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    00SnksSkns99

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    呪力を無くしたにょた五を攫って監禁する夏の話を書きたかったやつ……
    モブ視点あり、色々捏造、何でもOKな人向け

    #夏五
    GeGo
    #女体化
    feminization

    花の檻 快晴だった。雲ひとつない青空。本当だったら今日は友人たちと遊びに行く予定だったのになあなんて思いながら上を見上げる。
     目の前に聳え立つのはとある宗教団体の保有する寺院だという。かなりでかい上に豪華な建物だった。建物が大きいのだから当然敷地も広くて、ここらの山一帯も宗教団体が保有しているものらしいと母が教えてくれた。最近出来たばかりの新興宗教のはずなのに随分と金があるらしい。
     そう、宗教。せっかくのアウトドア日和にこんな山奥にある宗教団体の施設に来る羽目になったのだ。勿体無いったらない。
     最近、妹が悪霊に取り憑かれたとか何とかで両親が騒いでいたのは知っていたが、まさかこれほど突き抜けていたとは思わなかった。夜眠れないだの最近悪いことばかり起こるだの、夕飯のたびに愚痴っていたのは知っていたが、どうせただの不注意とか生活態度がだらし無いだけだろう。だというのに、妹に甘い両親は神社でお祓いだの坊さんの説法だのあちらこちらに走り回り、その果てにこの宗教団体へ縋りついた。何でも仏みたいに慈悲深い教祖様がいらっしゃるのだとか。
     悪霊なんぞに困っていない俺は、ふーん良かったねとキャンプ道具片手に呑気に眺めていたし、正直勝手にやっててくれと思っていた。だが、場所が場所だけに平日仕事のある親父は連れて行けないからと今回限りで母親と妹を乗せてこんな山奥まで足にされたわけだ。普段はガリガリ親の脛を齧っているので、こういう時の頼みは断れない。下手したら家を追い出されてしまう。
     母と妹が教祖様と面会して悪霊を祓ってもらっている間は暇なので、せっかくだしと建物の周囲を探索することにした。単なる暇つぶしだ。どうせなら、新興宗教の胡散臭い儀式の一つでも目撃して大学の話のタネにしようとか、そういう思いつきからだった。
     高い塀に囲まれた敷地の中はどこも手入れが行き届いていて、道端に雑草が生い茂っている様子もない。たまに、作務衣を着た人々が静かに境内を掃除しているのを見かけた。随分とマメなことだ。
     話のネタになりそうな場所を探しながら歩いていると、少し離れたところにまるで壁のように綺麗に列を成して植えられた背の高い紫陽花を見つけた。明らかに人為的に植えられたものだ。まるで何かを囲っているような。隙間から何か見えないかと葉をかき分けて向こう側を覗いてみると、色とりどりの花壇がチラリとだけ見えた。

