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    00SnksSkns99

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    00SnksSkns99

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    GEGO DIG.NEW YEAR PARTY3の展示になります。
    新年もどうぞよろしくお願い致します!

    後日、修正した上で支部に上げますので誤字脱字あればこちらまで↓
    ましまろhttp://marshmallow-qa.com/skns_snks?utm_
    うぇぶぼ https://wavebox.me/wave/5va5uv5a0nsbs4e4/

    #夏五
    GeGo
    #GEGODIG.NEWYEARPARTY3

    尽くしたがりの恋人 12月24日といえば待ちに待ったクリスマスイブである。街は赤と緑で彩られ、どこか浮ついた空気に湧き立つ人々の表情は明るい。例に漏れず夏油もまた、柄にもなく今日という日を楽しみにしていた。目の前にいる男のおかげでその気持ちもどこかへ吹き飛んでしまったのだが。

    「それ何」
    「こ、転んだ……」
    「転んでそんな怪我する?」
    「凄い転んだ……」
    「君は頭良いんだから吐くならもう少しマシな嘘吐きなよ」
    「…………」

     場所は渋谷の某忠犬像から少し離れた位置。この辺りはどこもかしこも待ち合わせで人がごった返しているのだが、ただでさえ図体のデカい男がプレッシャーを放っているせいか、人々が避けて通っていく。だが、夏油はそんなことは知らないとばかりに目の前の男へ怒りの波動を放ち続ける。痛々しくガーゼや眼帯で覆われた顔が、気まずそうに逸らされた。
     久し振りに会う親友の五条があちこち傷だらけで現れた。それも明らかに誰かに負わされたのだとわかる傷だ。運動神経の良い彼が転んだ程度でそんな傷を負うわけがないので、敢えて受けたか避けきれなかったかのどちらかだろう。

    「とりあえず場所変えようか。話はそこで聞く」
    「うん……」

     しょぼくれた犬のように縮こまる五条の手を掴み、夏油は鬱陶しい雑踏の中へ足を踏み入れた。



    「ゲームで負けて酒瓶投げるとか正気?」
    「よく分かんないけど煽られたんだって」
    「余計に正気を疑う」

     場所は都内にあるそこそこ知名度のあるレストランに移る。少し薄暗い店内はオレンジ色の照明のおかげで柔らかく周囲を照らされ、優雅な音楽のおかげもあってとても落ち着いた雰囲気を演出している。
     五条の頬に貼られたガーゼや右目を覆う眼帯の白色は照明に照らされたせいもあって夏油の目を引く。個室のおかげで不躾な視線を投げてくる物がいないのは幸いだった。
     五条曰く、顔の傷はどれも同棲中の恋人によってもたらされたものらしい。ネットゲームで負けた腹いせに近くにあった酒瓶を五条へと投げつけ、割れて飛び散った破片に運悪く当たって瞼を切ってしまったのだそうだ。傷自体は大したことはないが、念の為につけろと医者から言われたため、この痛々しい様相が出来上がってしまったのだという。だから見た目こそ大袈裟だが、実態は大したことがないと言うのだが、いやそういう問題じゃない。

    「あの男とは別れろって前に言ったじゃないか」
    「傑が言ってた奴とはもう別れた。今の彼氏とはまだ会った事ないよ」
    「……はぁ」

     思わずため息が漏れる。以前付き合っていた男もすぐ感情的になって五条に暴力を振るうような男だった。散々止めろと言ったのに、また似たような男と付き合ってしまったらしい。せめてもう少し男を見る目を養ってもらいたい。

    「せめて定職にはついてるんだよな、そいつは? 前みたいに無職なわけではないだろう?」
    「えーっと、将来的には一流の歌手になるんだって言ってたよ」
    「………………」

     つまりまたヒモじゃないか!!!
     腹の底から叫びたいのをグッと堪えて食前酒として振る舞われた梅酒を煽る。個室とはいえ、騒ぎすぎれば他の客から苦情がきかねない。
     ちなみに前回の恋人は自分探しの最中だとか自分には合わないだとか言ってバイトを転々としていたような男だ。収入が安定していないのでほぼ五条が養っていた。それが夢追い人に変わっただけ。しかもこの口ぶりだとまず仕事はしていまい。それらを考えて余計に夏油は叫び出したい衝動に駆られた。
     小さく息を吐いて、五条の顔をまっすぐに見据える。頬に貼られたガーゼも片目を覆う眼帯も忌々しい。あの美しい顔を良くも傷つけてくれた。決して許せない相手だ。腹の底に怨嗟とも取れるドロドロとした感情が溜まっていく。だがそれ以上に、いつも美しく瞬く蒼い宝石のような瞳がこちらを捉えるから、夏油は人の道を踏み外すことはしないように耐えている。

