御指名 全執事がリビングに集まる。大体の執事との顔合わせも終わり、主が担当執事を選ぶのだ。
「では、主様。お好みの執事はございますか?」
ベリアンが穏やかに聞くと、主は全員を一瞥し
「高身長・短髪・筋肉質・三白眼・兄貴分・聡明・少し野暮・朴訥として、CV.中井和哉、みたいな年上は居ません?」
「…?、???」
ベリアンが笑顔のまま固まる。主がとても具体的な指定をしてきた事にも驚いたが、その具体的な指定が理解し難いのだ。
「あー…そうですよね、通じないですよね。それに…大体が私より年下っぽいな」
「え…主様は俺より年下かと思いました…」
思わず零れたであろう、フルーレの言葉に主は苦笑する。
「よく言われるわー。酒買うとき、年齢確認されるんですよね…全然、そんなに若くないって。」
主は少し怠そうに欠伸をした。
「普段すっぴんなのがダメなんかなー。乳とケツはデカいんだけどな…背がちっちゃいのがダメなのか」
主が執事たちを流し見て
「…ってかメイドは居ないの?執事だけ?」
言い放った言葉は不服そうだった。
「申し訳ございません主様、悪魔執事は対天使戦闘要員ですので、女性はいらっしゃらないのです」
ベリアンが申し訳なさそうに説明すると、主は更に機嫌を損ねた。
「女性は戦闘力に欠けるって、偏見じゃない?そういうの、私の世界ではジェンダーハラスメントになると思う」
「主様の世界では、女性もとても強いんだね。とても素敵な世界だと思うよ♪」
なるほど、主は理屈っぽいのだ。すかさずルカスがフォローに入る。
「うーん…逆ハかぁ………どうせならぷよぷよふわふわきゃぴきゃぴうふふなメイドさんたちに囲まれたかった…そんなメイドさんたちが武器ブン回しながら戦ったら絶対私落ちてた…」
ソファに座った主が天を仰ぐ。なるほど、執事たちは主に歓迎されてはいないのだ。今回の主は、少し困難が多そうだ、と執事たちは各々に考える。先程、会った時とは、印象がかなり違う。
「あー、ごめん、君たちが悪いんじゃないよ?私、そんなに優しくないからさ。傷付けるつもりはないんだけど…ごめんね。」
主は姿勢を正し、執事たちと向き直る。
「そうだな…私付き、はあんまり決めなくていいかな。皆忙しいだろうし、その時に応じて、で構わないよ。」
「主様のお言葉、ありがたく思います。ですが、情報の統率を取るためにも、1名、御指名頂けますと幸いなのですが…」
「なるほどね、確かにそうだ。業務効率的な話ね、了解。じゃあ、うーん…ミヤジ、ちょっとこっち来て、しゃがんで背中を見せてくれる?」
「私かい?それは構わないが…」
しゃがんだミヤジの背中に少し触れて主は質問した。
「触ってもいい?」
「勿論、大丈夫だよ。」
何というか、新たな主と云うのは、悪魔執事たちよりも質が悪い、得体の知れない人間性の持ち主なのかもしれない。
「僧帽筋に広背筋…うん、好み。褐色肌も良き。あとは腿の広筋も知りたいけど…まぁ、身長は最高値か。じゃあとりま、ミヤジ指名で。」
身長と筋肉で決める、という癖の強さに、半数程の執事は内心、苦笑していた。
「えぇー主様!太腿の筋肉ならボクもミヤジ先生に負けませんよ!」
ラムリがずい、とアピールをする。
「ふむ…ミヤジ先生に負けるのは仕方ありませんが…何かアピールでその決定が覆るのであれば、私もそれに参加したいですね。」
「でしたら私も美しさでは負けませんよ」
「主様がミヤジさんを指名してんならそれで決まりだろ」
「そうだぞ、そんな事を言っていたら主様がお困りにな…って………ない…?」
主はテーブルに肘を付き、にこにこと微笑みながらその様子を眺めていた。
「大丈夫だよ。皆、私の可愛い可愛い大切な悪魔執事なのだから、そんなに心配しないで。取り敢えずはミヤジに任せるけど、その時に応じて、私の傍に居てね。」
平等に、大切だと、云う。信じる基盤はまだ、無い。だが『私の可愛い可愛い大切な悪魔執事』という言葉は、執事たちの耳にこびり付いた事は確かだった。
END 2023.09.18
改定 2023.10.25