Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ゆきち

    ジャンル適当マン ゲーム系多め

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 116

    ゆきち

    ☆quiet follow

    龍門灯籠慕情──ドクターとの面会は常ならばロドス艦内で行われていたが、今夜は例外だった。
    龍門都心部のとあるビルにて開かれたそれはロドスとカランド貿易の今後についてが半分と、……残りは今日が七夕の節句だからやれ灯籠を見に行こうだとか、美味しい屋台は何処にあるかとか、そんな話で。
    「たまには出歩かないと医療部のオペレーターたちがうるさいんだ」と笑うと、横で真剣に頷く小さなうさぎを連れて、夜の街へと消えていったのだった。

    21:00 龍門都市部 ☓☓☓ホテル・エレベーター内

    「すごい、ここからでも灯籠が見えますね」
    高層ホテルの最上階へと登っていくガラス張りのエレベーターの窓に寄り、クーリエが感嘆の声を上げた。
    人々の祈りを載せた灯りは、街中からふわりと登っては、夜空に向かって高く高く飛んでいく。龍門に並ぶ華やかなネオン街の人工的な灯りとは違い、ささやかではあるが優しい光を放っていた。
    小さい灯りの群れの中には、先程ドクターたちとあげた灯籠も入っているのかもしれない。
    「ああ…そうだな。今晩は一際夜景が美しく見える。最上階の部屋を取って正解だった」
    「お祭りとはいえ、夜更ししてはいけませんよ。勝手に抜け出すのも」
    主人に対して子供に言い含めるような調子でうたう。実際、好奇心を満たす冒険を求める、未だ少年のような一面があるのは事実なのだ。言っておくに越したことはない。
    「…一晩中お前が捕まえていてくれるなら逃げ出すまい」
    意味深に微笑んだシルバーアッシュが顔を近づけると、動きを予測したクーリエが後ずさって、恥ずかしそうに箱の隅に寄る。
    「ちょっと、誰か入ってきたらどうするんですか…!」
    思わず小声になる子鹿などお構いなしにますます隅へと追い詰めて、無言の眼差しを送る。赤みの差した褐色の頬を撫でるだけで、それ以上は強請らない。必要がないと知っているのだ。
    毎回、こういういたずらに叱るポーズはすれど、主のかわいい我儘に付き合うのは満更でもなくて──困る素振りはすれど、結局頷いてしまう。それが二人の日常だった。
    「わっ…わかりました、今夜は一緒にいますから!今は駄目です!」
    「よし、交渉成立だな」
    「はあ、言い始めたらきかないんですから…」

    ため息と同時にベルが鳴り、エレベーターの扉が開く。
    小鹿を射止めた雪豹は上機嫌な様子で、奥のスイートルームへと向かう。
    幸い一晩の契約を交わした二人を見る者は誰もいなかった。足音すらもフロアの高級な絨毯が吸い込んで、音もなく扉の向こうへ消えていく。

    ただし、たったひとつだけ──
    空に浮かぶ灯籠のみがそれを見ていたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works