    「あのね、悟。せめて定職に付いている相手を選べ。職場で探すのではダメなのか?」
    「えー、だって会社だと僕あちこちから嫌われちゃってるもん。近場で探すのは難しいし」
    「だからってなんでいつもダメ男ばかり引き当てるんだ……」

     なまじ何でも器用にこなす上に、良くも悪くも空気の読めない五条のことだ。仕事中、無意識に相手の地雷を踏み抜くようなことをしているのだろう。仕事は出来るが性格が悪い、というのが会社での評判だろう。自覚なくやっているのだろうからなおタチが悪い。だからと言って自力で条件の良い相手を見つけるのも難しいだろう。彼の今までの相手を全て並べれば典型的ダメ男の見本市が出来る。
     ならば夏油が探してやれば良いとも思ったが、それだけはどうしても嫌だ。できれば最終手段としたい。本当にどうしようも無くなったならそれも致し方ないが、今は、まだ。その覚悟が夏油には出来ない。
     結局、今の夏油はいつもと同じ言葉を五条に掛けるしか選択肢がないのだった。

    「ダメだ、そんな男とは今すぐ別れろ」
    「ええー、またそれぇ?」
    「当たり前だ。恋人に暴力を振るわないなんていうのは当たり前のことだ。条件に入れる事すらおかしい、大前提であるべき条件なんだ」
    「今まで付き合ってきた奴で、当たってこない奴の方が少なかったよ」
    「それが異常なんだって気づいてくれ。大体、そんな奴らのどこが良いんだ」
    「だって、僕のこと置いてったりしないもん」

     何も塗っていないはずなのに、薄く色づいた唇が歪む。

    「いっつも家にいてくれるの。みんな僕が帰った時にちゃんと家にいてくれた。黙って出ていく事もしなかった」

     それは、君の持つ金に惹かれて集まってきただけなのだから当然だろう。夏油はその言葉をグッと飲み込んだ。彼が一番恋人に求めているものが、どんな形でも「自分から離れていかない」事だと知っていたからだ。
     でも、それなら。

    (私だって良いはずじゃないか)

     学生時代に一度口にしたきりのそれも、夏油はいつものように飲み込んだ。



     12月31日、大晦日である。 前回のクリスマスは結局楽しい雰囲気のままとはいかなかったため年越しこそは五条と楽しく過ごそうと思っていたのに、またしてもその気持ちはどこかへ吹き飛んでしまった。

    「ちょっと、失敗しちゃって……」

     えへへ、とぎこちなくはにかむ五条。頬のガーゼも片目の眼帯も取れたのに、今度は利き手である右腕にギプスが巻かれ首から三角釣りにされている。何故と問えば、夏油の言った通りに交際中の男に別れ話を持ち掛けたところ逆上して手当たり次第に物を投げて来たのだと語った。

    「全然話聞いてくんないし、家の中もめちゃくちゃだし……。全然話進んでないんだよね」

     とりあえず傑と約束してたから家出て来ちゃった♡ と笑う五条とは裏腹に、夏油の機嫌は降下していく。これまで腹の底に沈めてきたどろどろした感情が煮詰まっていくのがわかる。
     夏油は無事な方の五条の腕を掴んで、なるべくいつも通りの声音を作って言った。

    「君の家に、案内して。今すぐ」

     表情はいつも通りとはいかなかったかもしれない、と五条の引き攣った顔を見て思った。



     五条の借りるマンションについてすぐ、夏油は土足で中に上がり込んだ。玄関を開ければ五条の言った通り、先日の喧嘩で色々とひっくり返ったり壊れたりしたのだろう、廊下のあちこちに色々な破片や残骸が散らばっていた。靴を脱いだ方が怪我をして危ないという判断だった。それにどうせこの家に長居するつもりはない。用が終わればすぐに出ていく。
     五条からヒモ男の部屋の位置を聞き出しすぐに示された部屋へ乗り込んだ。乱暴に扉を開けた先で、色々なパソコン機器や楽器なんかに囲まれた男がふんぞり返っているのが見える。先ほどチラリと見えたリビング部分は散々な有様なのに、この部屋だけは綺麗に保たれている所を見る限り、これらがあの男にとって一番価値のある物らしい。
     最も価値のある存在を手にしておきながら、あんなどうでもいい物が。

