150年越しの喧嘩をしよう【杉尾】記憶持ち現パロ
あんこう鍋が現世では吐くほど嫌いな尾形がいます。
杉→尾へのヘイト低め
二人ともリーマンしてます。
■
「お前…、もしかして尾形?」
忘年会の帰り道。二次会を終え泥酔した同期の男を支えながら繁華街を歩いていた杉元は、店前で蹲っているサラリーマンの男に思わず声を掛けた。
「ぁ…?」
特徴的な髪型、顎の傷、髭、深海に響く子守唄のように低い声色
前世の因縁、最悪のトリックスター
不機嫌そうな、しかし確かに聞き覚えのある口調で顔を上げた男はやはりどう見たって”尾形百之助”で。
「お前……。杉元佐ぃう゛え…っ」
「は⁉ちょ、え、なに人の名前呼んで吐いてんの!?いや、ええ…おい大丈夫かよ…」
笑ってしまうほどに酷い顔色をした尾形は両手で口元を抑えながら勢いよく胃の中のものを吐き出した。
杉元は同期をそこら辺に座らせて、グレーのスーツの背を擦ってやった。
横顔はあの頃のままで、ただ違うのは重厚な香水の香り。
それがやけに尾形の魅力というか、そういったものを引き立てている気がした。
そうだ、コイツ色気あるんだったわ。
盛大にゲロを吐いている尾形の顔を、杉元はなんだか複雑な気持ちで眺めていた。
■
「落ち着いたか?」
「……ああ。」
「そんな飲んだの」
「いや…。ああ」
「ふーん」
時折チカチカと点滅を繰り返す外灯の下
少し湿った木のベンチの上で二人は並んで座っていた。
目の前には昼間に子供が忘れて行ったのであろうサッカーボールがぽつんと落ちている。
杉元は結局あの後、同期を先を歩いていた同僚に預け、尾形を近くの公園まで運んでやった。
自販機で買った水を何度か口に含んだ尾形はようやっと落ち着いたのか、背もたれに背を預け、襟元を緩めた。
「…覚えてんの?」
「あ?」
「だから、覚えてんの?…前世のこと」
「はは、気でも狂ったか?」
「?!覚えてるから俺のこと分かったんだろうが!」
「声がでけぇ…、覚えてたらなんだ、俺を殺すか?なあ、杉元佐一ィ…」
両ひざに肘をのせ、前屈みになりながら隣の杉元を見上げる尾形はあの頃の、あの散々人を煽り散らかす笑みで。
「ッ…、殺さねえよ。」
杉元は一瞬、腹の底からグワリと上がった怒りを無理矢理鎮めた。
尾形は明らかに一瞬殺気を纏った彼が首を振りながら背もたれへ寄りかかる姿に少しだけ驚いたように目をぱち、とした。
「お前、他に誰かに会ったか?」
「いやあ?」
「そうか。…俺はな、白石とアシリパさんに会った。3年前くらいかな。俺は産まれたときから前世のこと覚えてたから、尾形ともしまた再会したら今度こそぶん殴ってやるって思ってた」
「物騒なガキだな」
「でもあの二人と話してくうちに、今世は今世だって割り切ることにしたんだよ。だから、お前のことはすげえ腹立つけど、別に今更殺さねえよ」
「……そうか。それは何よりだな」
尾形はなんだか少しだけ変な顔をして、そうして残りの水を一気に煽った。
「お前、ここら辺で働いてんのか」
「んあ?そうよ。」
「そうか。…ハンカチ、また会ったときにでも返す。じゃあな」
「あ、おいッ、待てよ」
「なんだ…」
さっさと立ち上がり帰ろうとする尾形。
杉元が腕をつかむとまだ何かあるのかとでも言いたげな顔で振り返り見つめてくる。
ああ、やっぱりこいつ、少しだけ柔らかい雰囲気になったんだな。
戦争は、殺意は人をおかしくさせる。それを除いた彼と対峙すると、なんだかやはり、違うのだ。きっと恐らく、アシリパさんたちからみた自分もそうなのであろう。
「また会ったときっていつだよ。もうあの頃じゃねえんだから、普通に連絡先交換しようぜ」
「あ?」
「減るもんじゃねえしいいだろ」
「俺と、お前が?連絡先交換?」
「…なんだよ」
「いや、必要ないだろ。」
「いーんだよ。ほらスマホ出せ」
「お前の連絡先なんぞいらん」
「はー、誰かさんのせいで俺終電逃して徒歩で帰らなきゃなんねえのになー。誰かさんが自分の酒の量も分かってねえから。あーあ仕方ねえなー」
「……チッ」
結局しぶしぶ、本当にしぶしぶといった様子でスマホを取り出した尾形と連絡先を交換した。
「今度飯行こうぜ」
