期限付き〝恋人ごっこ〟する~(以下略)③ 夏に発売予定のアルバムは、休止前最後のツアーの主題となる大切な一枚だ。
HiMERUはESビルに併設されたレコーディングスタジオへと急いでいた。腕時計が示す時間は十六時を過ぎたところで、開始予定時間を越えてしまっている。撮影が押してしまったからなのだけれど、自分のせいで集まってくれているスタッフのリスケをさせてしまうのはいただけない。
スタジオの重い扉をグッと力を入れて開くと、中からリード曲のメロディと歌声が聞こえてきた。思わず小さく息をつく。良かった、こちらもまだ前の誰かが終わっていなかったらしい。
(この声……)
すぐにわかった。一語一語が聴き取り易い、力強くはっきりした発声。きちんとボイストレーニングを積んでいなければ出せない声。
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