タイトル未定 水の流れる音が聞こえる。暗がりの部屋の片隅で、蛇口から薄汚れた流し台へ、ただひたすら水が流れている。
流し台の前には一人の男が立っている。男は手を洗っていた。一見すると男の手には汚れはついていないようだが、只ひたすら、男は手を洗っていた。
永遠とも思える長い間、私は男が手を洗う様子を眺めていた。眺めていたような気がした。しかし、ふと我に返ると、一心不乱に手を洗っていた男が実は私自身であったことに気が付いた。それでも私は、只ひたすら手を洗い続けた。長い間現れ続けた手は、その皮膚があちこちあかぎれ、ささくれ立ち、ところどころにできた傷から血が出ていた。それでも、いや、だからこそ、私は只ひたすら、手を洗い続けた。
これから語るのは、私の物語である。