    「うわぁ」

     思わず声が漏れた。本当に少ししか見えなかったけれど、まるでインターネットの宣伝なんかに使われそうなほど綺麗な花壇だった。どこかに抜け道はないものか、紫陽花で出来た柵沿いに歩きながら入口を探す。
     程なくして、人ひとりが通れる程度の隙間を見つけた。怒られるのは流石に嫌だったので、不用意に入らずにそっと覗き込む。そこには、夢のような景色が広がっていた。
     小さな離れ座敷と生き生きと生い茂る花々が植えられた花壇。それらを囲む紫陽花の柵。ただそれだけがある空間なのに、まるで箱庭のようだった。色とりどりの花々は瑞々しく陽の光を浴びていて、この場自体が生命力に溢れているようだ。まさかこんな場所があるなんて。ここは何だろう、あの離れ座敷は何に使っているのだろうか。
     好奇心のまま足を踏み込もうとして、直前で思いとどまる。すぐ近くの花壇に人がしゃがみ込んでいたのだ。
     白い着物を纏った白髪の女だった。俯いているので顔は見えない。多分、花を眺めていたのだろう。花壇の手入れをしていたにしては服装が向いていないし、何よりどこも汚れていない。
     さらさらと微風に揺れる白髪から、白い頸が見えた。白い髪に、白い肌。いわゆるアルビノという奴だろうか、と一瞬思ったが恐らくは違うのだろう。詳しくは知らないが、アルビノを患う人はおいそれと陽の光を浴びることが出来ないのだとテレビで言っていたのを思い出した。では染めているのだろうか、それにしては髪の痛みがないよう思える。
     不躾にじっと観察していたら女が着物の裾を押さえながらゆっくりと立ち上がった。身長は女性の平均より少しだけ高いくらいか。立ち上がる所作だけで育ちの良さが伝わってくる。俯いていた顔が露わになって思わず息を呑んだ。
     美しい人だった。
     この美しい庭園が霞んでしまうほど美しいと思った。見ただけでわかる程きめ細やかな白い肌と陽の光を受けて発光するように輝く銀とも白ともつかない髪。何より鮮やかな、あおい瞳。まるで青空のような、星空のような、そんな不思議な色を溶かしたような。髪と同じように白く長いまつ毛に縁取られたそれが、こちらの姿を捉えていた。プルプルと潤ったほのかにピンク色の唇を少しだけ震わせて息を漏らすだけで、心臓の動きが速くなる。
     一体どんな声で話すのだろう。きっと声も美しいに違いない。白く細い喉の奥にある声帯が揺れることを期待して、息を潜めて耳を澄ませた。
     けれど、彼女の艶めかしい唇が開かれることはなかった。
     ただじっとこちらを見つめている。なぜだろう、何か話してはくれないだろうか。
     速くなっていく心臓に押されるように片足を踏み出そうとする。すると、こちらを見ているだけだった彼女の肩がびくりと跳ねて、さっと顔色が悪くなったように思う。警戒されたのか、一歩後ろに下がられる。怯えさせてしまったのだろうか。
     害する気持ちは無いのだと証明するためにこちらも二歩ほど下がると、青褪めたように見える顔から緊張の色が薄れる。彼女は、ほっそりとした美しい右手を持ち上げると俺を、いや俺の背後を指差した。桜貝のようなつま先がこちらに向けられて、胸に湧き上がる衝動のようなものを押さえながら背後を振り返ってみたが特に何もない。来た道があるだけだ。
     だが、彼女はひたすらに俺の背後を指差し続けている。戻れ、と言っているのかもしれない。
     三歩先、紫陽花で出来た境界線の向こう側に行きたいと思った。彼女のそばに行きたい。
     一歩近寄ると、またさっと顔色が変わり、彼女の視線が厳しいものになった。止まれ、とでもいうように小さな手のひらがこちらに向けられる。どうして、何も怖いことなどしないのに。
     何か、彼女を安心させるようなことを言わなければ。
     そう思っても何を言えばいいのか思いつきもしなくて、結局踏み出した足もそのままに彼女の美しい瞳を眺めていた。

    「そこにいるのは、どちら様かな」

     沈黙を破ったのは、第三者の声だった。若い男の声。何も特別なことなど言われていないはずなのに、背筋にぞわりと悪寒が走る。
     背後を慌てて振り返ると、いつの間にかそこには袈裟姿の男が立っていた。若そうだが、恐らくは歳上だろう。20代前半から中頃といった所だろうか。貼り付けたような笑顔と長い黒髪が妙に胡散臭い印象を与える。

    「あ………」
    「このあたりは立ち入り禁止なのだけど、ひょっとして迷った?」
    「……す、すみません」

     立ち入り禁止、という言葉を聞いて反射的に謝罪の言葉を口にする。
     こんな形だけ豪華そうな寺院で立ち入り禁止もクソもないだろうと思っていたが、そう言えば得体の知れない宗教施設なのだった。神の領域とかそういう神聖な理由ではなく、何か後ろ暗い理由があっての立ち入り禁止ならいくらでもあり得る。その可能性に気づいて、今更まずいかも知れないと焦りが生まれる。

