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    相変わらずの沢とリョが夏祭りに行く話。下ネタです。

    #リョ+沢

     ――去年は帰れなかったから今年は帰国するつもり。いっしょに帰らない? 親が会いたがってるから、よかったら俺の実家にも来て。
     エージにそんなふうに誘われたのは5月ごろのことで、リョータは進級がかかった課題を山ほど抱えて無事に夏休みが迎えられるか不安で仕方いときのことだった。心臓バクバクでも平気なふりをする、それがリョータの信条だったが、それすら風前の灯で、いや、俺マジでそんなこと考えるよゆーねーわ、と返事をした。だが、エージは言った。じゃ、エサにすればいいんじゃない? 目標達成のためのエサ。鼻先にぶら下げて走りゃいいじゃん。こいつ普段はアホだが、たまにいいことを言う。エージとリョータ、二人は性格も違えば、考え方も違う。結びつけるものといえばバスケしかないが、それへのアプローチのしかたも異なる。それでもなんやかんや一緒にいるのはこういう瞬間があるから。どちらかが困っているとき、どちらかが思いもよらないアイディアをくれたり、自分じゃ思いつかない方法で尻を叩いたりしてくれる。いいね、そうしよ。リョータは同意した。進級しなければ帰れない。帰れなければ、チケットが無駄になる。チケットを予約して金を払い、退路を絶って頑張った。その結果がこれだ。日本の夏!提灯のぶら下がる寺の境内を歩きながら、リョータはしみじみと思った。本当に頑張ったなあ、俺。子どものきゃあきゃあ騒ぐ声や女の子たちの浴衣、テキ屋のおにーさんたちの威勢のいい声。どれもこれもああ、帰ってきた感じがして感慨深い。やっぱりいいよなあ。なぜか隣にいるのがエージだってところだけが納得いかないが。隣がたとえば浴衣の彩ちゃんだったらどんなによかっただろう? リョータはちらりと隣を見やった。残念ながら隣はガタイのいい男の浴衣姿だ。
     日本の夏といえば花火に夏祭りでしょ!エージは帰国前から興奮していた。エージの地元の夏祭りは神社とその近くに昔ながらの縁日が出る。実家にお邪魔したその日が夏祭りに当たっていたので、二人で出かけないという選択肢はなかった。縁日の雰囲気というのは大人になってもやっぱりわくわくする。残念ながら、とはいったものの、浴衣を着せてもらったエージはちょっといつもと違っていて、でかいのも相まって道行く人の目を引いていた。ま、ほんと、黙ってれば悪くないもんな、見た目はな。涼し気なエージの目元を見ながらリョータは思った。リョータはといえば、エージの父親のテツさんの甚平を貸してもらった。別にただちょっと見て歩くだけでいーじゃん、と思わないこともなかったが、やはり久しぶりの縁日、それも夏らしい格好をして、となれば、おのずとテンションが上がる。その証拠に金魚すくいの看板を見たら吸い寄せられるように近づいていた。
    「やる?」
     エージがニヤリと笑う。もちろん受けて立つ。1ON1みたいに自分に分があると思ったら大間違いだ。針金に薄い紙を貼っただけのあの網でリョータがさらっと2匹釣ったところで「え、すげえ、どうやんの?」とエージではなく隣の子どもから声が上がった。これはちょっとコツがあんだよ。手首のスナップきかせて、速攻だ。縦じゃなく横に滑らす感じなと教えてやった。エージは端っこに座り込んで狙ったまままだ網を動かさないでいる。
    「早くやれよエージ。超速攻はおまえのお得意じゃん」
     リョータに言われて舌打ちしたエージの結果は見事惨敗。その間にリョータは4匹釣り上げた。釣った金魚は隣の子にやり、「全く、ヒーローぶりやがって」というエージの声に声をあげて笑った。なんなら教えてやってもいいぜ、と言ったら、いらねーよ来年見てろよと特訓してリトライだと悔しそうに言う。来年も来るつもりなのか、それも俺と?いや待て、それより金魚すくいの特訓てなに?言いたいことはたくさんあったが、エージのなんか食いたくなってきたという一言に結局タイミングを失った。確かにソースの焼ける香ばしい匂いとか、わたあめの甘い香り、氷が削れる音なんかを聞いてたら腹が減ってきた。しばらくいくつか店を冷やかして、リョータは焼きそばの列に並んだ。エージがあっち行ってくると言って離れていく。
     次に合流したときには2人とも食べたいものを手に入れてご満悦だった。エージの手にはチョコバナナがあった。
    「懐かしーな、チョコバナナ。うちで食べるバナナよりずっと美味しく感じるのなんだろな。妹とうちで作ったことあったぜ。チョコとかしてスプレー買ってきてさ」