「…お前、マジでなんのつもりだ……」
「ハンカチ、洗って返してくれるんだろ?どうせ会うなら飯くらいいーだろ」
「飯に行く理由がな…いや、もういい…俺は帰る。」
「またな尾形」
「…あと俺は別に酔っぱらってない」
「え?」
そう言って寒空の下帰っていく尾形の背を杉元は暫くぼんやりと見つめ
「じゃあなんであんなとこいたんだよ」
杉元はあんこう鍋屋の前で蹲っていた尾形の姿を思い出しながら首を傾げた。
■
「…マンデリン」
「俺アイスカフェラテで」
「ふっ、女か」
「うるせえよ」
尾形から送られてきたURLを頼りに辿り着いたカフェは、入口こそ狭いというのに通された地下は驚くほどに広く、そして薄暗かった。
バロック調の店内は壁に恐ろしく細かい装飾が施され、オレンジ色の暖かくも暗い照明によってその一つ一つの影を余計に濃くしている。地下空間へ降りる踊り場付きの階段も黒のバロック調の装飾が施されていて、こんな場所にこんな店があったのかと杉元は踊り場からフロアを見下ろして少し惚けた顔をしてしまった。
週末なので店内は少し騒がしいが客層の関係かうるさいと感じるほどではない。
店員が通路を通るたび、客の吐いた煙草の煙が低く靡いていた。
そんな中に尾形はいた。
ブラックのチェスターフィールド型の一人掛けソファに座った尾形は黒のタートルネックにグレーのセットアップというシンプルな格好をしていて、少しだけ前に垂れた前髪が空間も相まってやけに色気を醸していた。
(休みの日までスーツみたいな格好してんの疲れねえのかな)
杉元はキャップにトレーナー、太めのパンツという尾形とは真反対のような格好をしながら尾形の向かいへと座ったのだった。
「で、何してんの。今お前」
「もう忘れたのか?サラリーマンだ。」
「いや、それは分かるけど。あんじゃん、色々。業種とか、あ、年齢とか」
「なんだ、今日は見合いか何かか」
「アイスブレイクだよ馬鹿。相変わらず嫌味な奴だなお前」
「ははあ、傷つくぜそれは」
尾形は落ち着いた様子で運ばれてきた珈琲に口をつけ、煙草の灰を灰皿へトン、と落とした。
杉元はガムシロップを入れたカフェラテを飲みながら自分の話をした。
食品関係の営業をしていること、歳は26で狭いアパートで一人暮らしをしていること。
前世の話はしなかった。あのあとどうなったかなど、尾形はさして興味もないであろうし、杉元にとって大事にしたいのは〝今〟であるから。
尾形は興味もなさそうに杉元の話をきき、丁度杉元が一通り話し終えたタイミングで吸っていた煙草が殆ど灰になったので灰皿へグリと押し付けた。
そうしてゆっくりとした動作でコーヒーカップに口をつけながら杉元を上目でちらりと見た。
「なんだ」
「俺が話したんだから次お前の番だろ」
「そんなに俺のことを知ってどうするんだ」
「〝また〟言えない様なやましいことしてんのかよ。」
「昔のことは水に流したんじゃなかったのか」
「…悪い」
売り言葉に買い言葉
この男と話しているとつい思ってもいないことが口をついて出てしまう。
…いや、思っていないわけではない。
思っていないことは話せない、思っていても言わないほうがいいとわかっているから止めている言葉が、止める前にでてしまうだけで。
杉元がほんの少しバツの悪そうな顔をして頬を掻いたのをみた尾形は、素直に自分に謝る杉元に驚いて少しだけ目を丸くした。
そうしてカップをソーサーに置き、首をグルと回して溜息を溢してから「俺も営業をしてる」そう仕方なさそうにいった。
「え、お前も!?尾形お前、営業なんてできんのかそんな仏頂面で」
「随分だな。これでも成績はトップだぜ」
「ト、ッ…ええ…マジか…何系?てか何歳なのお前いま」
「内装。まあコンサルに近いな。今年30になる。敬ってくれてもいいんだぜ杉元」
「マジかよ30…。あーでも、成程ね。だからこういう店知ってんだ。」
「ん?ああ、ここは別に。’コレ’が吸えるから気に入ってるだけだ」
尾形は杉元の反応に少し首を傾げ、それから薄く笑ってテーブルの上に置かれた煙草のケースを人差し指でトントンと叩いた。ケースの上に置かれたシルバーのジッポライターが少しずれる。
(わら、笑った…!?)
