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    ririri_enst

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    (薫くんの接待疲れの別パターン的な感じで書き終えたいやつ)退寮後同棲設定

    #朔間零
    Rei Sakuma

    零ちゃんが倒れる話疲れた、その一言にすぎる。ポケットからスマホを取り出し画面をつけると時刻は深夜二時半を回ったところだった。二十歳の誕生日を迎えてからと言うものの、お偉方との接待では酒を勧められ飲まされることも増えて来た。打ち上げだのなんとか会だの、理由をつけては飲み会を開くことが多い環境で、しかも二次会三次会まで続くことはザラにあるのだ。今日も「朔間くん、UNDEADのこれから先のことで話をしたいことが山ほどあるんだ。そのついでに一緒に食事でもどうだい?」と笑顔で含みを持たせた上層部の人間に誘われれば「ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」以外に言えるはずもなく。天使のように可愛らしい顔をして悪魔のようなことを言う傍輩の方が数百倍も面白い話を聞かせてくれるだろうと思うくらいに下卑たくだらない話が続くのだ。愛想笑いを貼り付けながら浴びるように酒を飲まされ、こちらが抵抗できないのを良いことにあられもないところまで手を伸ばされたりもしたのだが、怪しい薬を盛られてホテルに連れていかれることも泥酔することもなくなんとか薫と住む家まで辿り着けたのは褒められたことだろう。
    静かに鍵を開けて家に入ると灯りは既に消えていた。薫は次の日がオフであれば筋トレや柔軟で体づくりをしていたり、出演するドラマの台本チェックであったり雑誌を読んだりして少しでも戦える武器を増やそうとしていることが多い。なんだかんだで自分に合わせて夜遅くまで起きていてくれることもあるが元来早寝早起きなタイプなようで、こうして帰りがかなり遅くなると連絡を入れている日は先に眠りについていることが多い。リビングの電気をつけるとテーブルの上にメモ書きが置いてあり、そこには『零くんおかえり。今日は遅くまでお疲れさま。いつもありがとう。ごめんね、今日は先に休むね。薫』と綺麗な字で綴られていた。薫が手慣れているSNSのメッセージアプリで送れば数秒のことだろうに、薫の性格を表したかのように流れるような丁寧な字で書かれているのを見れば頬が緩むのも致し方ない。先程まで家中の電気が全て消えていたためひんやりとした廊下を進み、なるべく音を立てないように寝室を覗いてみるとベッドに丸い膨らみがひとつあった。起こさないようにそっと近くまで寄るとすうすうと規則正しく寝息を立てている。年齢よりも幾分幼く見えるその寝顔は薫との共通の友人曰く「あかちゃんみたいなねがお」だ。しっかり手入れをされた艶のある髪に指を通し、まあるい頭を優しく撫でてやる。子供扱いをしないでほしい、と言われるのは目に見えているのだがこうして零は自分の隣にいてくれる大事な存在を守りたいと心の中でいつも誓うのだ。


