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    香水の話。思いっきり過去を捏造しています。
    ヴィジペナ永遠にいちゃもだしててくれ…

    #ヴィジペナ

    香水 レオントゥッツォは自分が未熟な人間であることを理解している。特に幼いころから姉と慕う彼女のことについては。

    「ラヴィニア姉さんは香水とかつけないのか?」
     どうしてそんな余計なことを言ってしまったのかというと、レオントゥッツォ――いや、ここロドスではオペレーター・ヴィジェルであるのだからヴィジェルと名乗るのが正しいのだろう――がその日に受けた任務ともいえない雑用で、療養庭園という場所に行ったからだった。その庭園の主は自らを調香師であると名乗り、急ぎの荷を届けてくれたお礼にとヴィジェルに手製のハーブティーを振舞ってくれた。そして流れで新作だという香水の品評を頼まれ、数種類のムエットを目の前に並べられたのだった。上耳付きの種族の中でも、ペッローとループスの鼻の良さは別格だ。しかしヴィジェルはそこまで香水に、しかも女性ものの香水に詳しいわけではなかったので内心ひどく困惑した。だからこそ無意識に指標としたのはただ一人の女性のことで、『彼女』が纏うのならばとあれこれ考え込んでしまった表情から庭園の主にはすべてお見通しであったのだろう、プレゼントの相談が必要ならいつでもお気軽にどうぞ、と帰り際にハーブティーのパックを手渡されながらにっこりと微笑まれ、ヴィジェルはすごすごと自室への道を歩いたのだった。
     そんなことがあったので、いつも通り食事の席を共にしながら、ふとヴィジェルは目の前の彼女に聞いてしまったのだった。そして直後にものすごく後悔した。なにせ彼女の表情はヴィジェルの言葉を聞いた瞬間にびしりと凍り付いてしまったので。
     ラヴィニアは美しい女性だ。身内の贔屓目なしに、しかし彼女に恋する一人の人間としての贔屓目はたっぷりに、彼女は美しい人だと思う。いつだってピンと伸びた背も、分け隔てなく見通す曇りなき眼差しも、シラクーザの憂鬱な雨に濡れた尾の毛並みのひとすじでさえ、ヴィジェルにとってはどこもかしこも好ましいもので出来ている。食事の好みについてあれこれいただくお小言だけは耳を伏せたくなるときもあるが、彼女の声が聞こえたらつい耳がそちらを向いてしまうのはもはや本能的な習性である。だから小さく呟くように落とされた彼女の言葉だって、ヴィジェルの耳にはしっかりと聞き取れてしまったのだった。
    「あなたが、」
    「え」
    「あなたが言ったのよ。似合わないって」
     もう覚えてもいないでしょうけれど、と続けられた言葉に、凍り付いたのはヴィジェルのほうだった。いつ、どうしてそんな酷いことを。自らの愚かさに落ち込まない日々はないが、それにしたって意中の相手に浴びせるにはあんまりな言葉だった。またさらに彼女の言う通り覚えてもいないというのが最悪だ。弁明も弁解の余地すら存在しない
    「あの、ラヴィニア姉さん、その、謝って済む話じゃないんだけどでも心底謝らせてほしくて」
    「覚えてもいないのに謝る必要なんてないわ。私だけが勝手に気にしていることだもの」
    「それでも! 悪いのは俺だろう!」
    「食事中よ、大声を出さないで」
     ハッと我に返ったがすでに遅い。周囲の視線は興味深げに、しかしこちらが睨み返す前にそそくさと逸らされていく。ロドスという場所の人間は好奇心が強い。マフィアであるというだけで自動的に見て見ぬふりをされていた故郷とは違い、ここでは一挙手一投足が興味の対象であるのだと肝に銘じておかねばならないというのに、ついつい染み付いた振る舞いというものは出てしまうのだから情けないにもほどがある。ぺしょん、と情けなく耳を伏せ、ヴィジェルはそっと彼女の表情をうかがった。
    「詳しい話を聞いてもいいか? 言いたくないなら聞かないから」
    「……そうね、私も八つ当たりみたいなこと言ってしまって悪かったわ。あなた、あの時はまだこんなに小さかったんだもの。覚えていなくて当たり前なのにね」