杉元は思わず顔をそらして自分の足を見た。
あの尾形が、笑うときは何かを馬鹿にしたように鼻で笑っていた奴がただただシンプルに笑った。
見たことなかった。いや、まああの時代、あの関係性で杉元に素直な笑みを浮かべるわけないのはそれはそうなのだが。
視線を戻すと、尾形はすっかり先程までの仏頂面に戻ってしまっていて、新しい煙草に火をつけていた。
まだいてくれるつもりらしい。
元々乗り気ではなさそうな尾形から無理くり連絡先を交換し、貸したハンカチの返却を名目に集まったので、さっさと帰ってしまうかと思ったのであるが。
「あーそういえばさ。一個聞きたかったんだけど」
「なんだ」
「尾形あの時何してたんだよ。酔ってねえって言ってたし、シンプル体調不良だったのはわかったけど」
テーブルについたグラスの水滴を無意識におしぼりで拭き取りつつ話題を振る。
営業マンの癖だ。
「…ああ、部署の忘年会だ。あの店が会場だった。食った後気分が悪くなったから、ああしてた」
それだけだ。そういって尾形は話を切り上げた。淡々と、視線も合わせずに。
あまり話したくない話題だったのだろうか。
杉元がこの後の話題を考えあぐねていると尾形は歩いていた店員を呼び止め、「ブルーマウンテン」と注文した。
どうやらまだ暫くいてくれるらしい。
「あのさ、何で来てくれたの」
「…は?お前が呼んだんだろ」
「いやそうなんだけど。お前のことだから連絡先交換してそのあと無視とか普通にしそうだったし…。まさか店まで指定してくれるって思ってなかったから割とびっくりしてる」
「…お前が俺を殺すつもりがないといったからな」
「え、それが理由!?」
「誰だって殺されたくはないだろ」
「あんだけ殺してた尾形が…」
「ははあ、それはお互い様だ」
杉元は少しだけ肩の力を抜いた。
自分から呼んでおいてアレだが、正直ずっと緊張していた。
元々宿敵だった相手だ。
何がしたいのか、何故そう動くのか、全く読めないコウモリ野郎
それが同じ見た目、声色、記憶を引き継いで目の前にいるのだ。
久しぶりに会うことのできた元顔なじみといったって白石やアシリパとは訳が違った。
だが、彼が今日ここへ来た理由は単純だった。
表情からも声色からも、特段何かを含んでいる様子はないし本当に〝殺されないから来た〟ただそれだけだったらしい。
結局杉元らはそのあと次の約束をした。
今度は夜、週末の仕事終わりに飲みにでも行こうと。
誘ったのは杉元からであったが、尾形もまあ、まんざらでもない様子であったので、杉元としては大満足である。
■
「え、尾形ちゃんと会ったの?いつ?!」
「先月。この前飯も行った。ほら」
「え、わ、変わんねえなあ…。なに、尾形ちゃんいま何してるの?」
「サラリーマン。あ、これ美味しいよアシリパさん。」
「杉元、外では明日子と呼べと言ってるだろ」
「んあごめーん…」
日曜日
天丼屋の四人席に座って昼食をとる三人
この店は杉元の行きつけで、三人で遊ぶときはここに来ることが多かった。
タレのよく染み込んだ米と、揚げたてのサクサクとした天ぷらを掻き込みながら(そういえば…)と尾形に会った話をした杉元は、驚いて米をのどに詰まらせた白石に飯に行った際に取った尾形の写真を見せた。(居酒屋の半個室でカメラを向けられ死ぬほどイヤそうな顔をしている尾形が写っている)
アシリパはほんの少し前に杉元から話を聞いていたため、特段驚くことはせずただただデカイエビ天が8本も乗った天丼に目をキラキラさせ、はふはふもぐもぐむぐむぐと必死に食らいついていた。
「でもさあ、不思議だよねえ」
「なにが」
「いや、尾形ちゃん、杉元以外誰にも会ってないって言ったんでしょ?」
「ああ」
「鶴見陣営も土方たちも誰もこっちにいないのかねえ」
「全員地獄でまだ臼でも引いてんだろ」
「みろ杉元!白玉が6個も入ってるぞ!」
「よかったねえアシ、明日子さん」
大盛りの天丼を食べ終えた杉元と白石は茶を飲みながら
アシリパが食後のデザートとして頼んだ白玉ぜんざいを食べ終えるのを待った。