    ***


    ライブが終わり、楽屋のドアを開けたその時だった。
    「…かお…く…」
    蚊の鳴くような声だったように思う。その刹那零が視界から消えた。身体をドンッと強く床に打ちつけそのままピクリとも動かなくなったのだ。
    「零くん!?」
    誰かがヒュッと息を呑む音だけが響く。
    「っ、だれか佐賀美先生を呼んできて!零くん!零くん!聞こえる!?零くん…っ!」
    「羽風先輩!頭を揺らしちゃ駄目だ!」
    衝動的に零の肩を掴もうとした瞬間、晃牙のひと言で我に返る。
    「おい先輩しっかりしろ!今アドニスが椚のヤロ〜に連絡を入れてる!俺様は裏で待機してる佐賀美のヤロ〜を呼んでくるから羽風先輩は朔間先輩から目を離すなよ!何か変化があったらすぐに俺様のスマホを鳴らせ!良いな!?」
    「う、うん…」
    慌てふためく事なく状況判断をして楽屋を飛び出して行った後輩に冷静さを失っていたことに気付かされる。ひと呼吸置き零の頭部に目をやると幸い頭は打っていないようで、どこからも出血は見られない。
    「零くん、零くん…起きて…っ」
    肩を叩いて何度呼びかけても全く反応を示さず屍人のように青白い顔をしているその姿に自身の手が氷のように冷たくなり震え始める。
    「羽風先輩。大丈夫だ、もうすぐ佐賀美先生が来てくれるはずだ。その前に朔間先輩を横にさせよう、その方がきっと楽になる」
    連絡を終え戻ってきたアドニスも零が倒れ恐怖も焦りもあるだろうに、ゆっくりと落ち着いた声音で薫だけではなく自身にも言い聞かせるように呟いた。
    「そう、だね」
    一度深呼吸して冷静でいられるよう心がける。アドニスに楽屋に置いていたタオルを取ってもらい床に敷き、その上に零をそっと寝かせベルトや衣装の締め付けを解いていく。その間も零はされるがままで、血の気を失ったままだった。零のことは普段から端正な顔立ちだとは思っているが、目が閉じられ動くこともないといよいよ作り物のようだ。いつものことではあるが零は何故ここまで体調が悪いことを悟らせず独りでがんばってしまうのだろう。年上だから?リーダーだから?一族の思いを背負い率いる立場の人間だから?そういった理由でやはり誰かに頼ることや甘えることが出来ないのだろうか、幼い頃からそうして甘えてきた経験が少ないのだろうか。そんなことを考えながら靴を脱がせ、椅子に足を上げてやり、気道を確保するために零の頭を少し反らしてやる。以前万が一零が目の前で倒れた場合どう対処するかを勉強しておいて良かったと過去の自分に感謝した。それと同時に意識を失った人間はここまで重くなるのだと改めて思い知った。
    顔色の悪い零を見続けて数分ほどそのままだっただろうか、ドタバタと足音が近づいてきて楽屋のドアがバンッと大きく音を立てる。
    「羽風先輩!連れてきたぜ!」
    「朔間大丈夫か〜?佐賀美だけど聞こえるか〜?俺の声が聞こえたら手を握ってくれ〜」
    晃牙に礼を言い零の方へと視線を向けると陣は間延びしたゆるい声かけをしつつ零の首に手をやり脈拍の確認を行うなど的確に動いていた。陣は零が在学中の四年間で度々世話になっていたこともあり、零の体質もよく理解しているので今この場に居てくれるだけでかなり心強い。あれやこれやとしているうちに零が若干ではあるが意識を取り戻したようだ。力の入らない手が陣の白衣を掴む。陣が零の口元に耳を寄せているがどうやら何かが嫌だと訴えているらしい。
    「…あぁ、わかった。じゃあ今のところは医務室に運ぶだけにするから」
    零の出す声は音が伴っていない。先ほど倒れる寸前に聞いた声よりも更に小さく、何を言ったのかすら聞き取ることが出来なかったが恐らく救急車を呼ばないでほしいだとか病院には行きたくないだとかそういう内容だろう。零はまた白衣を掴み、陣に耳打ちする。
    「あ〜…それはダメだ。おまえさんには悪いが覚悟してくれ。じゃあ背負うからな〜」
    アドニスに支えられ、やっとの思いで陣に背負われた零はぐったりとしたままでいつもの姿とはかけ離れていた。
    「朔間、出来るだけしっかり捕まっておけよ〜。あ、羽風はこいつの荷物を持って一緒にきてくれ〜」


    「入るよ」
    その声は十分すぎるほどに聞き覚えのある声だ。それこそ親の声より聞いた、とでも言えば良いだろうか。まぁ実際その通りなのだが。
    「ねぇ兄者、自分で勝手に大丈夫って決めつけて俺たちの前では平気そうな顔して格好つけて体調が悪くなったら隠れたり一人でどこかに消えたりする悪癖まだ治ってないの?」
    「俺はあんたが体調悪いかどうかなんて一目見たら分かるんだよ。お偉方に元気そうに見せる素振りは完璧だよ?でも俺はあんたと兄弟なんだ。家族のことを心配すらさせてもらえないこの気持ち、あんたにわかる?」
    「兄者が倒れて目を覚さないって聞いた時、薫さんがどれだけ酷い顔してたか想像できる?はぁ…もういい、あんたなんか薫さんに説教されれば良いんだ」
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    ririri_enst

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    零ちゃんが倒れる話疲れた、その一言にすぎる。ポケットからスマホを取り出し画面をつけると時刻は深夜二時半を回ったところだった。二十歳の誕生日を迎えてからと言うものの、お偉方との接待では酒を勧められ飲まされることも増えて来た。打ち上げだのなんとか会だの、理由をつけては飲み会を開くことが多い環境で、しかも二次会三次会まで続くことはザラにあるのだ。今日も「朔間くん、UNDEADのこれから先のことで話をしたいことが山ほどあるんだ。そのついでに一緒に食事でもどうだい?」と笑顔で含みを持たせた上層部の人間に誘われれば「ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」以外に言えるはずもなく。天使のように可愛らしい顔をして悪魔のようなことを言う傍輩の方が数百倍も面白い話を聞かせてくれるだろうと思うくらいに下卑たくだらない話が続くのだ。愛想笑いを貼り付けながら浴びるように酒を飲まされ、こちらが抵抗できないのを良いことにあられもないところまで手を伸ばされたりもしたのだが、怪しい薬を盛られてホテルに連れていかれることも泥酔することもなくなんとか薫と住む家まで辿り着けたのは褒められたことだろう。
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