    「おせーよ、さっさと部屋ん中片付けブォッ」

     上等なゲーミングチェアを回転させ、振り向きざまに顔に一発。胸ぐらを掴んで反対の頬へ更に一発。白目を剥いたので頭突きで叩き起こし、それから腹に一発入れた。

    「す、傑……!」

     後ろで五条が何か言っているが、敢えて無視する。というより今は夏油自身も自分を止められなかった。積年の恨みや怒りが一気に噴出して、自分でも抑えきれない。
     何だってこんな奴らが、こんな奴が、五条と共に居られるというのか。今夏油を突き動かすのはその一念のみだった。

    (ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! 私の方が彼を思っている、幸せに出来る、そうしたいと思っているのに、どうしてお前らみたいな下衆ばかりが悟に選ばれるんだ!)

     端的に言えば、積もりに積もった積年の八つ当たり。最初から死なない程度に叩きのめしてやるつもりだった。思ったよりも衝動が抑えきれていないせいで男の顔が段々と膨らんできているが、呻くだけの体力はまだあるようなので大丈夫だろう。というかこいつは散々五条の顔に傷を作っていたな。一流ミュージシャンが夢らしいので、テレビに出ることなど出来ないようにしてやっても良いかもしれない。
     そう考えながら、夏油はまだ収まりきらない怒りを何とか飲み下して殴打の手を止めた。呻きながら小刻みに痙攣する肉袋から背後の悟へと視線を移し、笑顔で語りかける。

    「悟、とりあえず貴重品を纏めてきて」
    「え、いやでも、先に手当……」
    「手当? ここに手当が必要な人間なんていないよ。だから早く貴重品を纏めてきて。賃貸契約の書類なんかも忘れず持ってきてね」
    「…………うん」

     手当が必要な人間はいない、は真実である。夏油はこの程度で怪我をしたりはしないし、足元に横たわっているのはただの肉袋なのだ、夏油の認識では。故に手当など必要ない。
     恐らくは自分の部屋に向かったのだろう五条を待つ間、夏油はざっと目視で五条の部屋を含めた各部屋中を見て回る。恐らく肉袋が自分のスペースとして使っていた部分は綺麗に保たれていたが、それ以外の部屋はどうしようもない有様だった。カーテンは破れ、液晶テレビの画面は破砕し、テーブルや椅子の足がもげたりひびが入っている。五条の部屋もそうだ。どれだけ暴れ回ったのか知らないが、服から日常で使うであろう消耗品まで、どれもこれも引っ掻き回され壊されている。ひょっとしたら報復としてわざとダメにしたのかもしれない。どれも使い物にならない、捨てた方が早いな。夏油はそう結論付けた。
     肉袋の横たわる部屋へ戻り、無駄に毛量が多く長い毛の部分を引っ張り起こす。

    「ヒーッ…!ヒィィ……ッ!!」
    「おい、よく聞け。この家の中のものは全部お前にくれてやる。いいか、これは手切れ金だ。二度と悟に近づくな。一週間以内に好きなものを持ってこの家から出ていけ」

     卑屈に怯えた二つの目や潰れた鼻からダラダラと汚い汁を撒き散らし、歯並びの悪くなった口から情けない声を出す肉袋を見て、夏油はもう一度叩きのめしたくなった。仮にもこんなニンゲンモドキが五条の恋人の座に収まっていたなど、考えるだけで吐き気がする。
     肉袋に別れを告げ、割れた食器で溢れた台所で手を洗っていると五条が戻ってきた。

    「傑、とりあえず準備できたけど……」
    「じゃあ行こうか」
    「え、でもあの、アイツは……」
    「悟、行くよ」

     笑顔でそう言い張ると、五条は遂に諦めたように頷いた。そうして夏油の言う通りに玄関へと向かっていく。家を出る際、五条は後ろ髪引かれるような仕草を見せたが、夏油は振り向くことも許さなかった。



