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    flor_feny

    @flor_feny

    ☿ジェターク兄弟(グエラウ)の話を上げていく予定です

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    flor_feny

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    グエラウ 3年後からそこそこ経った頃、酔った兄さんのお悩み相談をしてあげるけれすさんの話 途中まで 5/25ちょっと追加

    #グエラウ
    guelau

     飲み干したモヒートのグラスをそっとコースターに置くと、そいつは――グエル・ジェタークは、腑抜けて丸まっていた背筋を一直線に伸ばした。酔っぱらいとは思えぬ流麗な所作でソファに座り直して、軽く咳払いをする。
    「ケレスさん。聞いてくれませんか」
     ようやくか、長かったな。お前のその台詞はこれで二回目だ。一回目は約二時間前の退店後間もなくだった。
     商談中いつになく眉間の皺が深かったから、気分転換にでもと気に入っているショーパブに誘ってみたのだが。ショーの最中も、キャストに話を振られても、大真面目な顔で酒を飲んではチラチラと端末を気する姿は異様としか言いようがなく、厄介事に首を突っ込んだと悟った時には離脱する機会は失われていた。
     挙げ句「もう少し飲みたいので俺の家で飲み直しましょう」ときた。これは間違いなく長くなるだろうと腹をくくったが、おおかた予想通りの展開になった。
     帰り道で店で購入した出来合いのローストビーフとチョップドサラダをほぼ一人で攻略し、拝借したキッチンで俺が作ってやったホタテのタブレをうまいが量が少ないと余計な一言をほざきつつ平らげ、ビールだけじゃ酒がたりないだろうと出してやったジントニック二杯とモヒート二杯を空にして、とうとう胸につかえたものを吐き出す覚悟ができたらしい。
    「――で? この俺に聞いてほしいことってのは?」
     俺はモヒートを手に取って足を組み直した。顎をしゃくって促す。
    「……その、なんというか。人間関係の悩みなんですが」
    「そういう相談にうってつけの相手がいただろ。ほら、同じジェタークの同期の、メカニックだかの」
    「あっいや、あいつには、ちょっとこの話は……。内容が内容なので、身近には相談できるやつがいなくて」
    「ふぅん」
     ローテーブルの向こう側でグラスを揺らす俺の動きを窺うように、青い目が不安そうに瞬く。店を出た時には随分キまった目つきで有無を言わせず引っ張ってきただろう。ここまで来たなら言葉を濁すな、面倒だ。
    「ま、お前のことだから人間関係の悩みったってどうせ弟のことだろう?」
     グラスを軽く呷ってからそう言うと、グエルの動きがピタリと停止した。その後すぐに整った顔がレモンやライムを丸かじりしたかのように歪み始める。そして唐突に情けない声を上げたかと思うと、勢いよく天板に突っ伏して大仰に肩を震わせはじめた。衝撃でミックスナッツの小皿が揺れてアーモンドとピスタチオが弾け出る。
    「どうせなんて、そんなこと言わないでください……俺は、俺には、一生を左右するくらいの一大事なんです!」
    「あー、分かった分かった」
     リビングに通されてすぐに、煌々とした白い明かりの下じゃ話す気になれないだろうと、照明をいじって雰囲気のあるバーに寄せておいたが。
     台無しになった美丈夫の姿をご覧ください。まるでそう言わんばかりに、上着を脱いだ白シャツの背中に琥珀色のスポットライトが当たっていた。