     割り箸に突き刺さったチョコバナナを見て、懐かしい思い出が蘇る。藤沢の小さな家で作ったのが最後だなあ。隣でエージもなにか思い出したのか、棒に刺さったチョコバナナを眺めている。そしておもむろに口を開いた。
    「ねー、なんかさ、このバナナの反り方、リョータが勃ったときみたくない?」
    「は?」
     は?は?は?エージの口から出てきたのは幼い頃の思い出の回想……そんな美しいものではなかった。よりにもよって、今、そんな下世話なものと結びつける必要があるか? 思ったとしてもこの場で口に出す必要があるか? あー、俺の美しき回想が台無しじゃないか。
    「やめろ。おまえ、ここ日本だから。みんな日本語わかるんだからな」
     リョータはいつもどおり正攻法で攻めた。日本語の通じないアメリカならちょっとした下ネタを外で言うこともあるが、さすがに今日はまずい。小さい子も周りにいる。だが、エージは気にもしない。
    「見てたらまじリョータのに見えてきたわ…」
    「いや、本気でそれ以上やめろ」
    「チョコかけたら舐めやすいかもね?こんどかけてみる?」
     いや溶けたチョコをかけたら、それ火傷だから。ちょっと想像しただけで恐ろしくて萎える。頼むから黙ってくれ。これ以上言ったら空いてる右手が働くぞ。
    「チョコスプレーかけてかわいくしてさあ」
     主語をぼかすことはしても、エージの言葉は止まらない。これはもうリョータも反撃するしかない。
    「チョコなくてもうまそーに食うじゃん、お前はよ」
     言い返すと、エージがぽっと頬を赤くした。え? 今そこで赤面? 勘弁しろよ。
    「えー、リョータ。やらしーなあもう……」
     ばしん、と力任せに背中を叩かれた。不意打ちで前につんのめるくらいの力だった。いや、やらしーのはお前だから。
    「どーすんだよ。ちょっとムラムラしてきちゃったじゃん」
     知るかよ。どう転んでも俺に非はない。リョータは思うし、実際そう口にもする。だけどまあ、あれだ、今度ゴム買うときはチョコフレーバーのやつ買ってもいいかもな……まずい。俺までエージのあほな考えに毒されてきた。頼むから、とりあえずそのバナナを早く視界から消してくれないか。だが、エージは声高に宣言する。
    「アメリカ帰ったら絶対チョコシロップ買う。ハーシーズのやつ、それで解決だ!」
     人より頭ひとつ背の高いエージの振り上げた手に握られたチョコバナナをこれ以上眺めていることに耐えられなくなり、かと言ってエージの口に収められるのを見ることもなにか変な想像をしそうで怖くて、リョータはあわてて焼きそばをかきこんだ。
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    DONE残響スピンオフ。もういくつめかわからない。三井酒店で働くモブの久保さんが、「7」に行く話です。
    おいしいお酒が飲みたいだけなのに 店に入る少し前に約束をしていた友人から遅れると連絡をもらった久保は急がずにきてと返信し、そのまま店に入るか本屋に行って時間を潰すか数秒迷った後で、やはりそのまま歩を進めるほうを選んだ。かばんには読みかけの本が入っていたし、今日行く予定の店は一人で飲むことに躊躇するような店の雰囲気でもない。なにより喉が渇いていた。

     歌舞伎町はそれほど行きたい街というわけではない。ごちゃごちゃしているし、道には人も多ければゴミも多い。そのくせ隠れた名店みたいなのが多いのが、ついつい好きでもない街に足を向けたくなってしまう理由でもあるのだが。「7」だってそのひとつかもしれない。ホテルほど敷居も値段も高くなく、だからといってカジュアルに振りすぎていることもない。外の喧騒とは逆に静かに飲むことだけを目的としている客が集まっているし、酒はうまい。カウンターに座るとわかるが、バーテンダーの後ろの棚に並ぶ酒は結構なコレクションで、これはまあ、うちの社長の営業の成果だろう。口はうまいからあの人は……考えるともなしに考えて、そこまで思考が到ったところで、久保は息を吐き出した。仕事が終わってまで会社のことを考えるなんてよくない。オフィスを一歩出たら仕事のことは忘れる。これが日々を穏やかに過ごす大原則だというのに。
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     ――去年は帰れなかったから今年は帰国するつもり。いっしょに帰らない? 親が会いたがってるから、よかったら俺の実家にも来て。
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