モブおぢ目線時刻は23:30を過ぎた頃。
今日は記念すべき40回目の誕生日を迎える俺だが、誰にも祝われることなく仕事を終え家に向かっているところだ。
「そうだ、ケーキ」
毎年1人で迎える誕生日はコンビニのショートケーキを食べている。
甘いものは別に好きじゃなが、なんとなく形として・・・。
近所に1件あるコンビニに入りスイーツコーナーへ向かうと、この辺では見たことない鮮やかなピンク色をした髪の男がスイーツを眺めていた。
それだけじゃ無い、格好もなかなか派手な色をしていて、いかにも危なそうな感じを漂わせていた。
(うわヤンキー)
近づきたくないが・・・仕方なしに男の隣へ行き、スイーツが置かれている棚を眺めるがショートケーキはない。
ふと横を見ると、男の手に目当てのものが。
「あっ」
思わず声を漏らしてしまった。
しまったと顔を背けようとするが、その前に男と目が合ってしまう。
「あ、その、すみません」
なに年下にビビってるんだよ俺は。
その場から立ち去ろうと背を向けると「おい」と声をかけられた。
あ〜無理勘弁・・・。
俺は生まれつき太りやすく痩せにくい体質で、ずんぐりむっくりな体型と醜い顔面が原因でヤンキーにいじめられてきた。今風に言うと陽キャ?パリピというのか。
中高6年間ずっとだ。
金取られたりパシリされたり、酷いと暴力もされたが、親は俺に原因があると話すら聞いてくれず進路のことばっか。
性格はどんどんひねくれて、友達なんてできず、結局両親が望んでいた大学なんか行けず、ブラック企業の営業マンとなったわけだ。
男に声をかけられた瞬間、殴られると思い条件反射で身体にギュッと力が入る。振り返ると男は持っていたケーキを俺に差し出していた。
「え」
呆気に取られてしばらく固まっていると「ん」とケーキを持つ手を前に突き出してきた。
「食いたいんだろ?俺が食いたくて買おうとしてた訳じゃねぇから別にいーよ」
手を前に出すと、俺の手のひらにそっとケーキを乗せてくれた。
少し生暖かい。
「あ、ありがとう・・・」
男は棚に残っていたスイーツを適当にいくつかカゴに入れレジへと向かった。
「レジ袋は入りますか」
「大丈夫ス」
男は何個もあるスイーツを手に抱えてコンビニを出た。あれ絶対落とすだろ。
俺は謎にドキドキしながら、ケーキ以外にドリンクやお菓子、明日の朝食などを買い外に出る。
久しぶりに人の優しさを感じ、俺の心は今までに経験したことのない気持ちになっていた。
「また会えるかな」
無意識に自分の口から吐き出された言葉に驚く。
「何言ってんだ俺」
家に着くと時刻は0を過ぎていた。誕生日にお祝いのメッセージをくれた人は今年もゼロだった。
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翌日、時刻は24時。
久しぶりに日を跨いでの帰宅となった。
コンビニが見えるとそろそろ自宅に着く合図だ。
俺は何故か昨日の男にまた会いたくなり、無意識に店内へ入っていた。
グルっと店内を探すが・・・いないか・・・。
はぁと小さくため息を漏らす。
ピンクでは無いが、スイーツコーナーには派手なオレンジ色のジャケット?ブルゾン?まぁそれを来た男が立っていたが、下を向いていたため顔は見えなかった。
そんなこんなで、何も買わず出るのはなんか申し訳ないから、ペットボトルを1本手に取り会計を済ませ店を出る。
数歩進むと、後ろから声をかけられた。
「おい」
振り向くと、さっきのオレンジ色の男だ。
両ポケットに手を突っ込み、顎を少し上げ俺を見下すように仁王立ちしている。
コンビニが放つ明かりが逆光となり、男の顔はよく見えない。不気味だ。
「なんでしょうか・・・」
「なんでコンビニ入ったの」
「はい?」
なんで初対面の奴にそんなこと聞かれなきゃ行けないんだよ。
「何も買う予定がないのに入ったよね。分かるよ、それ仕方なく買ったの」
俺の持つペットボトルをクイッと顎で指す。
気持ち悪、なんだコイツ。
「あ、あの、いきなりなんでしょうか?」
格好の悪い震えた声で聞き返す。
「はは、ウケる」
・・・・・・・・・は?
「ケーキ」
?
「昨日、ここでケーキ買ったでしょ」
「・・・買いましたけど・・・なんでそれを・・・・・・・・・あ」
もしかして昨日の男と知り合いなのか?
そういえば
〈俺が食いたくて買おうとしてた訳じゃねぇからいーよ〉
なんて言ってたな。
コイツのために買ってたのか。
男はゆっくりこちらへ向かってくる。
「そ、そんなに、ケーキが食べたかったですか?お、お金なら、いくらでも・・・!」
ギュッと力強く目を閉じた。
暗闇の中、男の声が耳元で響く。
「ピンク髪の奴探しにコンビニ入ったよね?」
今までとは違い、どこか怒りに満ちたような声色だ。
「ヒッ!」
パッと目を開けると、俺の短い鼻先に男の鼻先が触れるくらい近くに男の顔があった。
目と目が合う。
腰が抜け、ドスンと地面へ尻を着いた。
男は微動だにせず俺を見下ろす。
「なっ、なんなんだよォッ!」
声を荒らげると、男はゆっくりしゃがみ俺に視線を合わせた。
目が慣れてきたのか、男の顔がぼんやり見える。
「変な気起こさない方がいいよ」
「ヘッ・・・変な気って」
「とぼけんな」
男の手が俺の胸元へ伸びると
「おい!」
後ろから声が聞こえ、男はピタッと手の動きを止め引っ込めた。
後ろにいる別の男はどうやら目の前の男に声をかけたようだ。
「おせーよ!何やってんだよ・・・ってホントに何してんだ?」
しりもちを着いたまま顔を後ろに向けると・・・
(昨日のピンク髪の男!)