きみに咲く 防衛任務で三輪隊の戦闘員たちが担当エリアに向かう道すがらだった。
米屋がすでに四年人の手が入らなくなって雑草だらけになってしまった、どこかの家の庭先に咲いていた、三輪隊の隊服を思わせる色合いのそれに目を留めたのは。
「お、リンドウじゃん」
「……」
「何その目」
立ち止まった米屋より数歩先に行った奈良坂の端正な顔が驚いたような表情で彩られていた。
「いや、タンポポやサクラ程度ならともかく、おまえが花の名前を知ってるなんて珍しいなと思って」
「ひっでえ言い草」
米屋はからからと笑い、だが少しだけ様子を改めて照れくさそうに告げた。
「昔、教えてくれた人がいるんだ。薬にもなるし、こんなキレーな感じの花なのに竜の胆って書くんだろ、確か」
「それなら聞いたことがあります。リンドウは花も葉もとても苦いとかで、だから熊の胆よりも苦いから竜の胆、って」
「蛇ならともかく竜なんか食ったことある奴なんかいねーのに?」
「例えですよ、つまりは」
古寺が呆れたように応じる。
「でも花屋で見るのに比べると少し小さくないか?」
「……これはたぶん自然のリンドウだな。この家の人が山かどこかで見つけてくるかして庭に植えたんだろう。ああいう場所で売っているやつはそれ用に栽培されて背が高いものが殆どらしいから」
それまで繁茂した草に埋もれるように咲いた小さく可憐な花を黙って見つめていただけの三輪が淡々と口にした。かすかに柔らかな気配を、その黎明がにじんだようなまなざしに浮かべながら。
へえ、と奈良坂も古寺も三輪の言葉に感心したようにそれぞれ呟いた。米屋以外は。
「姉さんが好きだった花だったからな。さあ、行くぞ。五分前には現着したい」
感情の色を見せずにそれだけを言い添えた隊長の言葉に隊員たちはそれぞれ頷いて、止めた足を再び動かした。
「なあ、秀次。あれの花言葉ってさ、『悲しんでいるあなたを愛する』って言うらしいじゃん」
「……らしいな。本当によく知ってる」
「ホント、オレもよく忘れなかったと思うよ。その人に教えてもらったのは五年以上前なのにさ。けどさ、オレは悲しんでようが怒ってようが、好きな奴は好きだけどな」
それだけを三輪に囁くと、さて一番首を貰うかね!と米屋は視線の先にじわりと開こうとする門に向かって爽籟のように駆け出した。