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    kuriteme_tobe

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    kuriteme_tobe

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    ワードパレット『恋のはじまり』より、【だんだん/仕方のないこと/タイミング】をお借りしています。三章ifの世界線、全てを終えた後のクリテメ。付き合ってます。以前、Xに上げたものです。

    #クリテメ
    critémé

    あなたを迎える夜のこと ケープ、そして法衣を脱いだテメノスは、その下に身につけているシャツのボタンを外し、鞄より出した洗い替えのものに腕を通していく。項が痛い。刺さるかのような強い視線が、晒している肌をじわじわと焦がした。だが、それも仕方がないことなのかもしれない。彼はまだ若いのだ。呆れるくらいに真っ直ぐでひたむきな男だけれど、色めいた触れ合いに対する興味が、ゼロではないはずだから。
     隆々とした筋肉の男らしさとは無縁であるし、力仕事も得意ではない。更には彼より八つも上。どこがいいのだと本人に尋ねてみれば、「沢山あって、ここで一つには絞り切れません!」と真っ赤になって答えたのは、今より三ヶ月ほど前のこと。思い出せば、ぶつけられた熱情ごとよみがえって胸が苦しくなるが、残念ながらまだ職務中だ。甘い囁きは夜まで取っておく必要がある。
     テメノスは仕事のため、フレイムチャーチよりストームヘイルまでやって来た。一連の事件に終止符は打たれたものの、それに関わる雑務は山のように残っている。故に、ここ三カ月は決して近くはない大聖堂と本部を、幾度も往復する羽目となっていた。自分の仕事である以上粛々と対応するが、以前のような穏やかな暮らしを送るには、もう少し時間が必要だった。
     宿に到着して早々、書類を持ったクリックが部屋の扉を叩いたのには、流石に驚いてしまった。まだ、顔を見せに本部にも足を運んでいない。急ぎの案件であるのは事実だが、遠路遥々やって来た身としては、少し休ませて欲しいのが正直なところである。
    洗いざらしのシャツは、肌によく馴染む。汗で濡れた衣服を新しくできた清々しさから、テメノスは唇よりほう、と息を吐いた。
    「失礼しました」
    「い、いえ」
    「それにしても……」
    「? はい」
    「本部の皆さんは、随分とせっかちなんですねえ」
    「すみません。宿へと歩く姿を、門番の騎士が目にしたらしくて」
     テメノスはクリックに向き直ると、目の前で着替えた非礼を詫びた。彼は命を受けて訪ねて来ただけ。それは承知しているが、此方は荷解きすらできていない。見当違いと理解しつつも、よく動く口はつい苦言を呈してしまう。申し訳なさそうに謝罪する恋人に、テメノスはゆっくりと首を横に振った。
    「構いません。君を差し向けたのはオルト君でしょう? 人選を間違えないあたりは流石です」
    「…………え?」
    「私の機嫌を取る方法を、理解しているという意味ですよ」
    「……‼ そうなんですか⁉」
    「では、書類を見ます」
    「えっ。あ、はい。……宜しくお願いします」
     言葉が続く前に、テメノスはクリックより書類を受け取り、部屋に備え付けの机に向かって確認を始める。遠距離である二人が会えたのは、実に一カ月ぶり。気持ちに変わりはないのだということを、それとなく彼に伝えたかった。ただでさえ人のいいクリックのことだ。強引に誰かに迫られても拒否できないのではと、勝手な心配が頭の片隅にあった。しかし、真っ赤な顔を満たす喜びからは、心配が杞憂であったことが察せられて。こっそりと胸を撫で下ろしはしたが、それ以上は照れ臭くて一方的に会話を切った。
     背後から聞こえてくる、床板の軋みと身動ぎに甲冑が動く音。律儀な彼のことだ、立ったままでテメノスが終わるのを待っているに違いない。同じ機関に所属する以上の結びつきが、二人にはある。もっと無遠慮に振舞ってもいいのにと思ってしまうが、それができないのが彼という男だ。
    「座って下さい。といっても、ここに椅子はありませんが」
    「は、はい。……それでは失礼します」
     ぎこちなく響いた声の後で、ぎし、とベッドが悲鳴を上げた。上背のある男が甲冑に身を包んでいるのだ。受け止める側は、さぞ重たいことだろう。
    「…………」
    「…………」
     座った後は、衣擦れの音すら耳には届かない。それはクリックが僅かな動きすらせず、腰掛けているという証明だ。恋人が感じているだろう緊張が、後方よりじわじわと伝わってきて。テメノスは雪道を歩いて来たのが理由ではない額の汗を、何でもない振りを装い手の甲で拭った。
     二人はまだ夜を共にしていない。
     幼い頃より、教会に身を置いていたテメノスに艶事の経験はなく。青臭い純情一杯の彼も、恐らくは自分と同じようなもの。肌を重ねるまでの時間は想像するしかないが、だんだんと距離が親密になっていくうち、自然とそうなるのではと考えていた。機会を見定めるのは、どちらだって構わない。ただ、まだ先だと思っていたタイミングは、すぐそこまでやって来ている。無音の部屋からそんな風に囁かれている気分になり、肩に必要以上の力が入った。
     ……顔が熱い。
     背筋をくすぐる甘さに耐え切れなくなったテメノスは、手早く確認を終わらせて勢いよく椅子を引いた。その音に慌てて立ち上がったクリックへ渡すと、労いを兼ねた笑顔の仮面をつけ、動揺を覆い隠す。
    「ご苦労様です。少し休憩したら、私も本部へ伺いますので」
    「お待ちしています!」
    「はい、待っていて下さい」
    「…………」
    「……あの、クリック君? どうかしましたか」
     元気な声で返事をした聖堂騎士は、身を翻してドアを開け、颯爽と歩き出すのだと思っていた。ところが、彼は書類を受け取った姿勢のままで、動き出す様子すら見せようとしない。一体、どうしたというのか。パチパチと目を瞬かせていたら、青の瞳を少しだけ彷徨わせた後、「テメノスさん」と遠慮がちな声で名を呼ばれた。
    「なんでしょう」
    「あの」
    「…………?」
    「今夜! ……部屋を訪ねてもいいでしょうか」
    「…………‼」
     耳に顔を寄せての囁きは、秘め事めいた雰囲気を漂わせている。
     これはきっと、他愛ない話をして解散となる流れではない。
     肌を重ねたいと、朝まで共に居ようと、暗に伝えているのだ。真っ直ぐに注がれる、燃え上がる瞳。見返すには暴れる拍動があまりに苦しく、視線を逸らして左手首を強く握った。
     答えなんて、考えるまでもない。すぐに返事をしなかったのは、そのうちと自分に言い訳しながらも、すぐさま奪って欲しい気持ちが存在していたから。八つも下の男相手に、まるで余裕がない。その真実を彼に暴かれたくはなかった。 
     テメノスは、少し迷う振りを見せた後で小さく頷く。こっそり盗み見た正面の表情は、零れ落ちそうなほどの笑顔で一杯になっていた。それに唇を引き結び、緩んでしまった口角を懸命に誤魔化す。
     頬に乗った影に顔を上げれば、少しだけ屈んだクリックが近付き、一瞬だけ唇を重ねた。
    「で、では! 美味しい物持って遊びに来ますね!」
    「…………あったかいものだとうれしいです」
    「了解です!」
     恋人の甘い葛藤に気付かない男は、敬礼をすると部屋を飛び出していく。そうして弾むように廊下を軋ませ、遠くなる足音は階段に吸い込まれていった。
    「…………子羊君に一本取られましたね」
     真っ赤になっているだろう頬をぺちぺちと叩き、気持ちを仕事へ切り替える。しかし、一向に引く様子のない火照りに、顔を洗おうと洗面台へ歩き出した。
     ――夜。どんな顔をして迎えればいいのだろう。
     未だ忙しない胸をゆっくりと撫で、頭の中で順序立ててイメージしてみる。しかし、余計に気持ちが落ち着かなくなり、テメノスは思考することを放棄した。