     家を出てまず真っ先にした事は、五条の借りていたマンションの管理会社だ。用意させた退去届をその場で記入し提出させた。鍵もその場で返却し、ライフライン関係の連絡から中の清掃なども含めて管理会社を通じて外部に委託する旨を伝え、その日のうちに無理やりやり取りを終了させた。一応、あの肉袋との約束もあったので全て一週間後に始めることになっている。あとは請求された言い値を夏油が支払うだけだ。吹っ掛けられるかもしれないが、それなりに収入も蓄えもあるので痛くもない。必要経費だと割り切った。
     次の目的地へ向かう道中にそちょうどいい服屋があったので、そこで当分の五条の着替えを買い揃えた。と言っても下着や肌着といった物のみだ。五条の衣服はほとんどダメになっていたのであの家に置いてきた。故に着替えがないので必要だと自分でもわかっているのだろう。次々とカゴに放り込まれる下着類を見ても、五条は何も言わなかった。
     更に五条の契約している携帯ショップへ向かい、今契約している番号を解約させた。これは万が一あの肉袋や過去の金食い虫共に集られないようにである。これには流石に五条も抵抗したが、結局夏油の言う通り解約に同意した。解約させたのはプライベート用の番号だったし、登録されている番号の殆どが金食い虫かその蛹だったので無くなって特に困るようなこともなかった。
     そうやって淡々と必要な所を回っていき、最後に夏油は自身のマンションへと五条を連れてきた。まさか家に連れてこられるとは思っていなかったのか、五条は目を白黒させている。

    「ねえ傑、ちょっと待てよ。これからどうするつもりなわけ」
    「どうもこうも、君は今日から私と住むんだよ、ここに」
    「ええ……」

     連れてこられた玄関で呆気に取られる五条。それに構わず、夏油は靴を脱ぐように言ってから簡単に部屋の中を紹介していく。

    「こっちがトイレで隣が風呂場ね、洗濯機もそこ。向こうがリビングで隣が私の部屋。君の部屋はこっち」
    「えっ、これ僕の部屋?」

     驚きのあまり、部屋を覗いていた五条が素っ頓狂な声を上げて夏油を振り返った。案内した部屋の中には、今からでも問題なく過ごせる程度にベッドや机等の家具が揃っている。あとは普段使う消耗品類さえ設置してしまえば快適に過ごせるだろう。ちなみに見えてはいないが、クローゼットやタンスの中にも五条の服が入っている。

    「そう、そこが君の部屋」
    「…………僕、オマエの家来たことないよね?」
    「うん」
    「なのに、僕の部屋があるの……?」
    「そうだよ」
    「………………?」

     何を言っているんだコイツは、とでも言いたげな五条の手を取り、夏油はこっち来て、と言った。辿り着いた先はリビングだ。ダイニングキッチンと一体化しているタイプの部屋なので、かなり広く感じるだろう。実際、夏油の借りているこの部屋は一人暮らし用の物件では無い。
     夏油はリビング部分に設置したクッショソファを指して言った。

    「それも君のだから。とりあえずそこに座ってて。お茶入れてくる」
    「えぇ……?」

     戸惑う五条をその場に残し、夏油はキッチンへ向かった。戸棚から自分は絶対に飲まないであろうココアの粉末と青色のコップを取り出す。ティースプーンでココア粉末を三杯と同じ量の砂糖を入れてお湯を注いだ。水切りカゴから自分が普段使っているカップも取り出し、こちらはいつも通りのインスタントコーヒーを入れた。
     二つのカップを持ってソファへと座る五条のもとまで行き、ココアが入った方を差し出す。

    「あ、ありがと……」
    「そのマグカップも君専用だから。好きに使って」
    「…………うん」

     何か言いたげにしながら、五条は頷く。ココアを一口啜る姿を見て、夏油もまたソファに座りコーヒーを啜る。暫くの沈黙の後、五条が口を開いた。

    「あのさ、僕の部屋とか僕の物とか、なんでこんなに用意されてるの?」

     夏油は静かに向けられた視線から目を逸らしてまた一口コーヒーを啜って、それからやっと口を開いた。

    「…………前々からずっと考えてたんだ。いっそ無理やり監禁でもしてしまえば、君は怪我をせずに済むんじゃないかって」
    「……………………」

     なるべく軽く言ったつもりだが、やはり衝撃だったらしい。絶句されてしまった。それでも構わず夏油は続ける。

    「でも君は、閉じ込められることは望んでないだろ。だから考えるだけにしておいて、でも君を見てたらストレスが溜まるからそれを発散させる為に色々買い物してたらこうなった」

