先に帰ってても良いから』
     暫くすると返信が来る。
    『いいぜ! 下駄箱の前で待ってっから!』
    『ありがとう!』
     放課後。憂無は心操を教室に残ってスケッチブックに描いていた。心操が真剣な表情で描く彼女にむず痒い気持ちを覚えたのは言うまでもない。憂無は席を立って心操を色々な角度から描いた。それが一時間程続き、憂無が言う。
    「もう良いよ。心操」
    「あ〜……肩凝った……」
    「そりゃあんなガチガチに動かなきゃね」
     心操は溜息を吐く。
    「絵のモデルって言われたら動くなって言われるかと思ったんだよ」
    「それもそっか」
     憂無は通学鞄に教科書やらノートやらをしまっていく。心操は思わず口にしていた。
    「なあ。さっき描いたやつの中から一枚くれよ」
     モデル料って事で。
     言うと憂無はパチクリと目を瞬かせる。
    「そんなのでいいの? なんか奢る気満々だったのに」
     そう言うと憂無はビリリとスケッチブックを一ページ破ると心操に渡した。
    「はい、どうぞ」
    「ああ、どうも」
     心操はそのページを見る。よく描かれていて、正直に言うととても上手い。心操は言う。
    「昔から描いてたのか?」
    「まあ、そうだね」
     ふぅん、と心操が返したきり会話は打ち切られた。憂無は帰る準備をしていると心操も帰るのか、鞄を持つ。
    「あれ、心操も帰るんだ」
    「元々今日は何も無かったからな」
    「へぇー」
     そう喋りつつ下駄箱へと二人は向かった。
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