     ふ、と彼女の表情がやわらかく綻んだ。彼女はいつだってこの表情を作る。穏やかな気持ちのときと、諦めを受け入れたときと。だからヴィジェルはたまらなくなって、ぐぅっと情けなく言葉を飲み込んだ。
    「あの時私は人生で初めて買った香水をつけて、いつも通りあなたのところに行ったの。そうしたらあなた、途端に『姉さんの匂いがしない』って大騒ぎし始めて、最終的には私のしっぽにしがみついてわんわん泣き出してしまって」
     穴があったら入りたいとはこういうことを言うのだろう。掘りたい。地面を全力で掘り返して埋まりたい。
    「香水だと説明したら、嫌だ、違う、そんなの似合わないって散々泣かれたものだから、おかげでそれからは香水というものが苦手になってしまったの。思えば、初めてだったから量も間違えて付けすぎてしまっていたのでしょうね。あなたの感想は正しかったのよ、レオン」
     もしも今ここに過去に行ける機械があれば、ヴィジェルは即座に使用して幼い自分に鉄拳制裁を加えていただろう。もちろんシラクーザマフィア式の、伝統的な方法で。ああもう、なんてことを幼い自分はしでかしてしまったのか! 過去の自分のとんでもないやらかしに絶望しながら、ヴィジェルは必死に謝罪の言葉を考えた。
    「まあ裁判官はそのような華々しい装飾品とは縁遠い職だから、特に問題もなかったの。だからあなたも気にしなくていいわ」
    「気にする。気にさせてくれ。ラヴィニアに酷いことを言ったのは事実なんだから」
     テーブルに置かれていた彼女の手をそっと握って、それが振り払われなかったことに感謝しながら、ヴィジェルはおずおずと口を開いた。
    「よければ、ラヴィニアのために香水を選ばせてほしい。もちろんこんなことで罪滅ぼしになるなんて思ってもいないけど、せめてそのくらいはさせてくれないか」
    「もらっても使わないわよ。どう使っていいかわからないし」
    「それでもいい。あなたに似合うものを俺が贈りたいだけだから」
     過去を消すことはできなくても、せめて彼女の未来に影を落とさないように。じっと真正面から彼女の霧にけぶる明け方色の瞳を見つめていると、とうとう根負けしたように、ふぅ、と彼女のくちびるから細い吐息がこぼれた。
    「忙しいあなたにそんな暇があればね」
    「うん。ありがとう、ラヴィニア姉さん」
     ようやく彼女の諦観ではない柔らかい表情を見ることができて、思わずしっぽがブンブンと揺れてしまった。それに気がついた彼女の笑顔がよりいっそう深くなる。恥ずかしいけれど、彼女が笑ってくれるのならこんな無様さなんていくらでも晒して見せよう。ようやく見られた大好きな笑顔にヴィジェルまで頬が緩んで、だからつい、安堵のあまり余計なことまで口走ってしまったのだった。
    「そもそもそんなもの付けなくてもラヴィニアはいい匂いだし」
    「……あのね、レオン。女性の体臭について言及することがどれだけ無神経なことなのか、ロドスでデリカシーというものをもう一度学んできなさい」
     再びぶあついバリアの向こう側を張り直して徹底籠城の構えを見せた彼女の前で、今度こそヴィジェルはしおしおと情けない了承の声を上げたのだった。
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    DOODLE岳博ギャグ、自分のもちもちロングぬいぐるみに嫉妬する重岳さんの話。博さんずっと寝てます。絶対もちもちロングおにい抱き枕寝心地最高なんだよな…
    180センチのライバル 重岳は破顔した。必ず、この眼前の愛おしいつがいを抱きしめてやらねばならぬと決意した。重岳は人という生き物が好きだ。重岳は武人である。拳を鍛え、千年もの年月を人の中で過ごしてきた。けれども、おのれのつがいが重岳を模したもちもちロングぬいぐるみを抱きかかえて、すやすやと寝台の上で丸くなっていることについては人一倍に敏感であった。