     もしも五条が自分と住んでいたら。あれを欲しがるかもしれない、これが似合うかもしれない。そんな妄想を繰り返しながら買い物をし続けた結果がこの家の中身だ。何なら引っ越す際の部屋決めの基準さえ五条と暮らすことが前提のものであったが、それは流石に引かれる所ではなくなりそうなので伝えないことにする。。

    「…………そう、なんだ? …………お金払う? 使っちゃってるし……」
    「要らない」

     案の定、ウロウロと視線をさ迷わせながら五条が言う。いつもの自信に満ち溢れた姿はどこへやら、今の五条はまるで怯えた小動物のようだ。
     夏油は、そんな五条に意を決して再び口を開く。

    「あのさ、悟。この際だからもう一度言うけど。………私は今でも君の事が好きだよ」
    「……うん」

     それは十年も前に一度だけ口にした告白だった。心得たように五条が頷く。その頷きが告白に対する返事ではないことは夏油自身が一番良くわかっていた。
     高校の頃、出会った頃からずっと夏油は五条に好意を抱いていた。それが友人的な意味での好意ではなく、恋愛的な意味でのものであると気づくのに時間はかからなかった。
     五条は普段の振る舞いや言動によって周囲から反感を買うことは多かったが、その美術品のような美しいルックスのせいでとにかくモテた。だのに一度も彼女を作ったことが無かったので何故なのか問いかけてみたところ、ケロッとした様子で「俺、ゲイなんだよね」と言った。その時夏油が抱いた感想は「なら私とも付き合ってくれるかな」だった。それで気づいたのだ、自分が五条に恋愛感情を抱いていることに。きっと無意識の初恋だった。他の誰にも渡したくない。自分のモノだけにしたい。夏油の中のドロドロとした感情は、その頃から溜まり始めていたのだ。
     けれど告白してみても当時の五条は首を縦に振らなかった。「オマエとは付き合えない」そう言って、美しい瞳を伏せさせた。
     そうして自分には脈はないと悟った夏油は、今日まで一度も親友としての皮を脱いだ事はなかった。今この時までは。

    「前に言ったこと、今でも変わってないよ。君の事愛してる。君に怪我をさせた奴を嬲り殺してしまいたいと思うくらいに腸が煮えくり返る。それでも、君は私といるよりあいつらと一緒の方が幸せそうな顔するから今までは我慢してたんだ」

     だが五条が本当に幸せを手にしたことが果たしてあっただろうか。幸せそうに微笑む姿なら何度も見た。だが、幸せだと語る彼の姿など見たことがない。それに気づいた時に夏油は思ったのだ。ならばもう、我慢する必要がない、と。

    「君が幸せになるのに私が必要でないならそれでも良かったよ。でも自分自身を削るような方法で幸せになろうとするなら話は別だ。普通の恋人関係は今まで君が経験してきたものとは全く違う。普通は恋人の家に転がり込んだ挙句に家事も掃除も全部押し付けたりしないし、お金を集ったりしないし、ネットゲームで煽られてムカついたなんて理由で酒瓶を投げつけたりしない。一方的な献身と搾取が成り立つ関係を恋人とは呼ばない」
    「……うん」
    「好きな人が近くに居てくれて嬉しい気持ちは理解できるよ。帰ってきた時に誰かが家にいてくれたら嬉しいって気持ちも。でも、あいつらは君を出迎えたりはしなかっただろう。おかえりって、玄関まで迎えに来てくれた事が一度でもあった? 仕事から帰ってきた君に対して、労いの言葉の一つでも口にしたことがあったのか?」
    「………………ない」
    「だろうね。あいつらは君に寄生してただけで、君を愛していた訳じゃないんだから。君の幸せにケチをつける真似はしたくないけど、だからといってこの先確実に不幸になるだろう事が目に見えてるのに、指をくわえて見ていられるほど私は寛容じゃないよ」
    「……………………」

