Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kuriteme_tobe

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    kuriteme_tobe

    ☆quiet follow

    折角だからイベント的な話をと思い、「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃう」を言わせたくて書いたはずなのに、🐏が👁️を大好きな話になってしまいました……。ふんわりED後みたいな世界ですが、息をするようにifです。ハロウィンは噛み砕いて違和感ないくらいに落とし込んだ(多分)他、細かいことを好き勝手に設定しています。付き合っている二人。

    #クリテメ
    critémé

    Happy Halloween 年に何回か行われる、ストームヘイル周辺の魔物狩り。去年はあたたかい時期が長く、木の実や小動物の生育が例年より活発だった。お陰でそれを餌にする魔物たちが爆発的に増え、二週間強で終わるはずが二月近くかかる事態になっている。生態系のバランスが崩れれば、この地の種の存族も危ぶまれるし、旅人の命も脅かされかねない。夏の終わりより始まった討伐が完了した頃には、頬を撫でる風に冬の気配を感じるようになっていた。
     順調に事が進んだのなら、山の裾野まで広がる赤、黄、橙といった色が鮮やかに交じり合う様を、恋人と一緒に楽しみたかった。弁当を用意して山道を歩くのもいいだろう。忙しい人だ。料理をする姿はあまり想像つかないから、僕が準備したっていい。獣肉にスパイスと小麦粉をまぶして揚げ、溶いた鶏卵には調理料を混ぜて焼く。頑張って作った料理に、すらりとした指が絡んだフォークを彼が突き立て、僕の口へ運んでくれるのだ。想像すれば幸せなぬくもりで胸が満ちるが、今年は叶うことのない願望である。この地の冬は早い。風が冷たさを孕み始めれば、あっという間に凍える季節が到来する。二人の予定を合わせて自然を満喫するなど不可能に近い。下手をすれば、真っ白な世界に囚われて遭難しかねなかった。
    「はぁ……」
     ――せめて、あと二週間早かったならな……。
     落胆を溜息に乗せて吐き出すも、気持ちは増々沈んでいくばかり。五日間の休暇は言われたのがあまりに突然で、彼に声を掛けるのも憚られてしまった。結果、クリックは一人の休みを持て余している。
     異端審問官、テメノス・ミストラル。
     八歳年上の恋人は、抱える案件の裁判資料準備で、各地を忙しく飛び回っている最中だ。フレイムチャーチを訪ねたとして、彼はそこにいないだろう。クリックは二人での休暇は諦めて、ストームヘイルで過ごすことにした。  
     初日は、することが思いつかずに訓練に励んだ。二日目は残り短い秋を満喫すべく、街周辺を散策する。しかし、崩れかけの山道があるとの話を聞き、下見を兼ねてしまった為に仕事気分が抜けない。昼間頑張った分、夜は美味しいものを食べよう。考えたが、親しい者は皆仕事だ。一人の外食は何となく気が乗らずに、クリックは再び訓練場へやって来る。そこで素振りをしていたオルトに会い、休日の過ごし方を聞かれたので正直に話した。すると「いい加減にしろ」と何故か怒られ、聖堂機関の関連施設への出入りを、休暇明けまで禁じられて今に至る。こうなってはやることは何も思い浮かばず、お手上げだ。もう自室のベッドに潜って寝てしまおう。仕事になったら、いつ忙しくなるか分からないのだから。暫く無茶しても問題ないくらい、惰眠を貪ってやる。
     自棄気味に決意をしても、睡魔は中々訪れない。それでも必死に目を閉じていたら、腿に重たさを感じて瞼を上げた。指先へ思うように力が入らず、頭の芯はぼうっとする。どうやら、少しは眠っていたようだ。
    「お菓子をくれないと悪戯しますよ?」
    「…………え? あ‼」
     驚いたクリックは、慌てて身を起こす。彼が乗っていた腿の位置が大きくずれて、細い体が前方へ傾いだ。しかし、テメノスはクリックの肩を掴み、尻の位置を調節して青を見る。
     ――どうして、この人がここに居るんだ⁉
    「テ、テメノスさっ……いて!」
     彼の腰に手を回して支え、素っ頓狂な声で名前を呼べば、拳で軽く頭を小突かれてしまった。
    「声が大きい。誰かがやって来たらどうするつもりですか」
    「ええ? もしや、受付に声も掛けずに入って来たんですか?」
    「ええ。誰もいなかったので」
    「……」
     この人が口にすると、何気ない言葉でも途端に怪しくなる。好きな相手に抱く感情でないのは理解しているが、そのよく回る口に振り回されるのが常であるから、仕方がないと自分に言い聞かせた。
     二人が居る建物は、聖堂機関に所属する者が寝起きをする場所だ。面会者は基本、窓口となる一階の受付で手続きをし、外で会う決まりになっている。テメノスは所属こそ違えど関連団体である為、そこまで厳しく言われることもないだろう。それだけに、何かしらの意図を含めた行ないではないかと、つい勘繰ってしまう。此方の胸中を見透かすかのように、膝上の恋人は瞼を少しだけ伏せ。唇の端を持ち上げて、柔らかな笑みをつくった。
    「お菓子をくれないと、悪戯しますよ?」
    「は、はあ……?」
    「おやおや、君は知らないのですか? この時期になると、フレイムチャーチでは子供たちが仮装をして、家を訪ね歩くのです」
     それは、ソリスティアの外よりやって来た催しだ。元々は異教の聖人を記念する日、万聖節の前夜祭として始まったものらしい。それが大陸を幾つも渡る中で娯楽色が強くなり、子供たちを中心としたイベントに変化していった。今の時分になると、クリックも顔の形にくり抜いたカボチャを街中でよく目にするし、仮装した子供たちがお菓子を貰う様子を見守ったりもする。聖堂機関でも、いつ来てもいいように準備を万全にして待っていた。しかし、大人であるこの人から言われることが釈然とせず、クリックはもう一度首を傾げる。
    「それは知っています。けれど、どうして僕に? 子供でもないし、この部屋にはお菓子どころか何もありませんよ」
    「そうでしょうね。お菓子が置いてあるところに、君は入れないでしょうし」
     その返答に、クリックは苦虫を嚙み潰したような顔をする。知っているのだ、この人は。自分がどういった経緯で部屋にいるのか。聡い眼差しは、やることを見つけられずに寝ていたことも、全てお見通しなのだろう。
     久しぶりに会えた。
     もっと話すべきことがあるはずなのに、会うと彼のペースに乗せられてしまい、伝えたいことが中々届けられない。
     今日も雰囲気を良くする気の利いた言葉は思いつかず、クリックは目の前にいる愛しい人を力一杯抱き締める。すると、僅かに空気を震わせた彼の手が、背中へゆっくりと回り。円を描くようにして、繰り返し優しく撫でた。
    「息抜きの仕方も分からないらしい子羊に、教えに来てあげました」
    「……オルトですか」
    「ようやく裁判資料がまとまったので、持って来てみたら誰さんがいなかったのでね」
    「……ハロウィンに乗じて、からかいに来たのかと思いましたよ」
    「そんなことのために、こんな山奥まで来るように見えます? 頑張って仕事を終わらせて、顔を見にきたのに」
     わざとらしく首を傾げて、顔を覗き込んでくる緑の瞳。長い睫毛が頬に作る陰影に、背筋にはぞくりと高揚が走る。首へと移動した腕がふたりを近付けるから、瑞々しい唇まではあと数センチだ。
    「……だから。ご褒美を貰っても、いいと思いません?」
    「僕がされる側です?」
    「ふふ。……いい子ですね、物分かりのいい羊さんは好きですよ?」
     まるで、子供をあやすかのような聖母の囁き。男と見做されてないような扱いが面白くなく、クリックは唇を合わせようとした人を逆に押し倒してやる。少しだけ大きくなった深い緑に、意表を突けたと思えば胸は軽くなった。こういうところを面白がられ、からかってくるのだと分かってはいても、たまには自分だって彼を振り回してみたいのだ。
    「お菓子をくれなくては……。僕も悪戯をしてしまいそうです」
    「……へえ、興味がありますね。私はどんなことをされてしまうの」
     挑発をしてくる唇を塞ぎ、離れて。もう一度重ねた後で合さる場所を舌で舐めれば、テメノスは満足そうに眦を緩めた。
    「何日かはこの街に留まれます。あとで美味しい物でも食べに行きましょう」
    「本当ですかっ‼ いい店があるのでご案内します」
     身に纏うケープ、そして法衣のボタンを外しつつ、頭には美味しくて通った店を幾つか並べる。
     ――喜んで欲しい――
     その気持ちが先走りして、思考に意識が傾いてしまった。すると、首に回った腕に顔を引き寄せられ、柔らかな粘膜が唇を覆う。
    「……集中して」
    「は、はいっ」
     とんでもなく失礼なことをしてしまった。ゆっくり過ごせるなんて、本当に久々なのに――。
     クリックはボタンを外し終えるとテメノスの肩を抜き、暴いた肌に顔を埋める。
    「大好きです」
     心をぶつけるように体を強く抱き締めれば、「わたしも大好きですよ」と、珍しいくらい素直な言葉を囁く人。それにクリックは血が沸騰するほどの熱を覚え、顔を埋めて首筋を舌で確かめ、滑らかな肌へ手を滑らせる。恋人に溺れていく男の背では、全てを許すかのように手が優しく動いていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺💗☺💖☺☺☺❤💯💯💯💯💯💯☺💘🙏☺🙏🙏🙏🙏👏👏👏👏👏👏☺☺☺👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kuriteme_tobe