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    kuriteme_tobe

    DONE折角だからイベント的な話をと思い、「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃう」を言わせたくて書いたはずなのに、🐏が👁️を大好きな話になってしまいました……。ふんわりED後みたいな世界ですが、息をするようにifです。ハロウィンは噛み砕いて違和感ないくらいに落とし込んだ(多分)他、細かいことを好き勝手に設定しています。付き合っている二人。
    Happy Halloween 年に何回か行われる、ストームヘイル周辺の魔物狩り。去年はあたたかい時期が長く、木の実や小動物の生育が例年より活発だった。お陰でそれを餌にする魔物たちが爆発的に増え、二週間強で終わるはずが二月近くかかる事態になっている。生態系のバランスが崩れれば、この地の種の存族も危ぶまれるし、旅人の命も脅かされかねない。夏の終わりより始まった討伐が完了した頃には、頬を撫でる風に冬の気配を感じるようになっていた。
     順調に事が進んだのなら、山の裾野まで広がる赤、黄、橙といった色が鮮やかに交じり合う様を、恋人と一緒に楽しみたかった。弁当を用意して山道を歩くのもいいだろう。忙しい人だ。料理をする姿はあまり想像つかないから、僕が準備したっていい。獣肉にスパイスと小麦粉をまぶして揚げ、溶いた鶏卵には調理料を混ぜて焼く。頑張って作った料理に、すらりとした指が絡んだフォークを彼が突き立て、僕の口へ運んでくれるのだ。想像すれば幸せなぬくもりで胸が満ちるが、今年は叶うことのない願望である。この地の冬は早い。風が冷たさを孕み始めれば、あっという間に凍える季節が到来する。二人の予定を合わせて自然を満喫するなど不可能に近い。下手をすれば、真っ白な世界に囚われて遭難しかねなかった。
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    tanny_unt

    DONE仲間に祝福される、付き合って数年目のクリテメ
    AIUE.かなしい、つらい、くるしい。くらくてつめたい。だれもいない。だきしめてほしい。
    ……あいしてほしい。





    孤児時代、来る日も来る日も飢えと戦っていた。その名残か現在まで食は細いまま。汁菜を好み、口をつける。ひとくちは小さく、消化の速度も遅い。仲間内では比較的ゆっくりと食事を摂るほうだった。最年長のオズバルドと並び、互いにぽつりぽつりと本の内容を確認したり、時には無言で終えたりもする。

    旧友を失って、恩人を失った。その事がより一層食欲の減退に拍車をかけていたのだが、キャスティやオーシュットがやれ健康だの干し肉だのと構うものだから、観念してゆっくりながら量を摂ることに専念していた。
    皆、心配してくれているのだ。その心に報いたい。だが困ったことに胃袋はスープ一杯で満腹を訴える。我ながらほんとうに小さくて辟易するが、こうなるともうひとくちも食べたいとは思えない。口に物を運ぶのが億劫になり、喉奥からははっきりとした拒絶が聞こえる。はあぁ、と深いため息をついて器に盛られた薄切りの肉を持ち上げては置くことを繰り返している。行儀もよくないので、今日のところはギブアップを宣言しようとした時だった。
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