     夏油が言葉を重ねるほど、五条の視線が下がっていく。何かを堪えるように俯く五条の左手を握り、夏油は覗き込むようにして見ながら言葉を重ねた。

    「だから、ねぇ、悟。私と付き合おう」
    「…………でも」
    「色々やってみて、やっぱり無理なら諦める。君が嫌がる事も極力しない。どうしても譲れない事もあるけど、何かを決める時はちゃんと君と相談してから決める。どう?」
    「どうって……え? だって、そんなの……」

     夏油からの申し出に戸惑う五条。夏油は捨てられた子犬のような顔をして、更に言葉を重ねる。

    「十年だよ、悟。十年ずっと耐えてきた。私に少しでも情があるなら、チャンスをくれたって良いじゃないか」

     高校で出会い、親友になって、告白して振られた。それでも友人関係はずっと続いていた。夏油はこの十年、一途に五条だけを想い続けながらも煮湯を飲まされ続けるような日々だった。親友という唯一無二の座にいるはずなのに、一番幸せにしたい人間を幸せに出来ない。彼が自ら幸福にはなれない道を選んでいると言うのにそこから無理矢理引き離せるほど己のエゴを追求することも出来ない。
     ーーーーー悟さえ私を受け入れてくれれば。
     そんな思いを抱きながら、親友として十年を過ごした。だがもう腹は括った。あるいは開き直った。受け入れなくても知った事か。夏油が五条を幸せにすれば良い。それで万事解決だろう。

    「絶対に幸せにする。だから私を受け入れて」
    「………………」

     五条の瞳が小刻みに揺れ動く。夏油が必死な思いで五条を見つめていると、やがて根負けしたように五条が頷いた。

    「本当!? ありがとう、悟!」
    「えっ……あっ……」

     喜ぶ夏油の様子を見て、しまったとばかりに声を漏らす五条。しかしもう夏油にはそんな五条の内情など今は知る必要がない。言質はとった。晴れて恋人になれたのだからあとは幸せにするだけだ。夏油の全力を持って。

    「早速年越し蕎麦の材料買ってくる。一人分しか用意してなかったけど、二人で年越しするんだし必要だよね」

     張り切って買い物に行くという夏油に、五条は反射のように僕も行く、と言った。夏油は首を傾げて腕の心配をする。

    「大丈夫? あまり出歩いて怪我に響かない? 今日は色々な事があったんだし休んでいてよ。近くのコンビニだからすぐ戻ってくるし」
    「でも……」

     夏油の言葉に、まるで困りきったような表情を浮かべる五条。その様子を見た夏油は、優しく微笑んで無理はしないようにね、とだけ告げた。



     夏油と付き合うことになって数時間、五条は困り果てていた。

    「悟、これ君好きそうじゃない?」
    「……どうだろ」

     クリームにフルーツソースが掛かったコンビニならではのミニパフェを差し出しながら夏油が言う。今までの恋人との買い物では相手の好みを反映した内容になることがほとんどだったので、好きな物を選んで、という夏油の言葉に五条は酷く困惑していた。自分の好みなど把握していない。何となく甘いものが好きということだけは自覚しているが、特定の何かが好きというのがなかったので選べと言われても何を選んだらいいのかすらわからない。

    「これ、食べたことないの?」
    「コンビニスイーツ自体久しぶりかも」
    「本当? じゃあ色々買って食べ比べでもしようか」
    「えっ」

     そう言うや否や、夏油はコンビニスイーツをカゴの中に放り込んでいった。棚にある全ての商品を買う勢いで放り込まれるそれらを、五条は唖然として見詰める。好きかどうかもわからないのに、五条が好きそうだからというだけで商品を選んでいるのだ、この男は。罪悪感か焦燥感か、よくわからない衝動に突き動かされながら五条は「傑のも買お!」と慌てて他の商品を手に取る。
     自分に為に選ばれたコンビニスイーツを覆い尽くすように、夏油の好きそうな惣菜やおつまみなんかを選んでこれも、これも、とカゴに入れていく。そうしていくうちにどんどん買い物かごに物が積み重なっていき、気付けばとんでもない量になってしまった。慌てて戻そうとする五条に夏油は笑いながら「これで年始はずっと引きこもっていられるね」と言ったので、五条はまた戸惑った。今までの恋人たちなら「食えるかもわからないのに無駄なものを買うな」と怒られていたからだ。
     支払いまで夏油が済ませてしまおうとしていたので、せめて支払いはさせろと無理やり電子決済を済ませた。
     五条は腕が折れているからと帰りの荷物持ちは当然のように夏油になった。怪我をしようが高熱を出そうが関係なく、一人で仕事も家事も買い物もこなすのが普通であった五条はどこか居心地の悪さを感じていた。