    DONE折角だからイベント的な話をと思い、「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃう」を言わせたくて書いたはずなのに、🐏が👁️を大好きな話になってしまいました……。ふんわりED後みたいな世界ですが、息をするようにifです。ハロウィンは噛み砕いて違和感ないくらいに落とし込んだ(多分)他、細かいことを好き勝手に設定しています。付き合っている二人。
    Happy Halloween 年に何回か行われる、ストームヘイル周辺の魔物狩り。去年はあたたかい時期が長く、木の実や小動物の生育が例年より活発だった。お陰でそれを餌にする魔物たちが爆発的に増え、二週間強で終わるはずが二月近くかかる事態になっている。生態系のバランスが崩れれば、この地の種の存族も危ぶまれるし、旅人の命も脅かされかねない。夏の終わりより始まった討伐が完了した頃には、頬を撫でる風に冬の気配を感じるようになっていた。
     順調に事が進んだのなら、山の裾野まで広がる赤、黄、橙といった色が鮮やかに交じり合う様を、恋人と一緒に楽しみたかった。弁当を用意して山道を歩くのもいいだろう。忙しい人だ。料理をする姿はあまり想像つかないから、僕が準備したっていい。獣肉にスパイスと小麦粉をまぶして揚げ、溶いた鶏卵には調理料を混ぜて焼く。頑張って作った料理に、すらりとした指が絡んだフォークを彼が突き立て、僕の口へ運んでくれるのだ。想像すれば幸せなぬくもりで胸が満ちるが、今年は叶うことのない願望である。この地の冬は早い。風が冷たさを孕み始めれば、あっという間に凍える季節が到来する。二人の予定を合わせて自然を満喫するなど不可能に近い。下手をすれば、真っ白な世界に囚われて遭難しかねなかった。
    3504

    related works