ラスト・ラブ・レター「他人宛てのラブレターを大事に保管し続ける理由って何だろうね?」
「誤配ですか? 正しい宛先がわかるなら、僕が届けてきますけれど」
「あ、ごめん。トランスポーター的にはそうなっちゃうよね」
執務室に立ちのぼるのはあたたかな紅茶の香りとバターと香辛料の優しい甘さ。書類の山を端へと――このひと時だけでも視界から外したかったのだ――押しやりながら、ドクターはふと本日の秘書役へと雑談を振った。
「もう全部開封されてて、多分正しく届けられた後だと思うんだ。だからもう手紙としての役割は終わってる」
「ですがご自身宛てのものではない、と。安直ですが偽名を使った秘密のお手紙でしょうか」
カップを片手にイトラ特有の細い耳を揺らす彼もまた、機密の輸送に携わる身だ。こういう反応が返ってくるとわかっていてしかるべきだったというのに、本日の自分はどうもぼんやりしてしまっているらしい。
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