     家に着いてすぐに買ったものを冷蔵庫や棚に仕舞ってから二人で早めの夕食についた。風呂の用意も夕飯の支度も全て夏油が準備していた為、買い物から帰ってきた後も五条が手持ち無沙汰な状況は続いていた。時間が経つに連れて居心地の悪さが増長していき、五条の内心は何かをしなくてはという焦りでいっぱいになっていた。
     夏油が買っていた部屋着に身を包み、二人並んでテレビ越しの除夜の鐘を聞き流しながら、必死に今の自分が出来そうなことを探す。何でもいいから何か出来ることがあって欲しかった。
     そして、あ、と思いつく。
     あるじゃないか、自分だから出来ること。今だからこそ出来ることが。
     反射的に立ち上がった五条に、夏油がどうしたの? と首を傾げた。

    「ちょっと、準備してくる」
    「なんの?」
    「……お楽しみ?」

     夏油にはここで待つようにいい含めてから五条はリビングを後にする。三十分ほどしてから準備を終え戻ってきた五条を、夏油は嬉しそうに迎えた。

    「おかえり、長かったね」
    「うん、ちょっとね」
    「で、何の準備してたの?」
    「えっと…………」

     夏油の様子にぎこち無く答えながら先程と同じ場所に座る。年越しまで残り一時間ほどだ。さて、どう切り出そうか。自分から誘うことはほとんど無かったのでどう言えば正解なのかわからない。そもそも夏油は誘われて喜ぶのか?
     テレビを眺めるふりをしながら考え込んでいると、夏油の手が無事な方の手に重なる。まるで恋人のようなそれに、五条は少しだけ身体を強ばらせて、それから意識して力を抜いた。

    (まるでっていうか、恋人じゃん)

     お試しとはいえ今はそういう関係なのだ。だから夏油の行動も、五条がこれからしようとしていることも何もおかしくない。そう自分に言い聞かせながら、あのさ、と五条は言った。
     五条とは違う、格闘技によって硬いタコの出来た掌の感触のせいで、少しだけ声が上擦ってしまう。

    「なに?」
    「……その、傑はさ」
    「うん」
    「僕のこと好きなんだよね?」
    「そうだよ」
    「……じゃあさ、その、シたいって思う?」
    「…………思ってるよ」

     少しの沈黙の後、夏油はハッキリとそう答えた。その答えに五条は少しだけ胸を撫で下ろす。
     良かった、大丈夫みたい。
     五条は重ねられた手を自ら絡めながら夏油に寄り掛かる。

