受け継がれるもの 練白龍が去った後、次の面談先へと元気よく歩くティトス様とは裏腹に、色々と考えあぐねてしまう自分がいた。練白龍は割合、裏表がない青年だ。今回の訪問もどちらかと言えば公人としての彼ではなく、私人としての立場に近いのだろう。だからこそ、あそこまでさらけ出したともいえる。しかし、自身が腹の内を掻っ捌いたようなものだからと言って、それを、同じだけのことを相手に求めさせるのはあまりにもリスクが高すぎる。落ち着いたと思ったが全くそんなことはない。やはり練家の男だと、かつての紅炎を思い出す。
「ムー」
くるりとティトス様が振り返った。丸い瞳をこちらに向けてじっと見、そして俺の顔に手を伸ばそうとしていたためすぐに屈む。なんでしょう、と言えば少しだけ笑って口を開いた。
「怖い顔してるよ。ボクは君が笑っている方が好きだな」
ムー、笑って。私はあなたの笑っている顔が好き。
涙が、次から次へと溢れて止まらなかった。暖かい手に触れられて、温かい言葉をかけられて、同じであるが違う声で、違う言葉で、しかし確かに自分を思いやる心は同じだったからだ。
「え、ど、どうしたのさ!?」
「いえ、いえ、」
オロオロと焦る主人を俺は止められなかった。成人の男が突然目の前で泣き出したら、驚くのは当たり前だ。どちらかといえば怖かっただろう。そもそも主を困らせないのが、本当の俺の務めなのだろう。
けれど無理だった。生まれた時からずっとずっと傍にいた、守ってきた、俺を世界に繋ぎ止め、守られてきた人が今も生き続けている。意志として彼の中に在り続けている。なんでもないのですという言葉はのどに詰まって、ただ消えていった。
いまも、彼女は彼の中にいる。受け継がれ、生きている。それが嬉しくて、ー寂しくて、たまらないのだ。