白石は現在無職、アシリパは大学3年生だ。明日子という名で生活している。
今世では父であるウイルクも健在なようで、家族そろって暮らしている。
杉元が偶然アシリパのアルバイト先であるカフェに商談で入り、商談そっちのけでアシリパさん!!!と叫び再会を果たした(商談は破談になったしアシリパはバイト先でのあだ名がアシリパになってしまった)。
白石は房太郎と競馬場にて再会し、丁度家賃を滞納して家を追い出されそうだったのでそのまま房太郎の家へ転がり込んで生活しているらしい。房太郎が家を空けるときは杉元の家によく泊まりに来る。
マアそんな感じで、偶然なのか宿命なのか、当時の杉元陣営は割と再会を果たしていた。
だからてっきり第七師団の連中も何かしらの形で再会しているのだと、そう思っていた。
が、違ったらしい。
少なくとも尾形はまだ杉元以外とは会えていない。
(あいつ、ずっと一人で、記憶だけ持って今日まで生きてきたのか…)
杉元は温くなったお茶を飲みながらぼんやりと尾形の心情をほんの少しだけ想像した。
自分だって白石たちと再会したのは3年ほど前だ。
それまではずっとあの頃、金塊争奪戦を、戦争を思い出していた。
吹き飛ぶ仲間の身体、砲弾の音、号哭。撃たれる感覚。それらを思い出すたびに、夢に見るたびに飛び起きて、バクバクと跳ねる心臓を抑えていた。
ただ、当時の杉元には終わりがあった。明確に、幸せな終わりがあった。
終わり良ければ総て良しとよく言うが、杉元からしても自身の人生というものは振り返ればそうであった。
だが、尾形は。
アイツは、あの暴走列車の上で自分の目を撃った。
アシリパさんの毒矢とは訳が違う。眼球も脳もぶち抜いたに違いない。
消息こそ分からなかったが、恐らくあいつはあの時死んだ。
尾形、お前は何を思って死んで、何を思って今日まで一人で生きてきたんだ。
そう考えると、杉元は途端に尾形に会いたくなってしまった。
訳の分からないコウモリ野郎
そう思っていた彼のことを、150年あまりの時を経て知りたくなったのだと言ったら、お前は笑うだろうか。
■
尾形は目の前で大きな口を開けてハンバーガーにかぶりつく男を見ていた。
ぐわ、と口を開き、パティが3枚、分厚いレタスとトマトに焦げ目のついたたまねぎ、とろけたスライスチーズにオーロラソースがたっぷりかかったハンバーガーを両手でしっかりと持ち黙々と食べている。
熱々のポテトをたまにつまんで、コーラの入っているカップをもってゴクゴクと喉を鳴らして流し込んでから再びハンバーガーにかぶりつく。
相当お気に召したようで、目尻には微かに皴ができている。
尾形は高校生みたいな勢いで食べ進める男を見ながらSサイズのポテトを摘まんだ。
アメリカンダイナーな雰囲気の店内で真っ赤なソファに座る尾形は自分がかなり浮いていると自覚しているし、目の前の男は似合いすぎている。
今世でも顔に特徴的な傷をこさえているこの男は杉元佐一
前世で散々殺しあった男だ
真冬だというのにパーカー一枚と無地のマフラー、ズボンにスニーカーという馬鹿か高校一年生くらいしかしないような格好で待ち合わせ場所に訪れたコイツは26歳らしい。
その年齢でその装いは大分厳しいものがあるだろと思うのであるが、先程から店の店員がチラチラとコイツのことを見ているのをみるにコイツはこの顔でいままでファッションセンスのなさを帳消しにしてきたのだということがうかがえる。
コイツと出かけるときは大体隣を歩きたくないような格好をしてやってくるのであるが、その鍛え抜かれた体格と恵まれた身長、容姿によって周囲の人間の視線を集めに集めるので、尚更隣を歩きたくなくなるのだ。
しかしまあ、いい加減それにも慣れてきた。なんてったってコイツとこうして会うのはもう3度目になる。
一度目はカフェ、ないと思っていた二度目は仕事終わりの居酒屋。
そうして三度目の今日。
土曜日の昼間、渋谷に呼び出された尾形は軽く人酔いを起こしそうになりながらも杉元について行き、やってきたのがこのハンバーガー屋である。