    「広い施設だからね、無理もない。出口まで案内しよう」
    「い、や…だい、じょうぶです。ほ、方角、方角さえ教えてもらえれば」
    「そう。では、あちらの方向にある建物沿いに進むといい。まっすぐ行けば正門に出られる」
    「あ、ありがとうございます。それじゃ」
    「どうぞ気をつけて」

     微笑む男に形だけ頭を下げて、衝動に急かされるままその場から歩き去る。あの美しい女をもう一度見たいと思わないでもなかったが、本能が振り返るなと叫んでいた。男に示された方向へ足を進ませる。背中に突き刺さる冷たい何かを懸命に無視しながら、あの男の視界に入らない安全圏まで一目散に向かった。
     男の声は、同じ男の俺でさえわかるほど甘やかな声だった。会話を重ねれば重ねるほど危機感が煽られた。甘く香る毒のような、触れることの出来ない逃げ水のような、見た目からは想像もつかないほどドス黒い何かのような。上手く言葉に出来ないがあの声を聞いていると、とにかく一刻も早くあの場から立ち去るべきだと本能が大暴れする。
     気がついたら衝動に突き動かされるままに走っていた。走って走って、正門が見えたら余計に腕を振って、大きな鳥居の下をくぐって階段を駆け降りた。しばらく駆け降りると、駐車場が見えてきて、愛車のすぐ近くに妹と母が立っていた。

    「どこに行ってたの!」

     母はこちらの姿に気がつくと、大きな声で詰ってきた。口だけでごめん、とモゴモゴ言いながら急いで車のロックを外して滑り込むように乗り込んだ。エンジンをかけてシートベルトをして、それでやっとまともに息が吐けた。

    「はあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………」
    「きもっ。人待たせて何してたのよ」
    「全くもう。何かご迷惑お掛けしなかったでしょうね」

     妹と母が揃って車に乗り込みながらごちゃごちゃと言ってきても何も気にならない。ここまで来れば安心だ。それだけが胸の内でいっぱいになって、母がシートベルトをしたのを確認して俺はすぐさま車を発進させた。

    「教祖様、カッコよかったね」
    「凄くお優しい方だったわね〜。まるで仏様のようだったわ」

     女二人がキャッキャっと「教祖様」を褒め称える会話を耳にしながら、俺は固く固く心に誓った。もう二度と、この施設の敷居は跨がない。
     あの男とは何気ない会話をしただけだ。美しい彼女とは言葉を交わす事さえしなかった。
     だけど、きっと、俺はあの男に殺されかけた。
     何もなかったけど、何も起きなかったけど、きっと俺の知らない何かが起きていた。
     美しい人だった。叶うならもう一度会ってみたい。でもそれはきっと叶わない。願った時が俺の最期だ。そんな気がする。話のタネになど到底できない。
     俺は、あの美しい箱庭を、あの美しい女のことを、生涯誰にも口にしないと心に決めた。




    「存外賢明な猿だな。呪霊も見えてないくせに」
    「………………」

     足早に去っていく青年の背中を眺めながら、夏油は侮蔑の言葉を吐いた。その表情は嫌悪に歪んでいて、嫌なものを見たとばかりにやれやれと肩を竦める。
     一方、五条は否定も肯定も返さず、ただじっと青年が消えていった方向を睨みつけていた。

    「やはり人避けの結界くらいは張るべきかな。術師に見つかってしまうのは厄介だけど、猿避けは万全にしておかないと。身の程も弁えずズカズカと入り込んでくる輩がいないとも限らないし…………君もそう思うだろ、悟?」
    「………………」

     俯く五条の肩を抱き寄せ、夏油は同意を求める。五条は何も言わず、ただじっとされるがままだ。
     自分よりも低い位置にある頬に手のひらを這わせながら反対側の耳に唇を寄せ、夏油は低い声で囁く。

    「ねえ悟。さっきの彼とは何を話していたの?」
    「……っ」
    「教えて?」

     細い肩をびくりと跳ねさせた五条は、夏油の手を振り払わない程度に首を振る。俯いているせいで見ることの叶わない瞳が見たくて、夏油は頬に這わせた指を顎に滑らせて無理やり上向かせる。