    「悟?」
    「……年が明けたらさ、シよっか?」
    「え?」
    「腕こんなんだから、ちょっとやりづらいかもだけど……」

     寄り掛かりながら、夏油の耳元に息を吹きかけるようにして五条は言う。

    「僕、上に乗るのは得意だよ」
    「………………っ」

     夏油は息を飲んで押し黙った。五条は構わず続ける。

    「多分フェラも上手い方だと思うし……どう? 姫始めシてみない? 付き合って初めてと姫始めが一緒なんて、一周回って縁起がいい気すらしてこない?」

     怪我をしていない方の手で夏油の太ももに手を這わせる。内側の際どいところを指先でなぞるようにすると、若干強めに夏油に手を掴まれた。空いた片手を五条の後頭部に当てて自分の方へ引き寄せる。
     柔らかな感触と湿った吐息が五条の唇に重なる。はじめてのキスだ。全く嫌悪感を感じないそれに五条はほっとしながら自分からも唇を重ねた。
     最初は軽く触れるようにチュッ、チュッと繰り返していたら、夏油の舌がぬるりと口内に入ってきたので迎え入れるように舌を絡めた。応えるように舌を吸い上げ、積極的に絡ませる。はしたない水音とテレビの雑音が部屋に響く。
     いつものキスと違う。なんか、気持ちいいかも。五条がそう思い始めた頃、夏油はキスをしながら体勢を変え始める。夏油にしなだれかかるようだった五条をソファ側に押し返し、自分は覆い被さるようにして、五条の片手を絡ませる。小指で五条の首の後ろをスリスリとなぞりながら、更に口付けを深くしていった。
     上顎を舐め上げられると、ゾワゾワとした感覚が腰から這い上がってくる。喉の奥からくぐもった声が漏れる。今まで経験したことの無いキスに戸惑いながらも、意識は蕩けていく。キスなんてただのオプションだったのに。キスで感じた事なんかなかったのに、圧倒的な心地良さとほんの少しの性感を感じとる。
     夢中で舌を擦り合わせていたが、やがて夏がゆっくりと離れていく。二人の唇を繋ぐように唾液の糸がとろりと垂れて切れた。

    「ぁ……」

     思わず漏れた声が名残惜しげな響きを宿していて、五条は思わず赤面した。夏油はそんな五条を顔を見て、笑いながら言った。

    「あけましておめでとう。……年明けたよ」
    「あ……え……?」

     テレビの方を見ると、画面の中でHappyNewYear! の文字が踊っていた。

    「……あけましておめでと」

     縺れる舌を何とか動かしながら五条も挨拶を返す。夏油は愛おしそうに微笑みながら五条の頬へ掌を這わせ、軽いキスを送った。それからそっと耳元に唇を寄せて、低い声で囁く。

    「お誘いは嬉しいけどね。ちゃんと腕が治ったらにしようか」
    「なんで? 怪我なら気にしなくていいから……」
    「私、好きな子は甘やかしたいタイプなんだよね」

     擽るように首筋を指でなぞられて、そのぞわりとした感覚に五条は身を竦ませた。

    「……でも同じくらいめちゃくちゃにもしたいから。君の怪我が全部治ったら……ね?」

     指先は首筋から始まり五条の身体を滑っていく。肩、胸ときて、臍の下辺りでぴた、と止まり、それからとんとん、とそこを叩く。

    「この辺りかな」
    「ーーーっ!」

     吐息のようなそれを耳に吹き込まれた瞬間、五条の身体にゾクゾクとした感覚が走った。

    「覚悟しててね。溢れるほど気持ち良くしてあげる」

     妖艶に微笑む夏油、その瞳の奥に燃えるような熱が感じ取れて、五条は漠然と何かマズイ選択をしてしまったのかもしれない、と思った。




     年は明けた。二人の新たな一年は、始まったばかりだ。
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    😭💖💖💖💕💖❤💖💞🙏💖❤❤👏👏👏😭😭😭🕖🕑🕔💴
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    Replies from the creator

    00SnksSkns99

    MOURNING呪力を無くしたにょた五を攫って監禁する夏の話を書きたかったやつ……
    モブ視点あり、色々捏造、何でもOKな人向け
    花の檻 快晴だった。雲ひとつない青空。本当だったら今日は友人たちと遊びに行く予定だったのになあなんて思いながら上を見上げる。
     目の前に聳え立つのはとある宗教団体の保有する寺院だという。かなりでかい上に豪華な建物だった。建物が大きいのだから当然敷地も広くて、ここらの山一帯も宗教団体が保有しているものらしいと母が教えてくれた。最近出来たばかりの新興宗教のはずなのに随分と金があるらしい。
     そう、宗教。せっかくのアウトドア日和にこんな山奥にある宗教団体の施設に来る羽目になったのだ。勿体無いったらない。
     最近、妹が悪霊に取り憑かれたとか何とかで両親が騒いでいたのは知っていたが、まさかこれほど突き抜けていたとは思わなかった。夜眠れないだの最近悪いことばかり起こるだの、夕飯のたびに愚痴っていたのは知っていたが、どうせただの不注意とか生活態度がだらし無いだけだろう。だというのに、妹に甘い両親は神社でお祓いだの坊さんの説法だのあちらこちらに走り回り、その果てにこの宗教団体へ縋りついた。何でも仏みたいに慈悲深い教祖様がいらっしゃるのだとか。
    10709

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