駅から近くもないので客はまばらで、店内には薄く流れる洋楽のプレイリスト。内装のわりに雰囲気は落ち着いていた。
尾形はポテトを食べ終わり、一緒に頼んでいたホットコーヒーのカップに口をつけた。
「はー、うまかった…!ずっと気になってたんだよこの店。」
「そりゃあよかったな」
「…こういう店苦手だった?」
「は?何だ藪から棒に」
食べ終わった包み紙を小さく正方形に折り畳み皿の隅っこにゴミをまとめた杉元は、どこかシュンとした様子で尾形を見た。
大型犬がはしゃぎすぎて物を壊して怒られたときみたいな顔をしているのだ。
尾形はこの瞬間まで大層ご機嫌であった男がなんだか勝手に落ち込んでいるというか、気を遣ってくることの意味が分からず首を傾げた。
「俺が来たくて連れてきただけだからさ、尾形こういう店好きじゃなかったらアレかなーって」
「食い終わった後に言うか?それ。」
「う…」
「ふ、別にいい。一人だったら絶対入らない店というだけだ。悪くはない」
「!じゃあさ、ちょっとデザート買ってきてもいい?」
「は、まだ食うのか」
「いやあここのシェイク有名でさー、尾形も飲む?」
「いらん。」
尾形が嫌がっているわけではないとわかった途端、杉元はすっかり元の明るい表情に戻り財布をもってレジへ向かった。
尾形はコーヒーを飲みながら窓の外を眺め、そうして
(なんだって俺を誘うんだ…)
と、ここ最近の疑問について考えていた。
確かに自分と杉元は前世でつながりがあった。
しかし、そのつながりが綺麗なものであったかと聞かれればそうではない。
アイツにとって綺麗なつながりといえばアシリパや白石なんかであろうし、少なくとも自分は〝綺麗〟の反対に立っていた人間のはずだ。
杉元からみても、金塊争奪戦全体で見ても。
買える怨みは全て買った自信がある。
だというのに。
杉元は俺を飯に誘う
一回目のカフェのあと、「今度は飲みな!」といった杉元の言葉を完全に社交辞令だと思って流していた尾形は、二日後に居酒屋のURLが送られてきたことに白目を剥いた。
そしてさすがにもう誘われることはないだろうと思っていた矢先、「週末暇?ハンバーガー食える?」と連絡が来たのだ。
無視しても良かったは良かったのであるが、、まあ、なんだか、尾形は随分と連絡先が寂しい男であるので。
意図は分からなくとも、こうして定期的に連絡をくれて外に連れ出してくれる存在というのはなんだか切りがたかったのだ。
だが、意図が分からないから意味が分からないということに変わりはない。
何か特別相談ごとがあるとか、昔の話をするわけではないのに、コイツは何だって俺を…
やけに今どう過ごしているのか聞いてくるし、好きな食いもんだとか好きな場所だとかそんなことばかり話題に上がる。
なんだ?コイツ…、もしかして弱みでも探ってんのか?
「ははあ…」
尾形はふ、と息を吐き出しながら背もたれに背を預け、そっと髪を撫でた。
150年ぶりだ
150年ぶりにコイツ俺の命(たま)狙ってきやがった
吹っ切れたなんて嘘っぱちじゃねえか
銃も刀も簡単には手に入らねえ時代、情報探ってどこかの中尉の真似事か?
いいぜ杉元佐一、あの時の続きをしようぜ
「おまたせ、え、何笑ってんの怖い」
500mlペットボトルくらいの高さがあるパフェグラスになみなみ注がれた薄いピンク色のシェイクにたっぷりと生クリームが絞られちょこんとさくらんぼが乗ったバケモノみたいな飲み物をもって戻ってきた杉元は、ソファに深く腰掛けながらふふふと悪い顔をしている尾形に少し顔を引き攣らせた。
このあとただただ仲良くなりたい(下心には無自覚)杉元と、
マジで杉元がただただ復讐するために機会をうかがっているのだと誤解してる尾形のすったもんだがある。
アンコウ鍋のトラウマを克服させたいし、杉元の会社がオフィス移転するにあたって内装を依頼したコンサルとの打ち合わせで〈花沢百之助〉として現れた尾形に「えっお前今世〝尾形〟じゃねーの!?」って叫ぶ杉元とか書きたかった。
でもお洒落なカフェ知ってる尾形とかめちゃくちゃご飯食べる人間をたくさん書きたかったのでもう満足です。愛してるよ尾形。