    「悟」

     美しい青い瞳。夏油には決して理解することの叶わない世界を映し出す瞳が、今は夏油一人に向けられている。それが、胸の奥に眠る仄暗い支配欲を満たすと同時に苛立ちを刺激した。
     顎を持ち上げていた指を更に下へ滑らせて白く細い首を強く締めると、五条の顔が歪んだ。少しだけ首を掴んで持ち上げて無理やり爪先立ちをさせると、白く細い手が縋り付くように夏油の腕に絡みついた。

    「…っ!……っ!!」

     はく、はく、と空気を求めて五条が喘ぐ。喉の奥からは呻き声一つ聞こえない。酸欠で頬が赤く染まり、形の良い唇の端から唾液が溢れる。見開かれた眼が虚に揺れ出したのを見て、ようやく手を離した。

    「…っ……っ…………」

     カヒッ、カヒュッ、と声もなく五条が咳き込みながら足元に崩れ落ちる。片手で喉を抑えながら両肩を荒く上下させて賢明に酸素を取り込もうとする様を見て、夏油は先ほどとは打って変わって優しい手つきで五条の身体を抱き寄せ、軽々とその身体を持ち上げた。そして白く柔らかな髪に頬を寄せながらうっとりとした声音で囁く。

    「意地悪言ってごめんね。話せるわけが無かったよね」
    「………………」

     両手で喉を押さえて俯く彼女の顔は窺い知れないが、もう無理やりこちらを向かせようとは思わなかった。五条は抵抗する素振りもなく人形のようにされるがままで、大きく深呼吸を繰り返して息を整えている。
     それを暫く眺めてから、夏油は五条を抱えたままゆったりとした足取りで離れ座敷へ向かって歩き出す。

    「今日はもう猿どもと会う予定はないから、久しぶりに二人でゆっくり過ごそうか。そうだ、いい天気だし外でお茶でもしよう!君が好きそうなお菓子があるんだ」

     夏油は一人楽し気に語り続ける。五条が何の返事をしなくとも全く気にしていない。よほどのことがない限り、五条が夏油のことを拒むことが出来ないことを理解しているからだ。
     小さな白い蝶が忙しなく羽を動かし、一見優雅に見える軌跡を描きながら五条の視界を横切っていく。五条は視線だけでそれを追いかけて、姿が見えなくなると目を閉じた。瞼越しでも六眼は機能している。草花に纏う周囲の呪力を為すすべなく見せつけられながら、五条は音も無くため息をついた。




     その噂を耳にしたのは、夏油が「呪術師の楽園を築く」という大義を胸に活動を初めてから三年経った春の頃だ。呪詛師として活動を始めるにあたり、その拠点として盤星教を下地として作った宗教団体の運営が落ち着いて、教祖として本格的に動き出した矢先のことだった。

