「近界民をちゃんと殺すにはコンディションを維持しないといけないからな」
殺す、と口にした時、僅かばかりでも殺意や害意というトゲがあれば、むしろ米屋は安心しただろう。だが、その声にも表情にも、感情という波は一切伺えず。
例えるなら、まるで死んだ沼のような凪。
ぞわり、とかすかに米屋はうなじのあたりの産毛が逆立つような感じすら受けた。だから。
「だったらちゃんと三食食えよ。サプリメントとクラッカーとかエナジーバーとかじゃなくて。腹がふくれたって、ろくに食ったって満足感はねーだろ」
掌で三輪の腹を軽く叩いてやる。
「それに、幾ら必要なカロリーとか取れてる気でも、体の末端からダメージが出るんだよ」
「……」
「……あの頃さ、俺は、爪が割れてきたんだ」
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