    「失礼、ドクターはどちらに」
    「ドクターでしたら、仮眠をとると私室へ」
     あと一時間くらいでお戻りになると思いますが、と教えてくれた事務オペレーターに礼を伝え、重岳はくるりと踵を返した。向かう先はもちろん、先ほど教えてもらった通り、ドクターの私室である。
     この一か月ばかり、重岳とドクターはすれ違いの生活が続いていた。ドクターが出張から戻ってきたかと思えば重岳が艦外訓練へと発ち、短い訓練ののちに帰艦すれば今度はドクターが緊急の呼び出しですでに艦を離れた後という始末で、顔を見ることはおろか声を聞くことすら難しかったここ最近の状況に、流石の重岳であっても堪えるものがあったのだ。いや流石のなどと見栄を張ったところで虚しいだけだろう、なにせ二人は恋仲になってまだ幾ばくも無い、出来立てほやほやのカップルであったので。
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    DOODLE岳博、いちゃいちゃギャグ。寒い日に一緒に寝る姿勢の話。岳さんが拗ねてるのは半分本気で半分はやりとりを楽しんでいる。恋に浮かれている長命種かわいいね!うちの博さんは岳さんの例の顔に弱い。
    「貴公もまた……」
     などと重岳に例の表情で言われて動揺しない人間はまずいないだろう。たとえそれが、冬になって寒くなってきたから寝ているときに尻尾を抱きしめてくれないと拗ねているだけであったとしても。


     彼と私が寝台をともにし始めてから季節が三つほど巡った。彼と初めて枕を交わしたのはまだ春の雷光が尾を引く暗い夜のことで、翌朝いつものように鍛錬に向かおうとする背中に赤い跡を見つけ慌てたことをまだおぼえている。それからほどなくして私の部屋には彼のための夜着がまず置かれ、タオルに歯ブラシにひとつまたひとつと互いの部屋に私物が増えていき、そして重ねる肌にじっとりと汗がにじむような暑さをおぼえる頃には、私たちはすっかりとひとかたまりになって眠るようになったのだった。彼の鱗に覆われた尾にまだ情欲の残る肌を押し当てるとひんやりと優しく熱を奪ってくれて、それがたいそう心地よかったものだからついついあの大きな尾を抱き寄せて眠る癖がついてしまった。ロドスの居住区画は空調完備ではあるが、荒野の暑さ寒さというのは容易にこの陸上艦の鋼鉄の壁を貫通してくる。ようやく一の月が眠そうに頭をもたげ、月見に程よい高さにのぼるようになってきた頃、私は名残惜しくもあのすばらしいひんやりと涼しげな尾を手放して使い古した毛布を手繰り寄せることにしたのだった。だが。
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    DOODLE博の本名が知りたかっただけなのに特大の爆弾落とされたScoutさんの話
    名前を呼んで[Sco博♂]「■■■・■■■■……ああ、呼びづらいでしょうから、よろしければ”ドクター”と」
     彼はその立場が立場であるので、このような商談や交渉の席に呼ばれることが非常に多い。『私にもできる数少ないことなんだ。ほら、私のボウガンの成績は知っているだろう?』などと嘯く口調は本気そのものだったが、その内容を真実ととらえるような人間はどこにもいないだろう。不発に終わった冗句に肩をすくめながら、彼は本日もまたにこやかにそのふくよかなキャプリニーの男性と握手を交わすのだった。


    「■■■・■■■■?」
    「驚いた。君はとんでもなく耳が良いな。だがそれは今回だけの偽名だからおぼえておく必要はないよ」
     ということは、ここに来ることはもう二度とないのだろう。交渉は順調に進んでいた様子に見えたのだが、彼の中ではもう終わりということらしい。せっかく、と思いかけてScoutはその理由を自覚し、そっと飲み込んだ。なにせその見つけた理由というものがあまりにもみっともない――せっかく彼の真実の一端に触れたと思ったのに、というものだっただなんてウルサス式の拷問にかけられたって口を割れるものではなかった。などと葛藤するこちらのことなどまったく気にも留めずに、彼はいつも通りの温度のない口調で言葉を続けている。
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