    『五条悟が死んだらしい』

     初めてその噂を聞いた時、夏油は鼻で笑って戯言だろうと切り捨てた。
     あの五条悟が、あの最強の呪術師がその辺の呪霊やら呪詛師に遅れをとる訳が無い。病死という線もない訳ではないがその辺りは会得した反転術式でどうにかなっただろうし、何より夏油が知る限りの彼女は超健康優良児だった。生理痛に悩まされている姿さえ見たことがない。つまり、よほどの事が起きない限り、彼女が死ぬなどあり得ない。彼女が死ぬほどの事態が起きたのだとしたら、高専や御三家、呪術連やその他組織が泡を吹いて大騒ぎするはずだ。だがその頃はまだ彼らが表立って動いている様子はなかった。
     夏油が戯言だろうと切り捨てて暫く後、高専や五条家の周囲で不審な動きが報告されるようになった。高専所属の呪術師たちが疲弊しているという話から始まり、人手が足りず御三家所属の呪術師たちまで各地へ駆り出されるようになっていたのだ。
     決定的だったのは、それまで息を潜めるようにおとなしくしていた呪詛師たちの動向だった。水面下でコソコソと動き回っていた彼らが、徐々に活発になり事件を起こすようになったのだ。
     民間人の被害が相次ぎ、人々の不安から呪霊が産まれる悪循環。相対的に呪霊の被害も拡大し、呪術師たちは更に疲弊していく。
     そして、かつて夏油が隣を歩き、今は見上げる様な存在となってしまったはずの彼女の活躍の話はパッタリと途絶えていた。
     それでやっとあれはただの戯言ではないのだと結論付けて、夏油は高専と五条家にそれぞれ間者を潜らせることにした。
     五条は恐らく死んではいない。それについては確信があった。黙って死ぬ様な女では無かったし、それならばもっとわかりやすい何かがあったはずだ。だから死んでいない。けれど、少なくとも力を行使できない状況にいることだけは確かだ。そうでなければ彼女が現状を許すはずがない。
     程なくして、高専に潜らせた間者から連絡があった。それは『五条悟は一年ほど前から高専とは一切の接触を絶っている』というものだった。
     御三家の出でありながら高専所属の術師として活動していた彼女が、ある日突然高専に姿を見せなくなったというのだ。彼女が今まで請け負っていた膨大な数の任務は当然他の術師たちに割り振られた。上位階級の術師たちは今まで以上に任務を引き受けざるを得なくなり、また階級の低い術師たちも実力に見合っていないレベルの任務を科される事が多くなった。当然死亡者も増えた。そしてその分の負担がまた他の術師たちに割り振られる。その悪循環こそが、高専や御三家の術師たちが疲弊していく原因だった。
     それが判明して、夏油は余計に五条の行方を探った。しかし、彼女の情報はとにかく出てこない。死んだらしい、という情報もどこの誰ともしれない輩が適当にこぼした呟きが広まっただけのものだった。五条家に潜らせた間者からは一向に連絡が来ない。始末されたか、或いはただ見つかっていないだけなのか。どちらにしてもあまり期待は出来ない。
     とうとう夏油は、五条家所縁の土地に隠密の得意な特性を持つ呪霊を放つことにした。出来れば呪霊を使うことは避けたかったがこの際致し方ない。ある程度のリスクは承知の上で、夏油は自ら五条の行方を探ることにした。
     そうして夏油自ら五条家を探り出してすぐに、本家の敷地内にてとある離れを見つけた。
     周囲に結界の類が無いくせに、監視用の式神の類は異様に多い。『中に何かがある』ことを悟られない為だろうか。日に三度、世話係と思われる女中が食事を持って離れに訪れては去っていくので、中に誰かがいるのは確実だろう。世話役の女中も同じ顔ぶれしか現れない為、直接接触できる人間が制限されている様だった。
     式神に察知されないように得られた情報はその程度の物だったが、夏油にはそれだけで十分だった。恐らくその離れの中に五条本人、或いはその行方に関係する誰かがいるに違いない。誰が閉じ込められているのか確信が持てないのは、その離れからは誰の呪力も感じられないからだ。呪力を遮断する仕掛けがあるのか、それとも中の人間は呪力を持たないのか。
     式神の数を見るにこの場所を監視するために配置している術師の数も片手では済まないだろう。高専も御三家も疲弊している現在、余程の事がない限り人間一人を監視(或いは守護)するために貴重な戦力を割く余裕など五条家とてないはずだ。だが例外は存在する。
     六眼と無下限呪術を有する五条悟は、五条家悲願の至宝と言ってもいい存在だ。何を犠牲にしても、五条家は己が立ち位置を守るためにあらゆる手段を持って彼女を庇護するだろう。
     詳しい事情はわからないが、そんなものは会って直接聞けばいい。
     迷いや躊躇いが夏油の中に無かったと言えば嘘になるが、それ以上の何かに突き動かされて夏油は動いた。
     端的に言うと、夏油は一人で五条家を襲撃した。
     太陽が沈みかけた黄昏時、敷地のあちこちにそれなりの等級の呪霊を放ち、夏油本人は離れに向かう。穏便に済ませられるならそうしたかったが、式神の数や待機している術師のことを考えると、下手を打てばただでは済まない。五条本家の敷地内であることを利用して、いっそのこと襲撃に見せかけて目的を達成してしまう方が良い様に思えた。個にして軍、夏油の持つ呪霊操術があればこそ出来た作戦だった。
     当然すんなりとはいかず、幾人か術師相手に立ち回ることもあった。これ幸いと往く手を阻む彼らに五条の行方を問いかけてみたりもしたが、返ってくるのは沈黙と激しい攻撃のみ。それだけで夏油は自分の感が正しかったのだと確信した。
     いくら御三家の術師といえど学生時代に特級術師として名を馳せた夏油の敵ではなく、死なない程度に叩きのめしては目的の離れへと歩を進める。
     建物自体に結界はない。いつも女中が使っていた入り口も何の仕掛けも施されていない至って普通の引き戸だ。相変わらず呪力は感じないが、その向こうからは確かに人の気配がする。夏油の襲撃から一時間と経っていないが、逃げるのなら移動する時間くらいはあったはずだ。そうしないと言うことは、対抗できる手立てがあるのかそもそも逃げられないのか。
     躊躇いなく夏油は引き戸を開ける。滑るように開く戸の向こう、夕日が差してなお薄暗い部屋には木製の格子が張り巡らされていた。中には人影が一つだけ。
     いつかの嫌な記憶を思い出した。そうだ、あの時も、罪もない少女たちが理不尽を強いられていた。

