幼年期回想 シーンA乳白色の壁面の物陰に身を潜め、四歳のサカキは渡り廊下の奥を怖々覗き込んだ。
遠くの方で、パタパタ……、と駆けて行く足音と慌てた悲鳴のような怒鳴り声がする。
「サカキ様! どちらにいらっしゃいますか!?」
サカキはその様子を満足したように見送って、くすくすと楽し気に笑った。戦利品である、事務用クリップでファイリングされた、A4サイズの書類を目の前に拡げた。
表紙には、〈PG 製造計画書〉という、小難しい字体が踊っていて、紙面の端にはホムラシンク、ホムラヒミコという連名が記されている。四歳のサカキにとって、読めたのは両親の名前だけだ。生まれつき身体が弱く、熱病を度々繰り返すのが常のサカキはその日、珍しく体調が良い日だった。体調が良い日に、いつものように自分の部屋に籠って一人で遊んだり、勉強をしたりするのは退屈だ。こういう日、サカキはロケット団の団員である大人たちの誰かに構って欲しくて、よく悪戯を仕掛けるのだ。
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