     片付けついでにナッツの皿を空にしてから、ローテーブルの天板の裏側をルームシューズの先端で小突いた。
    「泣きやめ、酔っぱらい。俺はそろそろ帰りたいんだ」
     色々な水分でぐしゃぐしゃになった面が俺を見上げる。ハの字になった特徴的な眉がライトに照らされて情けなさに拍車をかけていた。
    「もったいぶってないでさっさと吐け。少しだけなら聞いてやる」
     ティッシュを二枚引き抜いて面前に差し出す。酔いどれCEOは軽く礼を言って受け取ると、身を起こして目元を軽く押さえるように拭いた。そうして「失礼」と断ってから俺に背を向けて鼻をかむ。
     酒が入って諸々緩んでいるはずなのに、そういう礼儀正しいところは緩まないらしい。生真面目な性格が良く出るものだ。
    「すみません……見苦しいところを」
     テーブル横のダストボックスにティッシュを放ってから、グエルはソファの背もたれにかけていた上着のポケットに右手を突っ込んだ。取り出した端末を少し操作してローテーブルのこちら側にそれを置く。
    「これ、ラウダとのやりとりなんですが」
     組んでいた足をほどいて、画面を覗き込む。メッセージアプリに届いているのはジェターク弟からの動画だ。
    「俺の返信がまずくて……あいつを困らせてしまったみたいで、丸一日返事がないんです。どうしたらいいかケレスさんに意見をもらいたくて」
    「ほう」
     再生マークをタップすると、コントラストの強い映像と賑やかな声が流れてきた。トングを手に鉄板とグリルの上の肉と魚介に集中している株式会社ガンダムの男性陣と、その奥のテーブルでトマト入りの大きなサラダボウルを囲んで和気あいあいとしている女性陣。ジェタークのGUND義肢のテスターと車椅子に乗ったスレッタ・マーキュリーの母親の姿もある。
    「へえ。バーベキューか」
    「昨日、向こうにいる皆と収穫祭という名目でしたそうです」
    「……なかなか楽しそうじゃないか」
     グリルからひっきりなしに立ち上る煙と時折強めに跳ねる炎、そして投光器に群がる羽虫には若干ぞくりときたが、鉄板の上に乗っている串焼きや大きな塊肉などは豪快で食欲をそそる。
    『撮るのもいいけど肉裏返すの手伝えーラウダー』という男の声で動画は終わっていた。
     画面を少し下にスクロールすると、参加者全員の集合写真とさっきの塊肉の断面の写真があった。色合いと肉の質感からローストビーフと思われる。さっき目の前の男がほぼ一人で食べきった市販品と比べると、火入れは若干進んでしまっていた。
    『シーズニングはいつものうちのレシピ通りにやったよ おいしいって皆に好評だった』
    『兄さんの焼き方を思い出してホイルでしっかり包んでみたんだ』
    『油断して焼き色をつける時間が長くなってしまったのが今回の反省点』
    『大きいと火入れって難しいね』
    『兄さんみたいにうまく作りたいから、よければ次に帰った時にコツを教えてください』
     さらにスクロールする。株式会社ガンダムの社屋が写り込んだ夜空の写真と、ズームアップで撮った満月の写真。月の表面の模様がよく写っている。
    『今日は満月なんだ』
    『雲もなくて月見にちょうどいいよ』
     弟のメッセージが続いていたが、ここではじめて兄から『月が綺麗だな』という短い返信があった。
     その一文を最後に、ジェターク兄弟のやりとりは止まっている。
    「――――で?」
    「……で、とは」
    「いや、見たが、これのどこにお前の弟を困らせる要素があるんだ? 月が綺麗は単なる感想だろ」
     ジェターク弟が撮った月の写真はそこそこ良く撮れている。夜の地球では月が金色に輝いて見えるというのは、俺達スペーシアンは知識で知ってはいても馴染みのない感覚だ。
     そもそも宇宙を生活拠点にしている人間にとって、月は想いを馳せたり眺めたりする物じゃない。フロントと同様に単なる居住区域やパーメットや金属類を採掘する工業区域の一つに過ぎない。そういう意味で新鮮だ。
    「あの……ケレスさんは知りませんか。月が綺麗ですね、の別の意味」
    「別?」
     問われて端末から顔を上げる。すると意外な物が目に飛び込んできた。思わず自分の目を疑ってしまう。
     そこには気恥しそうに頬を赤く染めた男の姿があった。どれほどアルコールを摂取しようと顔色一つ変えなかったあのグエル・ジェタークが、だ。
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