    「悟」
    「……傑」

     座敷牢に囚われていたのは、夏油が探し求めていた五条悟本人だった。
     格子に近づけば暗くともはっきりと五条の姿が見えた。丁寧に結い上げられた白い髪に着けられた花髪飾りと恐らくは淡い色合いの模様をあしらった着物。ただ座っているだけなのに、その姿勢は凛と清廉な印象を与える。化粧の類など施されていないにも関わらず陶器を思わせる滑らかな肌とほんのりと色づいた唇。何より目を引く、その希少な瞳。
     あの頃の少女めいた可愛らしい面影は形を潜め、更に洗練された美しさを纏う彼女がそこにいた。
     けれどなんだ、この違和感は。何かが、足りないような。

    「久しいね、悟。君ともあろう者が、こんな所で何をしているんだい」
    「こっちのセリフだ、傑。どうしてここがわかった」

     違和感を置き去りにしたまま、夏油は口を開いた。
     三年前、新宿で別れを告げて以来の会話だ。もっと言いたいことがあるような気もするけれど明確に思い浮かぶ言葉が見つからず、次に何を言えばいいのだろうと少しだけ考え込む。けれど、牢の中にいながらも美しい顔に剣呑な色を浮かべながら問い返す五条からは気後れひとつない。その様子を見てやっと夏油は腹を据えて言うべき言葉だけを選び取った。

    「気になる噂を聞いてね、ちょっと調べただけさ」
    「噂?」
    「君が死んだって」
    「へえ……」
    「まあ、ガセだったようだけど」
    「案外ガセじゃないかもな」
    「え?」

     五条らしからぬ言葉に思わず目を見張るが、そんな夏油に構うことなく五条は言葉を続ける。

    「流石にわかるだろ、目の前にいるんだから」

     そう言われてやっと違和感の正体に気づいた。五条から呪力を感じない。溢れんばかりに彼女の身体に満ちていたはずの呪力どころか、その残穢すら感じられないのだ。
     建物自体に何か封じ込めるような処置が施されている形跡はなかった。目の前の木製の格子もそうだ。これらはただの建築物。本来ならば、五条を閉じ込められるような代物ではない。にも関わらず五条は唯々諾々と囚われている。
     つまり、今、五条悟は呪術師の力の根源である呪力を有していない。

    「悟、呪力はどうした」
    「無くした。呪力がないから術式も使えない。眼だけは関係ないみたいだけど」
    「無くした?」

     まるで落とし物でもしてきたかのような言い方だったが、夏油は頭を殴られたような衝撃を覚えた。
     五条悟は呪術界の頂点に君臨する存在だった。誰も彼女には及ばない。夏油でさえ。同じ特急を冠する術師といえど、二人の間には途轍もない隔たりがあった。
    あったはずだ、それなのに。

    「何があった」

     何があった。何があってそうなった。何が頂点に立つ彼女を引き摺り落とした。

    「さあ、僕もよくわかんない。でも呪力は無くなったし術式も使えない。これだけが事実」

     淡々と『事実』とやらを語る彼女の言葉を聞いていると、夏油の中で沸々と湧き上がる何かがあった。これは何だ。怒りか、憎悪か、それとも歓喜か。どれも違う。もう戻れない青い日々、その頃から夏油の中にあったもの。

    「………原因不明というわけか。それで、君はどうしてこんなところにいるんだ」
    「それ聞くまでもなくない?呪力がなくなっても刻まれた術式は消えないし六眼だって生きてる。俺が五条家待望の子っていう事実は何も変わってないわけ。無駄に反抗できる力が無くなって、家の連中にとってはむしろ扱いやすくなったんじゃないかな」
    「君にしては随分周りくどい言い方をするじゃないか。結論から言えよ、家の連中は君をどうするつもりだ」
    「そんなの決まってる。アイツらは」

     ほんの一瞬、スラスラと淀みなく言葉を紡いでいたはずの五条が言葉を止めた。はく、と開いた口から音が詰まる。視線が少しだけ下がったのを夏油は見逃さなかった。

    「俺を、繁殖牝馬にでもするつもりなんだよ」

     あくまで静かな五条の声が、夏油の地雷を踏み抜いた。
     瞬間、轟音をたてて格子が砕け散る。土埃がもうもうと舞う中、夏油は全身から呪力を沸たぎらせながら立っていた。

    「ゲホッゲホッ…!」

     五条が咳き込む声が聞こえる。恐らく怪我はしていまい。格子を砕く直前に別の呪霊に身を守らせた。
     埃っぽい空気が舞う中、夏油は少しでも自分を落ち着かせようと大きく深呼吸する。一瞬だけ落ち着いたように感じて、けれどもすぐに荒れ狂う激情が頭と体を支配した。

    「傑、オマエ何を……!」
    「選べ、悟」

     有無を言わさぬ怒りに満ちた声に、五条が息を呑む声が聞こえる。
     煙が晴れた。土埃に塗れた上等な着物に身を包んだ美しい女がそこにいる。夏油が狂いそうなほど欲しいと切望して、それでも手に入れられないと諦めた女だった。

    「自分の意志で私に着いてくるか、それとも無理やり引き摺り出されるか」
    「何言って………」
    「自分の意志で着いてくるなら私はこれ以上何もしない。だが後者を選ぶのなら、今ここで千の呪いを放つ」
    「は………!?」

     ハッタリではない。この三年間、潜伏生活を続けながら集めに集めた呪霊はとうに千を越えていた。今後のことを考えればあまり得策とはいえないが、そんなこと今の夏油にはどうでも良かった。

    「もちろん女子供もいるのだろうが、関係ない。五条家全員皆殺しにしてから君を連れて行く」
    「傑!」
    「選べ、悟」

     驚愕に満ちた五条の表情が狂おしいほど愛おしい。
     今、自分が一体どういう気持ちでこんな選択を迫っているのか、夏油には全くわからなかった。
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     そう、宗教。せっかくのアウトドア日和にこんな山奥にある宗教団体の施設に来る羽目になったのだ。勿体無いったらない。
     最近、妹が悪霊に取り憑かれたとか何とかで両親が騒いでいたのは知っていたが、まさかこれほど突き抜けていたとは思わなかった。夜眠れないだの最近悪いことばかり起こるだの、夕飯のたびに愚痴っていたのは知っていたが、どうせただの不注意とか生活態度がだらし無いだけだろう。だというのに、妹に甘い両親は神社でお祓いだの坊さんの説法だのあちらこちらに走り回り、その果てにこの宗教団体へ縋りついた。何でも仏みたいに慈悲深い教祖様がいらっしゃるのだとか。
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